第四章【初めての姉】

第四章【初めての姉】

はっきりした時代は覚えていないが
僕が小学生3年、4年生ぐらいの時に
少しの間姉と暮らした事があった。

姉の父は僕とイルカ君とは違う父であった為に
離れて暮らしていたのだ。
初めて姉と会った時に姉は、
「お世話になります。」と遠慮深げに言っていた。

姉が来てから僕はすぐに姉が大好きになった。
楽しくて、可愛くて、
イタズラをしたくなってしまう相手であった。
その頃の僕は姉がいつでも笑顔でいた理由を考えられる程大人でなかった。

今考えればすぐに分かることかもしれないが、
姉は気を遣ってそうしていたのだろう。
今までいた場所に何らかの事情でいる事が
難しくなった為に、やむなくこの田舎へ来たのだ。
向こうでの交友関係や大切なものも
全て置いてきたのだから辛くない訳がない。

それでも姉は笑顔で僕たちの相手をしてくれた。
いつも大量のガムを所持しており、
僕は姉からよくガムをもらっていた。
部屋にはコーヒーガム、ブルーベリーガム、梅ガム色々なガムが箱ごと置いてあった。
姉は板ガム一枚では足りないらしく一度に
何枚も口に頬張って満足そうな顔をしていた。
そんな姉が変わっていると思ったし、
純粋に可愛いなと思っていた。
そうなった理由もあるのだろうが、幼い僕には
その理由を考えられる程の頭など無かった。

ある日姉は「お世話になりました」と
この家を出る事になった。
何故そうなったのか当時の僕は
理由を知らなかった。

後から家を出た理由を知ったのだが、
どうやら姉が万引きをして学校から連絡があり
姉に対し母は、
「あんたを家に呼ぶんじゃなかった」と
そう言ったのだった。

僕はその時言うべきじゃない言葉だと思った。
姉は何らかの家庭の事情でこちらへ
来ていたのだから。
元いた場所にいられるのであれば、
そこに居たかった筈である。

母ならば拒絶するのではなく、
何故そんな事をしてしまったのかを聞き
子供と向き合うべき所なのだ。

そうして姉との3ヶ月程度の
短い暮らしは終わりを迎えた。

あの時の姉は一体どんな気持ちで
ここへ来てここを去っていったのか。
希望を抱き、打ち砕かれた、
そんな感覚だったのだろうか?

姉とはその後長い間会う事は出来なくなった。

粉々になった感情(心)は時間という接着剤を
用いても修復するのは困難なものである。

続く。

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