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おじさんと僕②

最近おじさんを見かけない。

Bくんから聞いた話では

おじさんは海外に旅行に行ったみたい。

あれからおじさんに螺鈿を教えてもらったり、

おうちにいって一緒にテレビゲームしたり

Bくんとは仲良くしている。

今日もBくんと小学校でウサギのえさやり。

学校の日でもお休みの日でも、

みんなで育てているニワトリやウサギ達の

お世話は欠かせない。

お家からキャベツや菜っ葉を

持ってきてのえさやり

もりもり食べるウサギを見るのは

可愛くて仕方がないから

Aくんはウサギばっかりにかまってしまう。

ニワトリも元気いっぱい。

小屋の中を駆け回っている。

B「あっ!」

Bくんの声に驚いてニワトリ小屋に駆け寄ると、

ニワトリが卵を温めていた。

いつもなら、卵は給食のおばちゃんに

持っていくけど

あいにく今日はお休み。

AくんとBくんはそのまま

そっとしておくことにした。

A「ヒナが産まれるかな?」

B「産まれたらいいな。

  なんて名前付けようか。」

誰も知らない秘密が出来たみたいで

嬉しく思った。

その日からニワトリも気になった。

朝登校したら、

まずニワトリ小屋のチェックから。

A「今日も温めているね。」

B「いつ産まれるかな」

毎日毎日楽しみでしょうがなかった。

1週間…

2週間…

3週間…

いつもはウサギの葉っぱを食べる

モサモサを見るのが楽しみだったけど

卵からヒナが産まれる瞬間が

待ち遠しくて待ち遠しくて

2人は飼育係を一生懸命頑張った

先生はなんだかよく分からないけど、

二人がなぜだか頑張ってる姿を微笑ましく思った

廊下を歩いていると

給食室から

給食のおばちゃんが先生を呼び止めた

給「最近卵持ってこないけど、

  子ども達が盗ってないだろうか」

先「そんなことないと思いますけど…」

給「ちょっと見てきてくれない?」

先生は仕方がなく、

ニワトリ小屋に様子を見に行った。

AくんもBくんも姿はなかったが、

よほど頑張ったのか

綺麗な小屋の中の餌箱に

てんこ盛りに餌がはいっていた。

くすっと笑った。

ニワトリが大事に卵を温めているのに

気がついた。

なんとなくAくんとBくんが頑張っている理由が

分かった気がした。

職員室に戻ろうと

給食室の前を通ったら

再び給食のおばちゃんに呼び止められた

給「どうだったの?」

先生は

ニワトリが卵を温めていたことを報告した。

そこに偶然、Aくんが

忘れ物を取りに帰ってきていた。

給「そんなん育たんよ。

  あっつい中で腐ってるわ。」

ショックを受けるAくん

先生も困った顔をしている中、

給食のおばちゃんが続ける

給「卵育てるにも時間掛かるんよ。

  夏の暑い暑い中で

  ちゃんと育つはずがない。」

「それはどうかな?」

Aくんが声の方を振り向くと

そこにはおじさんがいた。

おじ「ቀስ በቀስ እንቁላል በእግሩ ይሄዳል」

おじさんはなにやら分からない言葉を話す。

皆がハテナの顔で困惑しているのを見て

おじさんが慌てて続ける

おじ「あ。ごめんなさい。

   エチオピアのことわざでね。

   少しずつ卵は自分の足で動き出す。

   ってのがあってね。

   子ども達が一生懸命やっているのを

   大人が応援してやれないのは

   どうなのかな。

   自然孵化なら21日

   きっともうそろそろ

   ヒナが生まれてくるころだと

   思うけどな。」

ピー

ピー

ニワトリ小屋で小さな声が聞こえた気がして

Aくんは急いで小屋に向かった。

おじさんは

困惑している先生とおばちゃんに向かって続ける

おじ「にわとりでも卵でも

   一生懸命産まれようと頑張っている

   子ども達も一生懸命育てようと

   頑張っている

   きっとあなたも

   美味しい玉子料理を待っている子ども達の

   ため、卵を待っていたんでしょう。

   もう1ヶ月は

   卵産まないかもしれないけど。

   そのうち産みますよ。

   なんせ時間は一方方向だから。」

A「先生!ヒナ産まれてた!」

嬉しそうに走って戻ってきたAくんが

ヒナの報告してくれたのを聞いて

先生は嬉しく思った。

A「で、おじさんさっき何話したの?何語?」

眉間にしわを寄せて、

A君はおじさんに問う。

おじさんは笑った。ゲラゲラ笑った。


少しずつ、卵は自分の足で歩きだす

ቀስ በቀስ እንቁላል በእግሩ ይሄዳል
(カス バ カス ゥンクラル バイグル イへダル)



サポートがなんなのかすら理解できていませんが、少しでも誰かのためになる記事を綴り続けられるよう、今後ともコツコツと頑張ります!