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日本への短期渡航者に医療保険を義務付けることが経済学的に間違っている理由

日本への短期渡航者に医療保険を義務付けるという案が与党自民党で議論されています。

これが解決しようとする問題は「医療保険もお金も無い人が、病気になり病院にかかった場合、医療費が病院の負担となってしまう」という問題です。医師会などからこうした問題の解決を依頼されているようです。

それを解決するのに医療保険は良い選択肢ではありません。

医療保険には民間旅行保険と公的医療保険(国民健康保険)があります。

大きな違いとして、民間旅行保険は既往症(すでにある病気)の治療には対応せず、公的医療保険は既往症にも対応するということです。

なぜなら民間旅行保険が既往症を補償すれば、短期間だけ加入して旅行し、既往症を治療して解約する人が大勢でるため、保険商品として成り立たないからです。

もし民間旅行保険を義務化したとしても、既往症で入院してくる人が金を払えない問題を解決することはできません。

世の中には心血管疾患を持ってる人は大勢いるでしょうが、そういう人が発作を起こせば、すぐに数百万円単位の医療費がかかってしまいますが、旅行保険では償還されず自腹になります。

では公的保険に加入してもらうとどうなるのでしょうか?

もし既往症の治療を認めるのであれば、日本に旅行に来て、高額な医療を受け、帰国することが規則上認められることになります。これはどう考えても良くない案であることは明らかでしょう。

というわけで、保険では、無保険患者問題を解決することができません。

ではどうすればいいのか? あまり良い方法はありません。国際間の問題なので、各国が協調しないと難しい点や、一方的に義務(入国税など)を課すと他国に制裁される恐れなどもあります。

本来、パスポートには「この人を助けてもらうよう依頼する」との文言がある以上、受け入れた国は助ける義務があるでしょうし、逆に助けてもらった国は支払いをする義務があるでしょう。

ですので、本来の在り方をいえば、費用は日本政府が負担し、外国政府から徴収するというのが正しいということになるかと私は思います。

相互主義の観点から、お互いに助けてくれる国は無償で助ければいいでしょうし、そうでなければ入国税を取るというような方式もありかと思います。

現実的には外交上非常に難しいですが、これしか方法はありません。

保険の強制加入というのは非常に悪い案です。

既存の民間保険は保証内容がまちまちであり、加入証明書なども容易に偽造可能です。ですので、もし義務付けするのであれば、ESTAのような電子査証方式で強制加入させるしかありません。しかしそれは日本の行政コストをあげるうえに、旅行者を減少させます。その価値があるとは思わないです。

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