見出し画像

がん早期スクリーニング #Freenome について:ARK社のCEOインタビュー

こんにちは、ぴたごらら(@pitagorarara)です。
かねてより楽しみにしていたARK社Simon BarnettさんによるFreenome CEOインタビューが先週ポッドキャストになっていました。今回はこちらの文字起こし・要約をしてみたいと思います。

Disclaimer:
本内容の正確性などは保証できません。本内容、またそれに基づいた投資判断などにつき、私はいかなる責任も取れません。

本題に入る前に

がん早期スクリーニングの分野において、現在Freenomeの直接競合となるのはIllumina (ILMN), Exact Sciences (EXAS), Guardant Health (GH)などです。この分野の勢力図や詳細については過去noteも参考にしていただけると、より楽しめるかと思います。 

残念ながらFreenomeは現在未上場のため、一般の方が投資をすることはできません。このnoteもあまりウケが良くないだろうなと思いつつ、個人的な好奇心でまとめています。一方でIllumina, Exact Sciences, Guardant Healthに投資されている方もおられると思いますし、加えて「2021年以降ヘルステックが脚光を浴びる」という指摘はやすさん(@YasLovesTech)もされており、以下動画で引用されているCBinsightsのレポートの中でもFreenomeは非常に注目されています。

Championing Innovation Within Earlier Cancer Detection With Gabe Otte

今週は、Freenomeの共同創設者兼CEOのGabe Otte氏にお話を伺います。
話に入る前に、がんスクリーニングを簡単にまとめます。全てのがんでは、局所的で治療可能なものから転移性のものへという経路をたどっており、可能な限り早期にがんを発見することが合理的です。がんの5年生存率は局所性のがんでは約90%ですが、転移性のがんでは約24%にしかなりません。今日におけるがんスクリーニングのツールは約半世紀前のもので、その多くは感度に大きな課題を抱えています。
がんの早期発見にリキッド・バイオプシーのアプローチを応用することで、多くの異なるがんを一度に発見することができるようになります。(Freenomeが取り組んでいるのは)まず大腸がんですが、彼らのマルチオミックス・プラットフォームを使って、他のがんにも応用されていくでしょう。マルチオミックスとは、ゲノム(DNA)やトランスクリプトーム(RNA)だけではなく、複数の異なるカテゴリのデータを一度に見、それらを統合して、体内で何が起こっているのかをより全体的に把握することとして定義されます。
がんは、その分子情報を血液に流しています。それらは誤形成されたタンパク質や、突然変異のあるDNAの断片などで、 Freenomeがフォーカスしているのは、これらのシグナルを全て統合し、より大きなシグナルにすることです。それによって、いつ、体内のどこでがんが増えているのかをより高精度に予測することができます。

Q1 技術的な話の前に、あなたのバックグラウンドを教えていただけますか?
A1 私はずっとがんのような病気に取り組むことを目標としていました。科学者になろうと思ったのは、大きな病気に取り組み、その解決策を考えたいと思ったからです。がんスクリーニングが本格的に注目されるようになったのは、私が大学院に通っていた頃で、がんのような老化に関連した病気と、それがどのようにして起こるのかを研究していた時でした。ほとんどのがんで、早期発見した場合の生存可能性は90%以上である一方、後期に発見されると15%を下回ります。がん患者に最も大きな影響を与えるという点では、早期発見に焦点を当てる必要があります。また、私を10歳まで育ててくれた祖父が2回目にがんと診断されたのもその頃でした。1回目の時は比較的早期に発見されたので彼は助かりましたが、2回目は既に全身に転移しており、もはや手術も治療もできない状態で残念ながら亡くなりました。がんの早期発見に取り組む必要性を感じ、私は大学院を中退し、共同創業者と一緒に会社を立ち上げました。

