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今日はキャラメルの日

森永製菓が、大正2年の6月10日に
ミルクキャラメルを発売したことを記念する。
江崎グリコも大正11年に社名を冠したグリコという製品を発売する。
お子様はもとより幅広い年代にお菓子を届けてきた。

◇グリコ・森永事件
 この2社が並ぶと、あの有名な事件を思い出す。
1984年3月江崎グリコの江崎社長宅で誘拐事件が発生したのを皮切りに、
丸大、ハウス食品、森永など食品会社に対し相次ぎ脅迫状(お金を支払わなければ製品に青酸カリを混ぜて店頭におく)が届き、実際に毒物が混入した商品が店頭に置かれるなど日本全国を不安に陥れ、社会に与えた影響は計り知れない。犯行グループは怪人21面相を名乗り、マスコミもこれを取り上げ連日世間を騒がせた。
 ハウス食品で犯人を取り逃がした滋賀県警本部長が焼身自殺を遂げる。
自殺の決行は彼の退職日にあたり、ノンキャリアからの叩き上げだった。自殺の動機は、責任を押し付けられた組織への抗議だとされている。
このあたりもかなり後味悪いが、さらに2000年の2月に公訴期間が満了となり、犯人は検挙されることなく捜査が打ち切られている。

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◇蟹とキャラメル
 キャラメルときくと、どうしても思い出す小説もある。
「キャラメル工場から」というプロレタリアート作品である。作者は窪川(佐多)稲子だ。小林多喜二の「蟹工船」と並ぶ作品だが、作品だけでなく彼・彼女らは行動も並んでいる。

En 1932 elle adhère au parti communiste japonais (PCJ) interdit. Elle est proche des deux chefs du PCJ, Kenji Miyamoto et Takiji Kobayashi, ce dernier torturé à mort par la police en 1933. En 1935 elle est arrêtée et passe deux mois en prison.
抄訳)
非合法団体だった日本共産党に加入し、党の2人の長、宮本顕治と小林多喜二に接触した(小林多喜二は翌年の1933年に獄死している)1935年にはこの件で稲子は逮捕され、2ヶ月間投獄された。

 作者みずから神田のキャラメル工場で働く経験が描かれている。父は今で言うフリーターで、この父のせいで進学もままならない。働く先の実態も凄惨な上、通勤も2時間かかるなど過酷な状況だ。つまりは、当時の家父長的な抑圧と階級的抑圧の2重苦に苦しんだ。
 稲子はこの処女作をかわきりに、多くの作品を世に出した。小説だけでなく社会的な発言を続けていくなかで、松川事件にも積極的に関わった。

◇松川事件
 松川事件は、国鉄三大ミステリーの一つで、東北本線松川駅と金谷川駅間を走行する蒸気機関車がレールに細工をされ、脱線転覆し3人が死亡した事件である。約20名の被告が検挙され1950年には全員有罪とされたが、裁判が進んでいくうちに捜査方法や取り調べ方法に疑惑が生じてきた。さらには、川端康成をはじめとする知識人が被告を支援するなど世論も高まりをみせた。1963年には最高裁判決では無罪の判定が下され、1964年に公訴時効を迎え、この事件も未解決で幕切れとなっている。

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被告を応援した知識人の中には佐多稲子も、壺井栄とともに名をつらねている。壺井栄がプロレタリア文学から児童文学に転向するのも、稲子の口添えらしい。知識人の交流も文化の華をささえる。
 宮本顕治の妻である宮本百合子と佐多稲子は親友で、ともに落合に住む、いわゆる”ご近所さん”で、散歩なんかにもいったようだ、とどこかで読んだ。
 しかし、宮本百合子が「婦人と文学」の寄せた文章の中で、「キャラメル工場から」について、ある表現をとりあげ、「作家の性根というものはどういう場所におかれていたのだろう」と、とても辛辣なのだ。
 この辛辣さが仲が良いからゆえの書き方なのか、そうでないのか、あるいは百合子がこれを書いたときにはまだ親しくなかったのか・・・
 処女作ゆえのゆきどどかない表現なのかもしれない。が、この”揺れ”(支配層側に多少おもねる表現があった)は、おそらく、少女の”揺れ”に影響していると思われる。おかれた境遇や環境を客観的に把握する意識はないのであろう。おそらくそんな余裕もなかったものと思われる。少女は、ただただ工場の管理指示の要請に懸命に応えようとしたのだ。

◇鉄道ー工場 のルール
 印象的なのは、朝遅刻をすると工場に入れず、その日1日の労働賃金がもらえないというルールとその葛藤であった。そもそもこの主人公は父親の体たらくで働かざるを得ない状況で、通常は近くの工場で働くか、住み込みなど解決手段をとるものだが、それもままならなかったのだ。ある日、兄弟から電車賃を工面してまで急いだものの、結局遅刻していまう事件が起きる。
 鉄道は正確に動いているという前提で、工場のルールも厳格であった。
その厳格さにひたむきに従って必死だった。ゆえに、支配階級側についての記述が少女の視点になっている以上、徹底的に批判的な筆致で書くというより、そこで感じ取ったものがそのまま表現された結果、作者としては、徹底がほどけてしまう部分もあるのだと思う。むしろ、この揺れこそ、当時の少女に強いたものの正体をあぶり出すもののような気がしないでもない。

◇未解決 
 グリコ・森永事件も、松川事件も未解決事件である。
いずれの事件もその犯人の動機は闇の中である。
グリコ・森永事件の真犯人は到底許されるものではない。
手口は巧妙で悪質であり、愉快犯ともいうべき様子もある。しかし、事件の展開の中で、警察組織や会社の経営層への批判も露出していたのだ。社会の鬱屈された部分が明るみに出されたという意味では滋賀県警本部長の自殺が象徴的でもある。
 松川事件は真犯人こそわかっていないが、国鉄による大量人員整理が背景にあることなどが浮き彫りにされた。
 犯人の意図していたかどうかは不明のままだが、世論の反応はまさにプロレタリアート対支配層という構図を浮かび上がらせたのだ。
事件の根本原因はどこにあるのか 、それが階級闘争にあるのであれば
それは働き方改革を推進している今でも未解決な問題なのである。
 

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