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独語と空笑


グツグツしている鍋をみていると目眩がする。脳みそが溶ける彼を横目に、私は豆腐にしつこいくらい息を吹きかけていた。よく彼が食べていたインスタント焼きそばの匂いが鼻に染みる。その匂いが彼との会話まで想起させる。実際には「会話」と名付けられないほどの言葉の交わりだった。毎日ベットサイドで、1本だけ長い髭を眺めながら、時間が過ぎるのを待った。


彼が見えている景色を私は見ることができない(幻覚)

妖精が見える彼が少し羨ましい。だって私はティンカーベル以外の妖精を見たことがないもん。妖精の詳細を聞いておけばよかったな。妖精とおはなしすることはできるのかな。


彼は、ちゃんと、かなり、オトコ(発情)

私が笑顔を見せると、彼は驚いたように目を見開く。きっと笑顔の方法を知らない。私よりも約30年間も多く生きているのに知らない。本能で私を狙っている顔なのかもしれない、とも思った。私のこと、かわいいとか思ってるのかな。思ってくれてたらいいな。「手がいつも暖かいですね。」って手を握っていい合図じゃないからね。脈はやくなってましたよ。連絡先も教えるはずないでしょ。


彼は痛がり君(発達障害)

「痛いんですね、大丈夫ですか?」
心配されたいという、まるで3歳児のような戦略で嘘をつく無邪気な彼を何故か許してしまう。



彼は嘘つき(妄想)

明日はデイルームで遊んでくれるって言ったのに、嘘つき!誰かに狙われてる?気のせいだって。そういえば、オセロ負けっぱなしってことは覚えてる?悔しくないの?いいの?もう明日から会えないよ?あーあ。そうやってまた嘘ついて。




意味のない討論(カンファレンス)

「強み」「個別性」「両価性」「自立」「継続」
オトナが好きな言葉達をつらつらと語り合う会。オトナは聞いてて満足ですか?それならいいんですけど。30分?きっと時間が長すぎると思うんです。ストレス因子なんです。私達が美味しくご飯を食べられて、いきいきと電車に乗れることを優先して頂きたい所存です。おつかれさまでした。



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