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ARK InvestのIllumina $ILMN 考察(GRAIL買収に関して)

こんにちは、ぴたごららです。
少々前の話題(2020年9月)にはなりますが、遺伝子変異と生物学的機能解析のための統合システム製造・販売を手掛けるIlluminaが、リキッドバイオプシーによるがんの早期発見に取り組むGRAILを80億ドルで買収することが発表されました。Illuminaは10月19日時点でARKKの組み入れ19位(1.84%)、ARKGで12位(2.66%)のARK銘柄でもあります。

この買収に関し同社のゲノミクス・アナリストであるSimon BarnettさんがPros/Consの考察をされていたので、そちらを日本語でまとめます。前回のInvitaeまとめに関してはたくさんの反響をいただいたのですが、エセ関西弁がよかったという声はありませんでしたので今回は普通に引用・意訳します。

↓原文をまとめたスレッド

Disclaimer:
本内容はSimon Barnettさんの一連のツイートを引用・意訳・改変したもので、内容の正確性などは保証できません。正確な内容に関しては原文をあたってください。本内容、またそれに基づいた投資判断などにつき、私はいかなる責任も取れません。

Pros

GRAILの検査(Galleri)は、ゲノミクスの中でも最大規模の臨床試験のいくつかで評価中です。これらのうち以下3つは現在進行中です。
・PATHFINDER (6,200例; 終了予定2022年1月)
・STRIVE (99,481例; 終了予定2025年5月)
・SUMMIT (50,000例; 終了予定2030年8月)
終了予定は試験完了を基準にしています。例えばSTRIVEの場合のように、副次評価項目が商業化・償還に関連性が高いと考えているからです。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03085888?term=strive&draw=2&rank=8

筆者注)例えばSTRIVEの主要評価項目は以下で、これ自体は2022年6月に完了予定です。
・GRAILの浸潤性がん検出における性能評価
・乳がんやその他の浸潤性がん検出のためのGRAILの予測アルゴリズムとカットポイントの改良
ただ、副次評価項目である以下が商業化・償還に関連性が高く、それらが終わるのが2025年5月という意味と理解しました。
・悪性の血液腫瘍を含む浸潤性がんの診断、ならびに臨床的に意義のあるサブグループでの浸潤性がん検出におけるGRAILの性能評価
・悪性の血液腫瘍を含む浸潤性がんの、6か月スパンでの診断
イメージですが、臨床現場において実際に使う上で重要なのはどちらかというと副次評価項目の内容、という理解です。

これらは商業化を促進する研究ですが、結果取得には時間がかかります。2021年に商業化されるGalleriのバージョンは、GRAILのCCGA(15,000例)試験から得られたもので、以下の論文は皆さんに是非読んでいただきたいと思います。

筆者注)無料で読めるようです。

CCGAでは、Galleriは複数のがんの早期発見用リキッドバイオプシーで最高の性能を達成しました。

Illuminaの公表内容
ハイライト:
・標的メチル化解析により、スクリーニングの仕組みを持たない高死亡率のがんを含む50種を超えるがんを同時に検出し、TOO(原発組織)を特定した。
・全てのステージにおいて、99%を超える特異度をもってがんが検出された(ステージ1-3 感度43.9%;ステージ1-4 感度54.9%)。単一の偽陽性率は1%未満であった。
・標的メチル化解析により、90%を超える精度をもってTOOを特定した。TOOの特定は直接のフォローアップに欠かせないものである。
・これらは大規模に複数のがん早期発見を目指すGalleriの研究継続をサポートするものである。

ARKはすでにCCGAの結果について言及しています。

GRAILのメチル化解析のアプローチはユニークで強力だと考えています。このアプローチは低コストで、早期疾患の検出を可能にします。以下参照。

Galleriがブレークスルー機器指定を受けたことは、(a) CMS(Centers for Medicare & Medicaid Services;公的医療保障制度メディケアおよびメディケイドの運営主体となっている組織)がMCIT(Medicare Coverage of Innovative Technology)パスウェイを最終決定し、(b) GRAILがMCITに成功すれば、FDAの審査が加速し、安定した国の償還を受けることができることを意味しています。以下参照。