Q2 マルチオミックスに何か新しいこと、面白いこと、違うことがあるはずだと、どこで気づいたのでしょうか。
A2 シーケンシングのコストが下がっていること、患者のために多くのデータを処理しなければならないことは(マルチオミックスにおいて)重要な点です。過去の診断分野を見てみると、これまでとは変わったことになるのではないかと確信しています。一つは、マルチオミックスのアセットの性質です。診断分野におけるアセットの大部分は非常にシンプルで、ほとんどの場合は(単一のシグナルを見る)シングルマーカーであって、血液から様々な異なるシグナルを見るマルチマーカータイプの検査はほとんどありません。たとえば前立腺がんを検出するのは、20年以上前から使用されている前立腺特異抗原(PSA)のような単一のタンパク質マーカーで、それには長所と短所があります。他にも非常に単純なタンパク質マーカーがありますが、最近になって、DNA、RNA、タンパク質の異なるシグネチャを組み合わせて、一つのアセットを作ることができるのではないかという概念が出てきました。Foundation Medicine(Roche傘下)のような企業が、特に腫瘍のシーケンシングの分野では、彼らが最初に、限られたいくつかの遺伝子だけではなく、腫瘍全体、全ゲノムのシーケンスを行い、幅広いアッセイで得られたゲノム全体の潜在的かつ興味深いシグネチャを全て見る、というコンセプトを提示しました。また、計算能力やバイオインフォマティクスのツールも成熟してきており、これらの活動の一部を行うことができるようになりましたが、DNAとタンパク質のシグネチャを組み合わせるようなことはまだ初期の段階です。異なる分析物を単一のアッセイに昇華するというのは全く新しい概念です。通常は単一の分析物に焦点を当てているので、実際には分析物を横断的に扱うことができるバイオインフォマティクスツールはほとんどありません。そして、私たちのアッセイを可能にする秘訣の一つは言うまでもなく、免疫シグネチャや腫瘍シグネチャを利用して検出を行うことができるようにしたものです。15年、20年前、思い起こせば、腫瘍の専門家に免疫システムを利用したがん治療についてどう思うかと尋ねたとき、彼らは笑い飛ばしました。免疫系はそれほど特異的ではない、などと言われていたでしょう。5年前、私たちがこの旅(=マルチオミックスを用いたがんスクリーニング)を始めた時、臨床医も同じようなことを言っていました。また、ある種の生物学に対する理解が成熟してきたことも、シーケンシングの技術向上とソフトウェアの成熟が相まって、今日を形成しているのだと思います。

Q3 研究の初期のころにおける教訓などを教えていただけますか。
A3 がん早期発見において、初期の頃はシグナル/ノイズの問題がありました。この問題は、かつては血液から実際に得られるシグネチャが少ないということに起因していました。そこで私たちはマルチオミックスにおいて、様々なシグネチャを組み合わせ、増幅されたシグネチャになるよう取り組んでいました。当時、私たちはそれが実際にどれだけ難しいことか、過小評価していたと思います。すなわち、たとえ全ての異なる分析、網羅的な研究を行なったとしても、そのようなものを臨床現場に出すのは現実的でないということです。当時用いられていた採血管では、これらのシグネチャを全て保存することができませんした。たとえばDNAを保存するように設計された採血管や、RNAやタンパク質を保存するための採血管などがありますが、私たちはこれらを全て一本の採血管で行う必要がありました。マルチオミックス企業として、実際に臨床応用できるツールにするためには、これまでに考えたことのなかったような課題がありました。分析物(個々のシグネチャのもととなるもの)一つ一つについて、品質管理が求められるのは言うまでもありません。データ処理に関してもこれだけ自由度が高いと、失敗する可能性が高くなります。臨床検査全体のfailure rateは30%そこらではなく、たとえば5%以下にしなければなりません。しかし(マルチオミックスにおいて)もし個々の検査が5%で失敗すると、それらは全て積み重なっていくことになります。私たちは、個々の検査を5%や10%といったfailure rateではなく、基本的には1%未満にしなければなりませんでした。これが本当に難しく、解決のために新しいラボでプロセス開発をしなければなりませんでした。これが私たちが初期段階での教訓と言えるでしょうが、それ以上に微妙なこともありました。たとえば、DNAとタンパク質のデータを取得していて、私たちが気付かなかったのは、採血管とタンパク質の処理方法の生で、タンパク質濃度の数値が実際の生理学を反映していなかったということです(たとえば採血管のせいでタンパク質が検出しやすくなったりしていました)。

Q4 あなたのような先進的な診断企業から見て、たとえば2014年頃と比較して、研究開発の重要性に関する考え方は、投資家、一般市民の間で大きく変化しましたか。
A4 私は、間違いなく変化してきていると思います。当社は、これまでにない診断会社であり、これまでは治療薬だけを扱ってきた投資家が、診断薬は技術的にも複雑で、治療分野に特化した会社と同じくらい複雑なものであると認識するようになってきています。また、コモディティ化することはずっと難しくなってきています。これがうまくいくグループもあれば、うまくいかないグループもあるでしょう。私は、彼らがこれらの非常に高い技術を持つ診断会社に飢えていると思います。

