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2021年・私的GOTY第2位『すみれの空』

プレイ中は恥ずかしながら涙そうそう、Twitterでも我を忘れて推しまくった作品である。また発売直後、自分的には相当暑苦しい記事をブログにも書いている。

なので、このnoteでも批評的視点からは遠く遠く離れて、主観的に推しまくっていくほかなさそうだ。

さて、どうして自分はそこまで本作『すみれの空』を推しまくるのか? 

「心動かされたから」に尽きる。

もし、あなたが筆者(ラブムーと申します)をご存知で、わたしに対してさほど好意も興味も持っていないとしても(あるいはめっちゃ苦手だとしても…)、あるいはたまたまわたしのnoteを初めて読んでいらっしゃるとしても、ぜひ私めの本作への「推し」を正面から受けて頂けるとありがたい限りです。

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つまりは、買って、プレイして頂きたい。とくに、何か大事なことを忘れてしまった(ことさえも忘れてしまった)老若男女に、全身全霊でイチオシしたい。もしプレイされるならこの先は読まずとも、さっそく以下Nintendo Storeより購入/プレイを。

尺の短いゲームなので(長くても4時間以内に終わるかと)、自分は本作を最初から最後までたびたびプレイしているのだけど、何度プレイしても、自分の心にびしびし響きまくる。ほとんど前世くらい遠い昔、小学校の視聴覚室で見た、タイトルもすっかり忘れてしまった牧歌的なアニメ映画のように。

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しかし、正直に書こう——本作は、登場人物の造型もストーリーテリングもいささか類型的である。あたかも現代版『日本昔ばなし』、あるいは小学校の「道徳」の授業で使われそうな、清廉な「説教感」に満ちているな……と感じるプレイヤーもいらっしゃるかもしれない。
安っぽい演出で所々白けてしまうシーンも多いし(具体的に例を挙げると——祖母の遺影ウインク、重要なシーンでのチープすぎるSE、既視感のあるキャラクターデザイン)、昭和の少女マンガ(『りぼん』や『ちゃお』)を想起させるようなベタな描写や台詞も少なからずある。

要は、濃いゲーマー/シニカルなサブカル好きの意表を突くような作品ではない(本作の愚直なまでのストレートさが「かえって響く」ということはあるかもしれないが)。諧謔もペーソスも、メタもどんでん返しもどこにも見当たらない。

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気恥ずかしくなるくらい真っ直ぐで鈍くさい本作の印象は、やはりこの小さな村で「鈍くさい」と同世代の学友たちに揶揄される、いかにも匿名的な少女「すみれ」と彼女をチアー・アップする守護者「花くん」の性格、存在感に呼応している。

そして本作には、プレイヤーがいささか拍子抜けしてしまうような、太い「或るメッセージ」が通奏低音となって貫いている。
それはこちらに澄んだ、真っ直ぐな瞳で問いかけ、繰り返される日常の中ではまともに考えることを避けてしまっているような、あまりにも本質的なことを問うてくる。すなわち……

「お前は今日が最後の日でも後悔しないか?」

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自分は本作をプレイ中、人生の途中で断絶してしまった友人や、長いこと会っていない父親、あきらめてしまった夢、忘れてしまった恋愛について、思いをこらしていた。いつのまにか。

わたしはかつて「すみれ」によく似た娘を知っていた。
彼女の心持ち、言動、行動がまるで手に取るように理解るような気がしたのだった。その無邪気さ。深い悲しみ。淡いあこがれ。

わたしは「チエ」(すみれの元親友)によく似た少女を知っていた。
彼女のわたしに対する(わたしの彼女に対する)複雑な感情、そしてわたしの(彼女の)苛立ちは、それまで友愛に包まれていたはずのわたしたちの関係をすっかり変えてしまった。

わたしと家族との関係はすみれのそれに少し似ていた。
自分も敬愛していた祖母が他界するまで、ろくすっぽ自分の気持ちを伝えられなかった。離れた場所に暮らしている父とは今でも電話1本することさえできない。

本作をプレイする方の多くが、そんな風に、自分自身の「のっぴきならない」感情や、忘れたくても忘れらない記憶をまざまざと思い出すことになるかもしれない。そうしてクリア後、それら感情と記憶が「浄化」とまでは言わないまでも、別の角度から捉えることができるようになるかもしれない(自分はそうだった)。本作はそんなリハビリテーション・ツールのような効用が確かにある。

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『UNDERTALE』の憎きフラウィ君に外観や語り口こそ似ているが(意図的なものだろう)、その出自と性格はまるで似ていない優しくてチャーミングな水先案内人である花くん。
本作における緩いリハビリテーションとは、この花くんに依っている。この世に属していないけど、いや、いないからこそ、花くんには、きっと此の現世で起きることの一切合切が別の場所から見えているのだ。

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しかし花くんとコミュニケートしていたのは、すみれだけではなかった。若かりし頃の母の隣にも花くんはいた(よく見ると上の画像——母と父の思い出の海——にも花くんの姿がある)。そして本作に登場するキャラクターにも、きっと1つ1つの花が——そしてあなたにもわたしもいる(いた)はずだ。

すみれの過ごす「今日の日」は、すみれが死ぬまで2度とないであろう一期一会の「とびっきりの日」だ。そんな日を、すみれの父と母が、そしてあなたの親や友人が、過ごした。あるいはこれから過ごすのかもしれない。そして僕の、あなたの、彼/彼女らの人生は続いてく。(もしかしたら死んでからも!)

そういうわけで、本作に少しでもご興味を持ってくださった方はしつこくプレイをおすすめしたい。自分だけの推しでは不十分なので、以下Steamサイトより海外メディアの賛辞を転記する(Metacriticなどでレビューを読むと、吾国よりも海外の方がずっと評価/売り上げが高いようだ)。

“『すみれの空』は日本のゲームや文化へのラブレターだ。最初から最後まで、純朴で暖かい物語が心を癒し、人生を前向きにしてくれる。”
8/10 – TheSixthAxis

“光と闇の間で感情を揺さぶる、他に類を見ない作品。『すみれの空』は全く新しい一日に踏み出す勇気を与えてくれる。”
9/10 – KeenGamer

“深く心を打たれた。ここまでゲームで泣いたのは何年ぶりだろうか。”
87% – Geeky Sweetie

(2021年私的GOTY第1位に続きます!)

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