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【台本書き起こし】シーズン1箱館戦争「星の進軍」 第4話 決戦の朝:ボイスドラマで学ぶ日本の歴史

松平N: 五月十一日。五稜郭と箱館市街を残すのみとなった榎本軍に、新政府軍はいよいよ総攻撃を仕掛ける。北の大地に夢を見た男たちの、最後の戦。その皮切りは、夜明けの箱館湾で始まった

●1(箱館湾)
兵1: 撃て撃て!
兵2: 怯むな!
松岡: いまや残った軍艦はこの蟠龍ただひとつ。踏ん張れ!
兵1: 我ら蟠龍の大砲が、敵・朝暘艦の右舷に命中。火薬庫を破壊し、爆発しました!
松岡: よし!

●2(五稜郭軍議の間)
松平N: 朝暘艦爆沈の報せは、五稜郭を守る榎本軍の士気を一気に高めた

榎本: よし!このまま陸上戦も乗り切れば……

松平N: だが、戦い続けていた蟠龍は、やがて弾薬が底をつき、浅瀬に乗り上げて乗員は艦を離れた。なによりこのとき、夜陰に紛れて新政府軍参謀・黒田清隆の軍勢およそ七百人が、箱館山の背後を登っていたのである

●3(箱館山山頂)
松平N: 箱館山の背後は崖といってもいい急峻な斜面。そこを突破されると、榎本は想像していなかった。このとき箱館山を守っていたのは新撰組、対する黒田は薩摩藩士。新撰組には積もる遺恨があった

黒田: あれに見える人影。斥候の報告によると、あれは新撰組でごわんど。京の都でのやつらの狼藉、忘れてはおらん。全員、銃を構え。大砲用意。突っ込めーー!

兵士達: うわっ!敵襲だ!
背後を突かれた!裏山に援軍を・・

●4(五稜郭軍議の間)
榎本: 奇襲だと!?
松平: 今報せがきた。まさかあの崖を登って来るとは
土方: 箱館山の新撰組は
松平: いったん弁天台場までさがり、そこで応戦しているそうだ。指揮は新撰組の相馬主計君だというから、しばらくは持ちこたえるだろう
土方: 相馬・・・
松平: 土方さん
土方: 四稜郭も落ち、蟠龍ももたない。あの煙では敵は市街地を制圧しつつある……。弁天台場は市街地を超えた箱館山の脇にある。このままでは……
榎本: 土方さん。ここからは籠城戦になる。この五稜郭に籠り、戦おう。なに、五稜郭は守りに長けた城郭。ありったけの武器を集めればもつ。そのあいだに、あなたに起死回生の作戦を立てていただきたい
松平: よせ、土方さん!

松平N: あたしゃてっきり土方が榎本をバッサリやっちまうつもりだって思ったね。だってあたしも半分、そう思ってたからさ

土方: そんなことしねえよ、太郎さん。松平副総裁。おれに馬と五十人の歩兵を貸してくれ
松平: あ、ああ……かまわない
榎本: 何をするつもりですか
土方: あんたが言う起死回生の技とやらさ、榎本総裁。朝陽撃沈の余韻が残っている。この機を逃す手はない。ちょっと引っ掻き回してくる

土方: あ、いつかの質問の答えだが
榎本: ん?
土方: その、何のために死ぬかという答えだが
榎本: あ、ああ
土方: 俺たち新撰組も蝦夷共和国の一員になれるかな
榎本: ・・も、もちろんだ。だってもうなってるじゃないか!
土方: フッ、それが答えさ、釜さん
榎本: い、いかん!
松平: あ、釜さん

●5(五稜郭の面)
土方: よし、いい子だ
榎本: 土方さん
土方: 総裁。なにしてる。一軍の将は奥にいるもんだ
榎本: じゃあ、あなたが今しようとしていることは、なんですか
土方: ・・・
榎本: 起死回生の技?引っ掻き回してくる?そんなことを言って、本当は新撰組を助けに行くつもりでしょう
土方: ん……
榎本: やめてください。あなたはわたしとは違う。あなたさえいれば、皆は希望を失わない。京の町を駆け抜けた新撰組、鬼の副長土方。あなたがいるから、皆は戦に勝てると思うことができる。あなたはこの五稜郭の星だ。弁天台場は堅牢な砦です。たとえ敵が市街地を占領しても、しばらくはもつ。どうか、今はここにいてくれ
土方: 榎本さん。あんた、何なんだ
榎本: 何なんだ、とは?
土方: オランダ帰りの旗本、海軍頭取様。あなたから見たら多摩の百姓のおれはクズみたいなものだろうと思ってた
榎本: 何を言う。負け知らずの常勝将軍といわれたあなたが
土方: おれが五稜郭の星?違うね。星はあなただ、榎本さん。あなたは正直、大将としては出来が良くない。むやみな自信で突っ走り、失敗すれば部下に頭を下げもする。頼りなくてやけっぱちで。
だが振り返ってみろ、皆、そんなあなたについてきた。これからの時代を生きるのは、必要とされる人間は。あなたみたいな胸に希望の星を抱いた大将なんだよ
榎本: 土方さん……
土方: 榎本さん。やりたいようにやれ。あなたはあなたであり続けるんだ
松平: 手を放しなよ。榎本総裁
榎本: 太郎さん……
松平: 土方さん。ご武運を
土方: あんたらもな!
ハイ!
松平: サムライの背中だな……

●6(馬上の土方)
松平N: 土方は五稜郭を出て一本木関門へと向かった。箱館市街へと通じる道中、歩兵を連れているので、馬では全力で駆けられなかったようだ

土方: 榎本さん、あんたは不思議な人だ。欠点だらけのくせに、妙な愛嬌がありやがる。おれも、釜さん、あんたに魅せられたらしい。だから最期に、やりたいことをやるぜ。

松平N: 一本木関門は海に近い。湾曲した地形のため、手を伸ばせばもう弁天台場に届くように感じられる

土方: 待っていろ、皆、おれが助けに行く。
進撃!怯むな!我この柵にありて、退く者を斬る!
兵士達: おう!エイエイエオー

●7(五稜郭総裁室)
榎本: 土方さんが……死んだ?
松平: 一本木関門で敵と戦闘状態になり、腹部貫通銃創。ほとんど即死だったらしい。大野君が知らせてくれた。遺体はなんとか引き上げて、もうすぐ五稜郭に戻って来る
釜さん。どうする。これから。
あなたがここの大将だ。大将は、皆が進む道を決めなければならない
榎本: 決める……
松平: 背負うんだよ
榎本: そうだ。わたしは、蝦夷共和国総裁だ

松平N: 明治二年、五月十一日。箱館決戦の日は、榎本軍の敗北が決まった日でもあった。またこの夜、瀕死の状態で苦しんでいた兵士たちに、榎本は致死量のモルヒネを与えて死なせてやった。北の大地に夢見た新しい国。その国の終焉が迫っていた


●脚本:日野草
●演出:岡田寧
●出演:
 榎本武揚⇒谷沢龍馬
 土方歳三⇒田邉将輝
 松平太郎⇒西東雅敏
 松岡磐吉⇒浜嵜凌
 黒田清隆⇒大東英史
 兵士⇒和田修昌
●選曲:効果:ショウ迫
●音楽協力:甘茶
●スタジオ協力:スタッフアネックス
●プロデューサー:富山真明
●制作:PitPa(ピトパ)

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