第七章【2つの心】

第七章【2つの心】

19歳になったある日、
僕は自分に疑問を持ち始めていた。
僕は僕と言っているが、
性別上は女性であり、
「性別違和」(性同一性障害)である。

男性ともお付き合いもしてみたが、
お付き合いをすると
すぐにモヤモヤして気持ち悪くなってしまう。
友達ではいられるのに、
付き合ってしまうとダメになる。

当時自分がよく分からなかった。

付き合っていけばそのうち慣れるだろうと
さして気にも留めていなかったのだが、

やはりどうもおかしい…。

唯一友人と呼べる相手に相談して
この時初めて精神科へ行った。
診断の結果は上記で述べたとおり
「性別違和」(性同一性障害)であった。

この友人はイルカ君の同級生のいとこである。
親切な友人で当時は沢山世話になり、
僕が地元を出るまでずっと支えてくれた人だ。
肌は色白で絵を描くことが好きな少し変わった友人であった。

初対面の頃、僕が穴の空いたニット帽を被って絵を描いていた時に部屋に入るなり、
「初めまして!」と挨拶をしつつ、
ニット帽に足を乗せてきたのだ。
「…え?」
驚きのあまり戸惑っていると、
すぐに
「いや、穴があったからつい…」
とニカっと笑った。
変わった人だと思ったが
人見知りの僕の緊張を一気に解いてくれた。

友人にどんなに仲が良くても
男性と上手く付き合えない旨を話した所、
精神科を紹介してくれた。
この頃付き合った男性には振り回す形となり
本当に申し訳なかったと思う。

思えば小学生の頃から変だったのだ。
気になる女の子がいて、
仲良くなり距離が近くなると急に逃げ出したくなる。
しばらくしてその子に好きな人が出来た時は、
悲しくなり泣きたくなった。

この気持ちが何なのか分からなかった。
イライラする事も沢山あった。

好きという感覚は今もよく分かっていない。

恋とはなんなんだろう?
好きってどんな気持ちなんだ?

まだ幼い頃にこんな事があった。

小学3年生の頃イルカ君と2人でイルカ君の
同級生の家に泊まりに行った。
イルカ君の同級生は小学5年生で、
その兄は中学1年生だった。

夜になり4人で布団に入った。
目は閉じていたがしばらくは起きていた。
そうすると隣からひそひそと耳元で
何かを言われた。
なんて言っていたかはよく覚えていない。

そしてー

その後僕はその2人に何をされた?

体のあちこち触られて、
おそらく実験的に良くないことをされた。

イルカ君に助けを求めたが
イルカ君に「僕知らない!」と布団を頭まで
すっぽり被り寝たふりをされてしまった。
イルカ君もどうしていいか
分からなかったのだと思う。

2人は性に興味を持つ年齢で
あったに違いない。
まだ経験したことの無い無い未知の世界を
あれこれ僕で実験していった。

僕はその時自分がされている
一部始終をまるで他人事の様に感じていた。

次の日にその同級生の家の母親に
説明したが、
「あんたみたいなわがままで器量がない子に
うちの息子がそんな事するはずない、
絶対嫁に来て欲しくない」
その様な事を言われたと思う。
僕は当時小学3年生で説明が上手く出来ず
適当に流されてしまった。

おそらくみんな忘れているだろう。
まだみんな幼かったのだ。

何より覚えてて欲しく無い。

その2人の事を恨んだりはしていないし、
何とも言えない気持ち悪さを
時々僕が思い出す程度のことである。

たったそれだけの事なのだ。

ただ僕は自分の身体が心底大嫌いになった。

その時に人を好きになる感情も、
自分を大切に思う気持ちも、
どこかに落としてしまったのかも知れない。


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