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あるいは友達のような

先日友達が我が家に泊まりにきた。

便宜上こうして友達と呼ぶことはあるが、私は彼女を心のどこかでは友達だと思っていない。
以前も彼女について書いたことがあるが(はるの土から出ずる菜花にて)、彼女は元々は夫の大学の後輩である。
夫と付き合い始めて半年が過ぎた頃、「仲のいい後輩がいる」と紹介されたのが彼女だった。

そこから10年近く(過ぎ?)が経ち、その間私たちは旅行に行ったり、川下りをしたり、ビールやヤクルトの工場見学へ行くほどとても仲が良くなった。
二人の間での内緒話みたいなものもいくつかしていると思う。
それでもなお今現在も彼女を友達だとは思ってはいない。
自分でも「いやもうそこは友達でいいじゃん」と思いはするのだけど、例えばどれほど仲が良くても母親は決して友達にはならないのと同じような感覚で彼女は私にとって友達ではないのだ。
別に血縁関係もないのに。


先日彼女に会った際にその話をしてみた。
「あなたのことすごく好きだし仲も良いと思ってるけど友達と呼ぶことにしっくりこない」と言ったところ「なんかわかる」という返事がきた。

彼女は昨年の夏とても素敵な結婚式をしたのだけれど、その際に【お世話になった人にファーストバイト(ウェディングケーキをあ〜んするやつ)】というイベントがあり、なんとそれに私を指名してくれた。
彼女曰く、ファーストバイトの相手を事前に決める際、司会進行の方に「どんなご関係ですか?」と聞かれたところ「大学の先輩の奧さんで、お姉ちゃんっていうかお母さんみたいっていうか…なんか…」と歯切れが悪くなってしまい、「お友達ですか?」と聞かれると「いや友達ではないですかね…」と答えて困惑させたらしい。困らせるな。

もうひとつ、昨年我が家に泊まりに来た際彼女は帰りの車の中で急に寂しくなってシクシク泣いたらしい。
幼い頃おばあちゃん家にお泊まりして帰るときのような寂しさで胸がいっぱいになったと言っていた。
「ふつう友達の家に泊まった後にそんな気持ちで泣かないですよねえ」と言ってて可愛かった。


私たちはめでたくお互いに「友達ではない何か」としてしっくりくることができた。
相変わらず私たちの関係に名称はないが、私のなかでは今のところソウルメイトあたりが良い感じである。

ソウルメイトは2泊していったのだけれど、ずっと楽しかった。
鰻を食べに行ったり市場でお刺身を買ってきたり、温泉で卓球したり夜中までドラマ見たり、100種類以上あるシェーク屋さんで無限に悩んだり、平日で人の居ない水族館で何時間も遊んでイルカショーを見て二人で泣いたりした。
水族館、見たいペースとか放っておき具合がお互いにちょうどよくてのんびりと魚を見ていた。

あと私の嫌いなYouTubeを見せたら5分くらい見てから「私あんまし人のこと嫌いとかないんすけどこの人めっちゃ嫌い」と言ってて最高だった。
二人でWikipediaから悪意を感じるたびに高笑いして夜を過ごした。

二人きりでゆっくり過ごすことも久しぶりだったので話したいことが多過ぎてずっと倍速で喋り倒した。
いやもう本当何故こいつが隣人ではないのだ?こんなに喋ることあるのに?とキレそうになるほど楽しかった。
途中で「不老不死になりたい。ていうか、脳だけ取り出して怪我とか病気とかなく感情だけで生きていたくないすか?」などと彼女の考えるパーフェクトワールドの話をし出しててきたときも「そうだこいつ言うて変なやつだった」と思い出せて良かった。

2泊目の夜には出張に行っていた夫も帰ってきて三人で焼肉を食べに行った。
家に帰ってから三人でそれぞれ違う味のハーゲンダッツを選んで、そうするのが当然のようにみんなで交換し合いながら食べた。
夫は私の友達とも仲良くしてくれる人ではあるのだけど、夫と彼女はそもそも仲が良かったのでそこがリラックスしているのも毎度のことながらすごく良い。

いやあの本当に楽しくて、なんかすごかった。
語彙力がずっとカスなんですけど、本当に楽しくて。
数年前は近所に住んでて二日に一回は会っていたあの頃の感覚が襲いかかってきて、「あと100泊してくれ〜〜〜てか隣に引っ越してきてくれ〜〜〜」ってなってた。

普段誰かが泊まりにくると、帰った後は寂しさとちょっとした安堵感があったりするものなんだけど、今回は寂しさ100でしかなかった。
彼女は何回も青森へ来ているから「名物食べさせなきゃ!!」と力みすぎることもなくスシローとか食べてたし、彼女が家にいることに緊張感もないので普通にうんことかしてたからというのがかなり大きいと思う。


彼女が乗った高速バスを見送った後、少しだけ泣いた。多分彼女は今回は泣いていないと思う。
きっと私たちは、こうしてお互いのなにかを小さく持ったり持ってもらったりして続いていくのだと思った。

自分の人生にたくさんある幸福の中のひとつに、彼女がいることが本当に嬉しい。
これからも私たちにたくさんの幸せがありますように。



くるり/ふたつの世界
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