Q5 ディープサイエンスやディープテックに関わる企業は、投資家を教育するためのリソースを割く必要があるでしょうか。
A5 新しいことをやっていて、それを投資家に理解してもらうのは難しいと思います。私の経験上、私たちのアンバサダーは技術に精通していて、その違いをもっと広い範囲で理解してくれると思います。実際に遭遇した問題として、たとえば全ての研究がそのパフォーマンス(=アウトプット)と等しいわけではなく、そのニュアンスを理解することは非常に重要で、私たちはその点において(投資家に対し)教育を施す必要がありました。診断前と診断後の採血によってもパフォーマンスは変わりますし、民族差、性差、地域差などが与える影響もあります。クロスバリデーションしたのか、それとも性能評価のために固定されたモデルを使ってテストしたのか。このように、すべてのパフォーマンス数値が同じではなく、すべての研究が同じではないという認識が重要です。将来のデータがどのようなものになるのかを知る上で、(初期研究のデータは)全く意味をなさないかもしれません。一方で、ある企業は、重要な点を反映した形で初期研究設計を行っており、そのデータを将来の研究に向けてより有益なものとすることができるでしょう。投資家への教育を継続していく以外に、どのようにしてそこにたどり着くかはわかりませんが、重要なデータが読み出され、ある企業のパフォーマンスは他の企業よりも良く再現されるようになってくると私は思います。そして、投資家はなぜこのようなことが起こったのかという疑問を持つようになるでしょうし、その時には、おそらくより良い理解が得られるでしょう。

Q6 アドバイザー、メンターからの助言内容を教えていただけますか。
A6 特定の個人名は出しませんが、私が絶対的に信頼している人たちの中には、診断学の未来のあるべき姿について全く異なる視点を持った人たちがいます。それは素晴らしいことだと思いますし、私自身の道を切り開いていく上での助けにもなっています。その一つの例として、診断薬は医療制度の中だけではなく、消費者の目線に立ったものになるにはどうしたらいいのかということがあります。私のアドバイザーの一人が、その点で私にチャレンジしてくれました。もし診断薬にアクセスできないのであれば、たとえ感度が0%であろうと問題ではありません。また、プライマリーケアの医師の多くは、多忙のために最新の研究を読む時間がなく、アメリカ癌学会やUSPSTFのようなグループのガイドラインに頼ることになります。患者に代わってどの検査を注文すべきなのかを見極めるために、このようなグループの限界を押し広げ、可能な限り検査にアクセスできるように進化させていくことが、私にとってはかなり重要なことだと思っています。保険償還やガイドラインが診断薬分野における参入障壁であった点は、私にとって衝撃的でした。FDA承認を受けるような素晴らしい診断薬が保険償還やガイドラインの採用を受けられなかったために立ち行かなくなり、結果としてそのような企業が死んでいくのを見ました。「作れば使ってくれる」という典型的な技術格言は診断学には存在しません。検査を受けたいと思っている人や、知りたくないから検査を受けたくないと思っている人の心理的な要素も常に介在します。私のアドバイザーの多くは、必ずしも技術や科学に重点を置く必要はなく、これらの要素についても真剣に考えるように、と言ってくれています。これは私のスイートスポットで、私のバックグラウンドからこのようなことを考えるのは好きですが、チャレンジは常に存在します。
医療や臨床ケアの文脈でUI/UXについて考えるのは奇妙なことだと思いますが、実際にはCOVIDによってデジタルヘルス企業が台頭し、臨床医とのインターフェース方法が変わり、よりデジタルなものになったことでUI/UXがより重要になってきていると思います。これがどの程度続くかはわかりませんが、COVIDの後も長期で続くのではないかと思われます。そうなると、UIのあり方や、診断のUXについて考える必要が出てきます。今のミレニアルズは30代後半から40代前半で、5年から10年後には50代になります。この世代はUberやLyft、DoorDashなどのテクノロジーで育った世代で、彼らは医学に同じようなことを期待しています。診断を受けたい時、予約が3週間後になるローカルドクターを探し、そこに行ったと思ったら山のような医学的背景の質問に答え、最後に紙を渡されてLabCoprやQuestのような所に行かされ採血を受ける、このようなことを本当にやりたいでしょうか。今後5年から10年の間に、これらのUXがどのように改善されていくか興味深いです。ミレニアル世代やGen Zの方々は、年を重ねるごとにそれを求めるようになると思いますし、その本質を理解している企業はヘルスケアに大きな影響を与えると思います。

