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中川多理 Favorite Journalポール・エリュアール広場 2番地より/『灯台守の話』『オレンジだけが果物じゃない』

 中川多理 Favorite Journalポール・エリュアール広場 2番地はいま、芥川賞候補になった川野芽生の『人形歌集・羽あるいは骨』で賑わっている。中川多理の『』その中からこっそり、『灯台守の話』『オレンジだけが果物じゃない』ジャネット・ウィンターソンをとり出して、購入した。

 最近、吉田隼人から教わった読書線(著作からだけど…)〈ポルトレ〉で、読む。以前、少女漫画に入っていかれなくて大変だったときのことを思い出した。あの時は、萩尾望都さんに会ったり、その作品を劇団の根幹としている劇団スタジオライフの倉田淳さんの読みを助けに、少しいけるようになった。
 ジャネット・ウィンターソンの作品は、どちらかというと苦手に近いかもしれない。けれどもm〈ポルトレ〉で読むことを知ってからは、むしろ絶好の作品であるかもしれない。ああ、こうして寄っていけば、現代美術作家のソフィ・カルにも近づけたのにな…と。
 だけれども本を読むのは方法やコンセプトではないので、もう少し慣れ親しんでいかないと、身体には寄ってこないだろうなと思うので、読み込み敷衍していきたい二冊になる。

 『オレンジだけが果物じゃない』で一世風靡したジャネットは、そこに自伝的要素をたっぷりと書きこんでいる。名訳・岸本佐和子の解説によれば、養父母がキリスト教原理主義の熱心な信者。子供の頃から説教壇に立っていたと、十五歳のときに教会を通じて知り合った女性と愛し合って教会と家を捨てたこと…波乱の人生は、作品にリアルに書きこまれている。しかしそのリアルを当てはめると、ある種のトリックに嵌ったようになる。というか読みの手としては少し普通過ぎて面白くない。
 この本は、旧約聖書の章がそのまま小説の章になっていて、小説はいつの間にか、史上最強の物語・聖書に絡んでいく。あくまでも絡んでいく、だ。取り込まれたりはしないところがジャネットの真骨頂だ。彼女の人生もまたしかり、小説もまたそのように描かれている。

 『灯台守の話』から先に読んだので、ジャネットのポルトレから来る感覚を摑めていたか分からないが、灯台好きの自分としては、ぐっとくる本だった。『オレンジだけが果物じゃない』を読んでから再び、読んでみたが、灯台が先でも良かったかなと思う。
 本でも芸術作品でもそうだけれども、分かりたい、寄り添いたいと思うが余りのアプローチをしてきたが、不可解なところ、自分の感覚に不条理なところを、その作品の個性として、ゆったりとつき合えるようになると、逆に寄りが深化することもあって、分からないところを分かろうとしないで寄るという読み方を身につけてみたいなと…この本を読みながら思った。
 ちょうど赤坂でであった書店で『旧約聖書』中沢洽樹訳を手に入れて預言caféにであったこともあり、『聖書』や『神曲』を読みすすむ良い機会にもなったような…。
 この辺りの読書、理解はまた一つ自分を愉しく活かせてくれるだろうと確信する。


PS
ここからは超余談の話なので、そしてちょっと下品でもあるので読み飛ばして下さい。

 灯台というと、やはり男性中心のもので、自分も秘かな灯台マニアであるのだが、なかなか文学や芸術とのリンクが取れなかったが、むしろ女性による小説によって、より灯台をさまざまに愛でることができそうな気分になってきた。

 さらに話は飛ぶが、最近日本では灯台女子というものが形成されているようで、その流行りの根元は『灯台はそそる』『灯台に恋したらどうだい?』『愛しの灯台』などを書いている女史から始まっているようで…しかしながら、そそる灯台に抱きついている写真を多く掲載してあったりで…身体的セクシャル感がありすぎていただけない。女性の書く灯台に感動した後で、これら一群の女史記述の灯台と姿勢を見ると、何かがっかりすると同時に嫌な気分になる。絶滅危惧に瀕している灯台を観光化するというのが、彼女の灯台に対する姿勢であるが…観光化によって、浅草辺りでも良い店(何が良い店かはどこかで語ることもあるかもしれないが…)壊滅していくのを見るにつけ(浅草神戸牛の流行りなんてどうしようもない。ぞくぞくと神戸牛の店が参入して旧店舗にとり変わっている。何十年も通った店が観光客用の何を出しても食べるから質が悪い素材に切り替えたというようにダメになっていく…)観光化の恐ろしさとそれが破壊する威力に余りに無神経な書き手にちらりとイラッともする。

 灯台はそそるものではなくて、孤独によりそうものなのであるという、灯台の本質が失われるなら滅んでも良いのではと思う。孤独に滅んでいくのが灯台の一生であって、灯台もまたいつまでも在るものではないのだ。サハリン島の付近にある近寄りがたい灯台群が、今、自分の心のよりどころである。

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