第二章【視えていたもの】

第二章【視えていたもの】

幼少期に母に連れられて通っていた喫茶店が
あった。
その喫茶店は鍵の看板が目印でいつも僕の通院の帰りに寄り、母は喫茶店のマスターと話をして帰る事が日課となっていた。
喫茶店の中にはテーブルゲームが並んでいた。
ゲームとテーブルが一体型になった当時では画期的な物だった。

母はいつも角の普通のテーブルに腰掛けていた。
僕が椅子に登りそこからジャンプをして飛び降りる単純な遊びに夢中になっていると
不注意から膝から落ちて怪我をした。

最初は膝から血が吹き出し噴水の様に視え、
その様子をしばらくぼおっと見ていた。
そのうちに赤い紐の様なものが膝から上に回転しながら伸びていった。
それはまるで植物の成長を早送りしたかの様なそんな動きだった。

この赤い紐は一体なんなのか…?

僕はそれを不思議に思いしばらく眺めていると母は慌ててバックから取り出した絆創膏を膝に貼ろうとした。
そこで僕は必死に抵抗した。
紐の様なものと一緒に絆創膏を貼られるのがなんとなく気持ち悪いと思ったからだ。
だが大人達に押さえつけられ絆創膏を貼られてしまった。赤い紐と一緒に。

僕はその時にこれは周りには視えていない物なのだと思った。
絆創膏を貼られる前に説明したのだが
大人達は誰もまともに話は聞いてくれなかった。

泣かなかった事を大人達からえらいねと褒められたた。膝から血が吹き出していた時に視えた赤い紐が僕はどうしても気になって仕方がなかった。

幼少期その様な不思議なものは沢山視ていた。

駅のタイルの細かい模様がウヨウヨ動き天井まで登っていく様。
家に大量のゴキブリが地面一面に這う様。
白昼夢だったのか?幻覚だったのか?
一体僕は何を視ていたのだろう。

あれはおそらく誰にも視えていない。

そうなると幼少期の頃に大量に飲んでいた薬の副作用でおかしなものを視ていたのではないか?
そう言ったありふれた答えが浮かぶ。
だが残念ながら僕には薬を大量に飲んでいたという記憶がない。

不確かな答えのピースを不器用に
繋ぎ合わせる事でしか
答えを導く術は無いのだ。

2歳半から5歳までの2年半、
僕の感覚はどこを彷徨っていたのだろうか。

続く。

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