見出し画像

かまくら職人

今月はものすごくたくさんの人に会った。
うちにお泊まりしにきてもらったり、旅行の合間に友達とカレーを食べたりお酒を飲んだり、実家に帰り友達や祖母に会ったりした。
あまりにもたくさんの人に会ったので「なんか死ぬ前の整理みたい」と過ったけれど、実際人間いつ死ぬかわからないし会えるうちに会いたい人たちに会うことを縁起でもないことのように思うのはやめにした。

それに死ぬ予定はないけれど、私はこれから家からほとんど出ない生活になり、春まで気軽に人と会う機会はなくなるので似たようなものかもしれない。

もうすぐ本格的な雪がやってくる。
私の暮らす土地の雪は、一度積もると春まで土を見ることができない。
車道の雪は歩道に積まれ、いつも使っている道も何箇所も塞がれる。気軽にコンビニも行けなくなるし、大好きな散歩も一気にハードルが上がってしまう。
私は雪道が苦手なので車の運転も極力しない。
横殴りの風と一緒に雪が降るので、そんなときは建物のなかから出ては行けない。そんな時に外へ出たら目を開けられない。
雪が止んだら大急ぎで買い物へいく。外に出る際は長ぐつとウィンドブレーカー、フライトキャップにゴーグルをかけて出かけることになる。
嘘みたいだけど本当に、雪の都合に私たちの生活を合わせるのだ。この土地はそれが当たり前だ。
不便が多いにも関わらず、私はその生活があまり嫌いではない。
外は豪雪の中夫と二人きりで家の中で過ごしていると、かまくらのお城にいる気分で少し楽しい。
大きなクリスマスツリーと本棚に詰まった本と漫画、スピーカーから流れる音楽、焼いたマフィンの香りがカーテンに染み付いていく瞬間、テーブルの下でブランケットに包まって二人で見るNetflix、お揃いのトレーナー…
越冬するために私たちは冬に向けてそれぞれ好きな物を家に集める。
5年にもなると集めるのが少し上達したように思う。
今年は好きな物集めに友人が付き合ってくれる場面がたくさんあって、そんな時間はなにより私の心を温めてくれる。
大好きな友達とお揃いのモコモコパジャマ、口の開くくるみ割り人形のオーナメント、底がざらざらしているカフェオレボウル、クマの貯金箱、コインチョコの入ったクリスマスのお菓子、シーグラスのピアス

最近野中柊さんの、銀の糸という本を読んだ。温い体温を感じるような文章でめちゃくちゃ好きだと思った。
その本の中に出てきた言葉でひどく共感したものがある。

「結婚生活って、竜宮城に居るみたいだと思わない?ふたりで、いろんなものを見て、いろんなものを食べて、ひとりじゃないから楽しくて、でも、ちょっと退屈で……」

この台詞を目にしたとき、私は冬の間の自分たちを思った。竜宮城というよりかはそこはかまくらで、シェルターで、私たちはそこで楽しんでいるのと同時に、そこから出たら何かとんでもないものが外にあるような気がして、かまくらのなかで静かに命を繋いでいる。
そうしてかまくらが溶けるとき、すっかり変わってしまった世界にいつも感動と驚きが新鮮に飛び込んでくる。
私たちの4ヶ月間はたしかに長いのに、終わってしまうとまるで時間を忘れて深い眠りのなかで夢を見ていたような気さえする。
もしかしたら浦島太郎もこんな気持ちになったのだろうか。


私たちのかまくらは去年より少し分厚くなって、億劫で愛しい冬を待ち構えている。


世界の終わり/Thee Michelle Gun Elephant
https://open.spotify.com/track/0c6f2H2CXN779Ooh3GrcmT?si=0zQ_dY4ZQO6zjACBqpGn6A

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?