Q7 少し違った角度から質問させてください。もちろん長期的には変わってくると思いますが、がんのマルチスクリーニングがもてはやされている中、なぜFreenomeは単一のがんスクリーニング(大腸がん)にフォーカスしているのでしょうか。
A7 より多くの人々がマルチスクリーニングの方が正しいと思っているのは興味深いです。この考えはある程度正しいと思いますが、がんスクリーニングにおいては実際のところそこまで正しくないかもしれません。たとえば大腸がんのように、なってからが大変ながんの早期発見のための市場はどうでしょうか。基本的には、45歳以上の方がターゲットとなります。そこに他のがんスクリーニングを追加するとどうでしょうか。簡単に言うと、実際はそうなるべきではないと思います。先ほどの話に戻りますが、TAMを考えたときに保険償還を得られるかどうかは大きな要因であり、それは「マルチスクリーニング 対 単一のスクリーニング」という構図以上に重要です。Freenomeが個々のがんに焦点を当て、がんごとにアプローチをすると決断したのには理由があり、私たちの検査が患者にどのような影響を与えるのかを考えてきました。高特異度(high specificity)、すなわち陽性と診断されたときに間違いなく陽性であること、に意味があるスクリーニングにうまく当てはまるがんの種類があります。卵巣がんや肝臓がんなどは、このカテゴリに分類されると思います。一方で大腸がんや乳がん、前立腺がんなどは他のカテゴリに位置していて、相対的に高感度(high sensitivity)である必要があり、特異度はそれほど高く求められないでしょう。仮に偽陽性であったとしてもそれほど問題がなく、というのも大腸内視鏡検査のようなフォローアップステップが有り得るからです。私たちは、がんスクリーニングは”one size fits all”で全てを解決することはできないのではないか、と考えています。もし本当に患者さんのために正しいことをしたいと思うならば、少なくともいくつかのがんの適応症については、感度、特異度とコストの間にどのようなバランスがあるのかを、臨床ケアのパラダイム、医師のワークフローに適合させ、患者にとって有益かどうかしっかりと考える必要があります。その結果として、私たちは何よりもまず大腸がんに焦点を当てることに決めました。大腸がんは、スクリーニング検査によって患者の割合を劇的に変えることのできる適応症です。大腸内視鏡検査や、糞便検査はできますが、実際のところ医師に言われても大多数の人はこれらの検査をしていません。皮肉なことに、利用可能なスクリーニング検査があるものの、現実として感度が0%になっているということです。

Q8 PREEMPT-CRC試験について教えてもらえますか?
A8 この研究では、血液検査と大腸内視鏡検査の結果を直接盲検比較すします。興味深いのは、COVIDの影響で大腸内視鏡のスクリーニング検査の数が急速に減少していることです。これは、今まで以上にリキッド・バイオプシーによるスクリーニング代替の重要性を浮き彫りにしていますので、できるだけ早くこれを普及させたいと思っています。この試験は、アメリカにお住まいの方であれば誰でも参加できるのが魅力です。45歳以上、特に60歳以上の方で、過去9年間に大腸内視鏡検査を受けていない方、そして過去10ヶ月間に糞便検査をしていない場合は、間違いなくこの研究の対象となります。専用のウェブページに行き、メールでサインアップするだけで患者登録が早まります。この研究を早く終わらせることができれば、特にCOVIDのようなパンデミックの真っ只中にある人々が利用できる画期的な血液検査を早く提供することができると思います。大腸内視鏡検査のために病院に行かなくても、ボタンを押すだけで自宅に来て採血をしてもらえるとしたらどうでしょうか。これが将来のがんスクリーニングです。これは本当にエキサイティングな未来で、私たち全員が楽しみにしていることです。ですから、もしあなたが私たちを助けることができるならば、是非とも登録してください。

所感

いかがだったでしょうか。マルチスクリーニングには慎重派、かつサイエンスを非常に大事にしていて、その点でアドバイザーから実際に指摘を受けるなど、投資家サイドからはビジネスとのバランスを考えたときに物足りなかい部分があるかもしれません。ところどころSimonさんとは噛み合っていない印象を受けました。DNAだけを見る競合他社と違ってマルチオミックスという高度なことをやるため、臨床導入された際のコストがどのようになるかも気になります。加えて採血管などの消耗品などにも気を配る必要があるでしょうし、ビジネスを考えた時にはなかなかハードルの高いことをやっている印象です。
一方でこれだけのことをやるからにはパフォーマンスには期待ができるはずで、その結果でもって競合他社を凌駕していく可能性はあります。上場、あるいは被買収などが近くあるかもしれませんので、引き続き動向は追っていきたいと思います。

↑これは私の妄想ですが、あながち間違ってもないと思うんですよね…

↓この記事が良かった、ぴたごららを個人的に応援したい、と思ったらサポートいただけると励みになります。

ぴたごららファンドへのサポートをいただけると助かります!