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はるの土から出ずる菜花

暑さに慣れるより先に7月が終わった。そうして8月も終わろうとしている。
夏、こんなに暴力的でしたっけ。普段より酒に酔いやすかったり味噌汁が沁みたり冷やしチュルチュルやポッキンアイスが美味しすぎることを噛み締めていたら、いつの間にか日が短くなり始めたことにハッとする8月。
今年の上半期は身体も心も忙しい時間が多くて、7月は久しぶりにどっぷり本を読む時間やドラマを観る余裕ができて幸せだった。
8月の現在はやらなければならないことがむくむく出てきて再び忙しない。あ~川で泳いで焼きそば食っていたい。人んちで酔いつぶれて寝ていたい。


7月最後の週末は、大好きな友達の結婚式に行った。
結婚式っていいよね大好き、呼んでもらうの本当に嬉しい。
ガーデンでの挙式だったのでかなり暑かったけれど、眩しい緑の中で微笑む二人は本当に美しくて晴れて良かったな~と思った。

これは自分が一番驚いたんですけど、白いレースのドレス姿の友人を見た途端、涙が押し寄せてきてボロボロ泣いた。
私は自分の結婚式でも泣かなかったし、友達や兄弟の結婚式でも泣いたことがなかった。
感動していないというのはまた違くて、なんというか「ああ綺麗だな〜素敵だな〜楽しいな〜〜」と思って終わる。
結婚式というものは私にとって泣くようなことではないと思っていたのだ。
思っていたのだが、初めて結婚式で泣いた。しかも「ウエェッ」とか嗚咽洩らして泣いた。夫はちょっと引いていた。引くな。
なんの涙だったのか、とにかく嬉しそうで幸せそうな二人が本当に眩しかった。眩しさで目がくらみ涙が止まらなかった。

二次会は少人数だったこともあって、ずっと話したかったことやお互いに報告があったりしてす〜ごく楽しくて幸せだった。
自分の人生にこんなにハッピーな友人が居てくれることが本当に嬉しくて、幸せのお裾分けをしてもらったどころではなかった。
彼女と過ごす時間は、その瞬間はもちろん後々に何度も私を癒して、奮い立たせてくれる。

友達、といっても彼女は元々は夫の後輩で、私のひとつ歳下になる。別に敬語じゃなくていいよって言ってるのにずっと敬語で喋っている。
けっこう仲は良いと思うけれど、友達だとは思っていないかもしれない。互いに。

出会った最初の頃は「先輩の彼女なんて紹介されて面倒だろうな…」と思い私は遠慮がちに接していた。
そのうちに、話すときのおっとりした感じが耳心地良かったり、よく咀嚼して食べるところが偉いなあなどと思って見ていた。だんだんと彼女の緊張がほぐれていく感覚が嬉しかった。
遊びに誘うと「行きます」「ギター練習したい日なんで行きません」とはっきり意思表示してくるところが最高で、私は自分の「気軽に遊びに誘っていいひと」枠に彼女を入れ、二人で遊ぶことも増えた。
しばらくして互いに同じタイミングで引っ越しをした。なんと家同士が徒歩10分圏内の近所だったので、会う頻度がとんでもなく増えた。
ほかの友人も交えながらほとんど毎日のようにうちに来たり、一緒に飲みに行くようになった。
私は妹か弟が欲しかった末っ子なので、一つ歳下というだけで「妹が居たらこんな可愛いのだろうか」と楽しくてお姉さんぶったりもした。
おいしいものをもらうと彼女に分けたかったし、クッキーがうまく焼けたら彼女に届けた。
彼女は、うちにご飯食べにくるときにはタッパーにおかずやフルーツを詰めて持ってきた。
もしかしたら私たちは、同じ気持ちだったのかもしれない。そうだとしたら嬉しい。


私たち夫婦が青森へ引っ越すことになったときは前日の夜から手伝ってくれて、家を出る瞬間はさびしくて二人で抱き合って泣いた。
私が青森に引っ越した今も何度も遊びに来てくれているし、私も帰省するときには連絡を入れてご飯を食べに行ったりする。
こうした交流が続いていることは嬉しいけれど、やはり私はいつかまた彼女と近所に住みたいと思ってしまう。

数年前、彼女に恋人ができたときはすぐに報告してくれて、私と夫にも紹介してくれた。
初めて彼女の恋人に会った時、一緒に居る空気がすんと馴染んでいて「この二人はずっと一緒に居るんだろうな」となんとなく思った。
今にして思えばそれは私の願望だったかもしれない。
彼女の恋人は、彼女のいいところは彼にとってさほど重要ではなさそうで、むしろ彼女のコンプレックスになり得る部分を慈しんでいるように見えた。
不思議なことに、そういった人間同士はいろんな歯車がバランスよくかみ合う気がする。


私は彼女のことが大好きであるにも関わらず、彼女のどんなところが魅力かと問われるとうまく答えられない。
他の友人たちについては「めちゃくちゃ優しい」「煙草くれる」「酒が強い」「話が面白い」など適当に出るのだが、彼女については何故かそういったものがポンと浮かばない。

ただ漠然と、美味しいものを食べて健やかであってほしいなと思う。
世話を焼きたいなどという厚かましいものとはまた別で、ただいろんなことや人に恵まれる人であってほしいといつも願うように思う。
出しゃばりでない彼女の、川底にあるキラキラしたものを見つけてすくい上げてくれるような人が、やさしく甘い香りにつられて蝶々が集まってくるような、そんな出会いがたくさん起こると良い。
最高のパートナーに出会えた彼女は、きっとこれからも素敵な縁に紡がれていくだろうと思う。


藤井風/ガーデン
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