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パリ・テキサス

ヴィム・ヴェンダースの映画のこと
作品のネタバレを含みます








かつて想い合っていたひとたちが離れて、それから何年も経って、当時のことについて泥臭い言い争いをするとか、そういう関係では無くなった状態とその絶対的な隔たりを主題にしたお話
永遠の断絶という点で相米慎二監督作『お引越し』にも似ていると思う

別れには幾つもの前兆があったはず
そして二人は距離を取る決断をして、そしてまた元のように近づくことが難しくなる
映画の中で特に好きなのは、主人公とその息子が車道を隔てて、歩道を同じ歩幅で歩く幸福の場面。あの二人は久方ぶりに会って、最初距離があっても、いずれ近づいて上手くやれる人たちだったんだと思う。でも、主人公とかつて彼が愛していた女性とはそうではなかった。二人は久方ぶりに会ったら、お互いに向かい合っているのだけれど、その視線が交わることはない。主人公はマジックミラーの外側から、彼女のことを見つめている
ああ、この二人はやっぱりもうダメなまんまなんだと、とても悲しい気持ちになる場面だけど、そういう風に撮られていないのが好きだった

長い付き合いがあったけれど、絶縁してしまった人のことを思い出している
彼女との幸福な時間を思い出したりすると、きっかけを作って、もう一度やり直そうとしたりしたこともあったけれど、拒絶された 
いや、それ以前に私も彼女を拒絶したのだった
これからまたそういう思いを何度も体験するのだろうか
人と何かを共有することはこの上ない幸せになり得るのに、なぜそれは言葉になり得ないほど苦しい思い出にもなり得るのだろう

やさしい音楽を聴くとそれ以上考えなくて済む日もある