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THIS IS NOT A BOOK/これは本ではない/相当納得のいかない話

 かからむの おもひ知りせば
 大御船おおみふね てし泊りに
 標結しめゆはましを

 額田王女の天智天皇葬儀に対しての歌。
 妄想屋の自分としては、沓片方残して消えた天智天皇という方を取りたくて、天智天皇の消失に詠んだ女性の歌を集め読んでいた。この歌も面白くて、現代語訳は、
 このようなお考えを事前に知っていたならば、天皇のお乗りになる船が停泊している港に、しめ縄を張っておいたものを

となる。『額田王女と初期万葉歌人』梶川信行/笠間書院

そうやって沓一足残して消えてしまうようなお考え/あるいは船でどこかへ行ってしまうお考えがあるなら~と、自分妄想は読みたい。何となくそれを許しているようなところもあり、額田王女の不思議な大きさは魅力たっぷりだ。何で船なのかという疑問もあるらしく、天智天皇は最後まで人騒がせでかってな大王である。それが故に女子にはとてつもなく魅力的であったろうし、額田王女をとられた形になっている弟の天武天皇も、生きているうちは反逆をしなかった。

さて妄想読みを続けようとして頁をめくってみたのだが、どの頁からも頭には何も入ってこない。朦朧とするばかり。目を凝らして気を入れてみるが、逆に文字は捩れて霞んでくるばかり。

そこで気がついた。
この本『額田王女と初期万葉歌人』梶川信行/笠間書院 は、複写で出来ているプリント・オンデマンド版。旧版の奥付ごとモワレ入りコピーされている。その頁を捲ると、一部奥付に記載されている情報と異なりますと書かれている。表紙もレイアウトが全然異なった形になっている。背も最悪のデザイン。

実は、この本、Amazonでぽちっと買った。
天智天皇、額田王女、天武天皇に夢中になっていたので、そして笠間書院のコレクション日本歌人選を愛読していたので、大丈夫だと吟味しなかったのだ。
モアレのある地に流れてゐるモアレのある字から、内容は頭に入ってこない。

というかこれは存在してはいけない本だ。これを読んだら本が嫌いになる。本から何かをインスパイアーされるという快楽のシステムが破壊される。よってこれは本ではないと、私は思う。
こんな本を生み出しているAmazonは、本の敵であり破壊者であると認定する。

元のレイアウトを小さく写真で入れているので白い枠がついちゃってる
背はこんな感じ。Amazonの本に対するセンスが伺える。

+++
プリントオンデマンドの本が悪いのではない。
近頃、もっとも頁をひらくことが多いのは、『富澤赤黄男』俳句全集 暁光堂俳句文庫
である。シンプルなデザインだけれど、句はとても読みやすい。ほぼ全部の句を網羅しているのも良い。富澤赤黄男の日記に残された『戦争と俳句』川名大 や沖積社の全句集も所持しているが、やっぱり暁光堂の文庫を読んでいる。
最近見つけて気を惹かれて読んでいるのは、『杉原一司歌集』で、この本にもまた、読んでもらいたいと云う編集や出版の愛と責任感がつまっていて、そして非常に読みやすいレイアウトになっていて、塚本邦雄が惚れた歌人の歌そのものと生き様を感じることができる。

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