日本の防衛力整備は無責任で幼稚な「買い物リスト

安保三文書(国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画)の改訂が大詰めなのだそうだ。年末までに何とかしなければならないという金切り声や、防衛費大幅増額に両手を挙げて歓喜する関係者の様子を眺めながら、「日本は国を守れない」という気持ちを強くしている。打ち出された防衛費の使途を見ても、国家の安全を守ろうとする強い責任感が感じられず、ひたすら買い物リストが作成されていく様は幼稚ですらある。

ロシアのウクライナ侵攻に触発されて、中国が台湾や日本に軍事的な触手を伸ばしはしないかとの懸念が生まれたのは無理もないことだ。日本は中国、ロシア、北朝鮮に囲まれており、それに備えるという認識も間違っていない。

しかし、何に対してどのように備えるのかとなると、整理が必要になる。

まず、中国、ロシア、北朝鮮とも日本を占領するだけの渡洋上陸作戦の能力はない。一方、日本を攻撃できるだけのミサイル能力は備えている。だから脅威はミサイルである。これこそ「いまそこにある危機」のはずだが、日本の防衛政策には「いまどうするか」がすっぽり抜け落ちている。

そのように整理すれば、「いまそこにある危機」に対して、次の4点を可及的速やかに同時進行させなければならないことは明らかだ。①ミサイル防衛、②反撃、③シェルター設置による通常弾頭ミサイル対策、④サイバー防衛、である。

日本の防衛政策が机上の空論に終始するのは、「平時の戦争」を戦っている感覚が欠如しているからだ。「平時の戦争」とは、外国に手出しを躊躇わせるだけの高レベルの抑止力を平時から構築していく営みで、それを実現できれば血を流す戦争を避けられるばかりか、外交的な発言力も強化することができる。

日本に「平時の戦争」の戦場にいる自覚があれば、不足している装備品などについて、同じ戦場にいる米軍に借りるのは当然のことだ。立場が逆なら、米国は日本に提供を求めるだろう。

ミサイル防衛を強化するため防衛省は2018年、「イージス・アショア」(陸上イージス)の導入を決定した。イージス艦のSM-3ミサイルを陸上配備するもので、陸上自衛隊が運用する。数に限りがあり、ミサイル防衛以外の任務もあるイージス艦の負担を減らし、2か所の配備で日本列島全域をカバーできるメリットは大きいと期待された。

ところが、2019年に配備先の秋田県新屋演習場の測量を防衛省がグーグル・アースでおこなったため実測値と誤差がある、と地元紙がスクープ。杜撰なやり方に地元の不信感が高まった。もう一つの配備先・山口県むつみ演習場でも、迎撃ミサイル発射時に使うブースターを演習場内に確実に落下させるため、ソフト・ハード両面の改修に莫大なコストと期間を要すると判明。結局、2020年6月に河野太郎防衛大臣が計画を白紙撤回した。

政府は仕切り直しとして2020年12月、陸上イージスに代わる「イージス・システム搭載艦」2隻の導入を閣議決定したが、2021年5月には総コストが9000億円近いとの試算結果が判明、2022年度予算の概算要求では建造費の計上は見送られ、ようやく2023年度予算の概算要求に設計費など関連予算を事前に金額を示さない「事項要求」として盛り込むことになった。

防衛省は2027年度末と28年度末に各1隻を就役させるとしているが、システムのテストや要員の習熟訓練期間を考えると実戦配備まで10年近くが必要で、その間、日本はミサイルの脅威を前に「裸同然」の状態に置かれることになる。

そこで私は関係方面に対し、「イージス・システム搭載艦」の実戦配備までの間、ミサイル防衛能力を備えた米海軍のBMD艦2隻を借り受け、東北地方と中国地方の日本海沖に展開することを提案してきた。米海軍のイージス艦は89隻。うち60隻がBMD艦だから余裕はある。艦長ら少数を除き、民間軍事会社からイージス艦の運用とミサイル防衛の経験者を派遣させる形をとれば、米海軍の人手不足にも対応できる。運用経費だけでなくシステムのアップデートの費用も日本側負担にすれば、米国の防衛力強化にも資する提案を米国が受け入れるのは間違いないだろう。

反撃能力については、短距離弾道ミサイル1000発以上を備えた韓国のキル・チェーンよりも、米海軍が横須賀を母港とする空母ロナルド・レーガンの打撃群と、これに随伴する巡航ミサイル原潜に合計500発を展開しているトマホーク巡航ミサイルが参考になるだろう。日本も米海軍が予備に保有しているトマホークを借り、海上自衛隊の護衛艦の甲板に米海軍も使っていた4連装の発射筒を2組ずつ装備すれば、改修時間を短縮できる。さらに陸上自衛隊の特科(砲兵)部隊にも配備すれば、それほどの期間を要することなく500発から1000発の反撃能力を実現できる。これで備えている間に、巡航ミサイルや場合によっては射程2000㎞ほどの準中距離弾道ミサイルの開発を進めるのだ。

シェルターの設置による通常弾頭ミサイル対策は、核シェルター必要論のように大上段に振りかぶるのではなく、都市の既存のビルの1階と地下部分、地下鉄の駅、地下街などをシェルターに指定、通行人がいつでも駆け込めるようにして、混乱しないよう避難訓練を重ねておく。湾岸戦争でイラクから39発の弾道ミサイルを撃ち込まれたイスラエルでは、シェルターによってミサイルによる死者は2人にとどまった。それほど通常弾頭ミサイルの破片と爆風による殺傷効果は限定される。シェルターを使えるようになれば、ミサイル防衛能力を上回る数のミサイルによる飽和攻撃があったらどうしようと、うろたえることもなくなる。

サイバー防衛は、先進国で最も遅れているとの自覚のもと、世界最高レベルのホワイトハッカーなどによって日本の政府機関を攻撃させ、その結果に基づいてサイバー防衛戦略を構築することが基本だ。間違っても日本でしか通用しない専門家に任せて、お茶を濁してはならない。サイバー防衛は、重要インフラ防護によって日本社会と防衛体制を機能させるための神経と血管を守る措置であることを忘れてはならない。

以上の4点は、政府がその気になれば短期間で実現できるし、費用対効果にも優れている。着手しないほうがおかしいのだ。「そう言われてもすぐには無理」などとは言わせまい。いつやるのですか?いまでしょう。

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