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日々是徒然一月①予言喫茶

 気づくと、ふらりと赤坂辺りにでていた。銀座線に乗って適当な処で降りて、町を一周して戻ってくる。そしたら少し気分も晴れるかも…そんなことを思っていた…のかもしれない。良く覚えていない。
 赤坂なら『砂場』で蕎麦をたぐって、帰ってくればいい。で、蕎麦はいつの間にか雑煮に代わっていた『虎や』の。
で、ふらふらと裏道をいくつか適当に、抜けていくと『面倒くさい本屋』という名だっけな、面白い本屋さんを見つけて入って、何冊か文庫、新書を買った。どういう基準で品揃えしているかが分からないが、最近出版の川野芽生の『かわいいピンクの竜になる』が入っていた。ではというと、川野芽生の他書籍はない。『人形歌集・羽あるいは骨』川野芽生 中川多理(パラボリカ)もない。
 少しお腹が痛くなってきたので、ホテルか喫茶店かを探して、足早に道に入ってはきょろきょろを繰り返す挙動不審人物になっていった。目の前に少しレトロな喫茶店『予言カフェ』があった。躊躇したがそこに入った。用事を済ませて席に戻り、メニューから飲みものを選んだ。
 なんだこれは…。最近、カフェ『バッハ』でも手に入らなくなっているエスメラルダ農園のゲイシャがある、ちょっと高いけど…いや最近の豆の高騰からするとそうでもない。エスメラルダ農園のものは別にもあって〈ダイヤモンドマウンテン〉あとはパナマ・ラ・サンタ農園〈バルマウンテン〉とか。カフェで飲むのに選んだのは、エチオピア・チュルチュレ。
 カウンターの向こうでは比較的小型の焙煎器で先ほどから焙煎作業が続いている。部屋の隅には足の悪い方が目を瞑って待機している。様子を見ていると、飲んでしばらくすると、その方が傍に来て予言をしている。録音して下さいとも言っている。いつ自分のところにくるかなと、ドキドキしながら待っていると、カウンターで珈琲を淹れていた女性が寄ってきた。あ、全員が予言をするんだ…。
 「予言は占いではありません。録音して下さい。そしてスイッチをオンしたiPhoneを自分の方に寄せるように指示して予言は始まった。
3分43秒。予言はネットに居る僕の分身、僕と同じ泥沼に居る人(予言者の僕への現在評価)にも布教するようにしているのだろうかと…聞きながら思った。僕だと対面しない方がちゃんと聞くかも知れない。けっこう掴まれているのかもしれない…。泥沼ね…確かに。
 自分の現在と未来を他人に語ってもらうのは三回目になる。全二回は行きずりの横浜元町の占い師。実は同じ人でたまたま出合っている、二回目も。神社仏閣に手を合わせない自分が、こうして説教師の前に居るというのは、やっぱりいろいろあるんだろうな。前回の占い師は60歳から70歳までの占いをした。ちょうどその予言が切れた頃だ。信じるとか信じないとかじゃなくて、自分が転機に居て、弱り切っているということだけは確かである。
 云われたことは、全二回と異なってそんなに特殊なことではなく、主が見ているから泥沼から抜け出すように歩を進めろということだ…だけれども脇に座ってむしろ録音機に向かって早口で説教している風景に気を奪われた。変な感情が動いて…いや感情とかではないな…でも涙が出てきた。ダメなんだな自分の状態は____。

 さて予言の話はここまで。
珈琲が美味しかったので、〈バルマウンテン〉〈チェルチェレ〉〈ダイヤモンドマウンテン〉の豆を購入した。焙煎師の人が嬉しそうに顔を出した。売店にはプロテスタントのグッズ(言い方間違っているかも…)と並んでマニアックなグラインダーもあって相当の珈琲好きだなと見てとれる。
 えっ?牧師さんなんですか?で、バリスタ、焙煎師。週末にはオペラを此処で歌う?バリトンの歌手なんですか?へぇ…。豆をトートバッグに入れようとしたら中に赤い表紙の『旧約聖書』中沢洽樹訳が入っていた。無意識にお金を払わずに『面倒くさい本屋』から持ってきてしまった?買った覚えがない。慌ててレシートを見るとちゃんとお金は払っている。レシートに書名が書かれている。
 …。
 展覧会の整理のため鳥越に戻ったのは十二時をだいぶ廻った時刻だった。

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