第五章【入部届け】

第五章【入部届け】

「そうですか…少し考えます。
ありがとうございました」

中学へ入学し僕は部活動を何にしようかと
迷っていた。
僕は当時漫画やアニメが大好きであった。
アニメの主人公にように
カッコよくなりたいと淡い期待を抱き
放課後バスケットの見学へ向かった。

少しだけ体験させてもらい、
入部したい旨を先生へ伝えた。
「ご家族から病気の事聞いたよ。
選手には出来ないけど、ずっと見学で良ければバスケット部に入る?」
先生からの答えはこうだった。

僕は一気に肩の力が抜け、
よろよろと家に帰宅した。
家に帰るとすぐに自室へ篭った。

どうしたものか…。
僕の入部届は未だ空白であった。

小学生の頃から体育の授業は見学であった為
薄々スポーツ系の部活は難しいかもしれないと
感じていた。

僕が今出来ることって何だろうか…?
必然的に文化部に絞られるのだろう。
音楽か、絵か、演劇か…。
もう少しゆっくり考えよう。

考えているうちに眠っていて朝になっていた。

二階の部屋から茶の間へ降りた時に
テーブルの上の入部届に目をやった。

入部届け 美術部ー。

未記入のはずの入部届けに
「美術部」と書かれており頭が真っ白になった。

別に絵を描く事が嫌いなわけではないのだが、
何の相談もなしに母に決められていた事に
面食らってしまった。

僕は昨晩、
音楽部にしようか美術部にしようか
演劇部にしようかこの3つで迷っていたのだ。

決まってしまったなら仕方がない。

口論になるのも面倒だった。
どの道3年間という期間だけなのだからと
自分に言い聞かせ、
部活の入部届けをカバンにいれ中学校へ向かった。

僕の学年では美術部へ入部したのは
僕1人であった為、部活では3年間1人で
黙々と絵を描いて過ごした。

1人でいる事は苦ではなかった。
静かで自由で、
常に感情が一定である事が心地よかった。

僕は風景画を沢山描いた。
木や植物が大好きで何枚も何枚も描いた。
植物が見せる四季折々の表情は
美しく華やかであった。
優しい囁きや微笑み、時に寂しげであり、
怒りなど感じられた。

その様は筆を取る僕の心を
いつも癒やしてくれた。

続く。


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