愛。



私の人生は今が1番楽しいの。



齢80の祖母は、そう言い切った。



この日に、一緒に美味しいイタリアンに食事に行く。
この日に、一緒に日光へ行って新しくなった東照宮を観てくる。
この日に、一緒に劇団四季を観に行く。



休学して暇が増え、家にいる私を祖母は誘う。
私は、せっかくだし行ってもいいかな、なんて気持ちで返事をする。


旧いアルバムをめくると現れる、彫りの深い若き祖父の顔。
2人の息子がこれから大学生というときに、この人は他界してしまう。
それから女手一つで働きに働き、息子たちをやっと卒業させたと思いきや、残された姑が認知症になる。
結婚相手は選べても親は選べず。
病気とはいえ散々罵倒を浴びせられ、苦労したに違いない。
私の父にあたる息子の嫁、つまり私の母とも関係はうまくいかなかった。
母の言い分も祖母の言い分も両方聞きながら育ってきたのが私。
長い間母の味方をとり、祖母と口を聞かないような時期を過ごしてしまったけど、今ならわかる。
祖母は決して悪い人間ではないということを。


今は、祖母の優しさを素直に受け止められる。
鬱陶しさは相変わらずで、まだ時々苛立ってしまうけど、祖母は決して怒らないし嘆かない。
いつもにこにこ笑ってる。
与えられるものは惜しみなく与えてくれる。
暗い夜道を行く時は心配してくれる。
可愛い洋服を着ていたら褒めてくれる。
私は過ぎていった冷たい年月に後悔の思いを抱きながら、祖母の優しさを受け止める。それしかできない、だからそれをやる。
今なら、彼女を真正面から肯定することができるのだから。


強く、愛に溢れている。
同じ血が流れている私のなかに、祖母の強さと優しさを封じ込め、永遠に引き継がれていきますように。



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