見出し画像

水魚之交




消えたがりの君は水族館が好き 重力を浮力が上回る世界で 君のことを捕まえられる自信がない いつも半歩先を歩いて 私が離れたら振り返る そんな君のことだから


トイレの中でずぶ濡れになっていた ドラマでよく見るやつじゃん あいつが大袈裟に腹を抱えて笑っている声がする なにか物足りそうな声 スカートは水滴をはじいていた ブラウスは透けて下着の色を認識できた 眼鏡が濡れて視界がぼやける 水をかけた意味より どこから持ってきた水なのかが知りたかった トイレのホースを伝った水はごめんだ どうせなら天然水をかけてくれ


今日、君は助けに来てくれなかった


もうどうでもよくなって プールに飛び込んだ 着衣泳ぶりのもったりした身体のしがらみ こんな日に限って天気は晴れ 気づいたら君は飛び込み台に座っていた  

「あんたは嫌われても虐められてもないよ。」

求めてもない見解を突きつけられた じゃあこの有様をどう説明するというのだろうか たしかに私は何もしていない 何もできない 器が広いというか無関心 だから憎まれている

「濡れてる方が綺麗。」

また変なこと言って 私が魚にでもなれば 水になってくれるだろうか 交わってくれるのだろうか どうせ逃げるくせに 無責任で汚い君に 今日も囚われている


悲しくはないの 哀しいの 寂しくはないの 淋しいんだ

実は魚になれないほど

脆くて

惰弱で

強欲だから



水蒸気のまま君に抱きしめられたいとか 思ってるんだよ、



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?