第八章【成人式】

第八章【成人式】

20歳になった頃、成人式に出席するか
迷っていた。
定時制高校は4年制であった為、
17歳で高校へ入学した為まだ僕は高校生であった。
一生に一度だから出席した方が良いと
母に言われ面倒と思いつつも
渋々ながら出る事にした。
とは言えそれ以外でも
かなり複雑な心境であった。
家族には言っていない事があったのだ。
僕は中学の頃いじめにあっていた。

いじめは学年無視程度のものであり
暴力などは無かった。
たいして気にしていなかったのだ。
その程度は言う必要もないと思い黙っていた。

「はぁ…成人式か」

出席する事にしたのは、高校の友人やバンドからの友人や知り合いも成人式へ出席すると
言っていたからだ。

友人達とは会場が違うのも分かっていたが、
母や友人に勧められて重い腰を上げたのだった。

成人式当日。
会場で中学の同級生と久々に会った。
「サオちゃん(改名前の呼び名)久しぶり!
随分変わったね」
そう言われた。

「久々!メグちゃんは変わらないね」
久しぶりだと言うのに、
この程度しか言葉が出てこなかった。

メグちゃんは元々演劇部で中学卒業後は
女子校へと進んだ。
中学の頃メグちゃんとは漫画やアニメの話で
よく盛り上がっていた。
男子生徒に度々からからかわれては大泣きし、
常にチョコボールという
お菓子を持ち歩いていた為か、
男子からは「ちょこピー」という
あだ名で呼ばれていた。

彼女は真面目で正義感も強く、
母性も強かった。
中学も3年間一度も休まずに通った
立派な人だ。
僕が学校をさぼろうとすると必ず
家まで迎えにきてくれた。
授業を抜け出して帰ろうとする時も
引き留めてくれた。

メグちゃんはそんな心の優しい人であった。

「元気そうでよかった」
わずかな会話を交わしつつ
成人式を一緒に過ごした。

無事に成人式も終わり、
会場の外をフラフラ歩いていると
見覚えのある男子生徒がこっちに
向かってきた。
そして、
「こんなやついたっけ?
お前会場間違ってるんじゃね?」
と言ってきた。

知ってて言ってるのだろうが、
20歳になり成人式でそんな事を言われるとは
思ってもいなかった。

「ここであってるよ」
僕はふぅっとため息を吐き
それだけ言ってその場を去った。

当時の僕は元クラスメイトの顔に
見覚えはあった。
ただ今となっては言ってきたクラスメイトが
誰だったのか全く思い出せない。

おそらく僕が出会った中で
最も興味の無い相手だったのだろう。

成人式はメグちゃんと会えた事で
良いものになった。
中学生の頃の縁はここで終わりだが、
思い出はずっと記憶にとどまる。

生が尽きるまで、ずっとー。

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