Illuminaの一員として、GRAILは、会社の名前、ブランド、知名度はもちろんのこと、Illuminaの既存のラボのインフラや、グローバルパートナーへのアクセスをより加速化することができるかもしれません。ソフトウェアエンジニアリングとメチル化ベースの機械学習トレーニングにおけるGRAILのリードは注目に値します。これらを総合すると、GRAILは複数のがんにおけるリキッドバイオプシー・スクリーニングのフロンティア企業の中にしっかりと位置していると考えています。GRAILの主な利点は、現在進行中の大規模な臨床研究、メチル化に焦点を当てた研究、機械学習に精通した研究、そしてGalleriが発表したCCGAでの性能にあります。GRAILはIlluminaの一員として、検査センター、集団シーケンシングへの取り組み、医療システムへのアクセスを加速させることで恩恵を受けることができるでしょう。しかし、未解決の疑問や懸念は多数あると考えています。

Cons

Illuminaは現在、スクリーニング、治療法選択、微小残存病変モニタリング(MRD)のようないくつかのドメインにわたって既存の(または今後発売予定の)製品を持つ顧客と競合することになります。全てを網羅しているわけではありませんが、以下がIlluminaの競合と考えられます。
・スクリーニング:Thrive Earlier Detection, Freenome, Exact Sciences, Guardant Health (GH)
・治療法選択:Invitae (NVTA), Natera (NTRA), GH, Veracyte, Tempus, Roche
・MRD:NVTA, NTRA, GH, Roche
私たちの見解では、これらの企業は(集合的に、また個々に)臨床診断薬を発売するのにはるかに有利な立場にあると考えています。理由としては、診断薬発売を成功させるための専門知識や経験がIlluminaにはないと考えているからです。
がん治療のリーディングカンパニーは、一般的に、規制当局、保険者との統合、検査前後の教育、バイオファーマ/コンパニオン診断パートナーシップ、医療報告書作成、支払請求、検査情報管理(LIMS)、ハイスループットラボの自動化、品質管理、臨床意思決定支援ツールなど、幅広い領域の専門知識や垂直統合を持っています。これらの領域は、IlluminaとGRAILの現在の専門知識外であると考えています。このインフラを構築するには費用、時間が共にかかります。さらに、Illuminaがこれまで臨床市場への浸透を試みてきた、スクリーニングよりも簡単なNIPT(新型出生前診断)やIVD(体外診断用医薬品)ベースのオンコロジー製品(TruSeq)にはそそられません。むしろ、これらの市場は純粋な診断企業に集約されつつあるようです。
Illuminaは、(a) スクリーニングのTAM(獲得可能な最大市場規模)が大きい(75億ドル以上)こと、(b) Galleriがユニークで差別化されていると感じていることから、顧客と競合することを選択したと説明しています。若くてリスクの高い層を選択的にスクリーニングし、価格を下げられれば、TAMはさらに大きくなる可能性があると考えているようです。

ということで、市場の反応(株価下落のこと?)については同意しますが、ここでGalleriを再検討してみましょう。Galleriの唯一のインプットであるメチル化を確実に分析する能力は、Twist Biosciences (TWST)のメチル化キャプチャパネルによって可能になりました。どのような検査プロバイダーでもTwistパネルを購入することができるので、競争の場を平準化することができます。確かに、Illuminaは独自のキャプチャパネルを作成しようとすると高価で時間がかかり、Galleriのアッセイプロトコルを強制的に再検証することになるかもしれません。我々は、Illuminaの現在の試薬性能が模範的であるとは考えていません(下記参照)。

データ、具体的にはCCGA研究を、研究のデザインから再検討してみます。CCGAは観察研究であり、テストの結果によって治療法が変更されることはありませんでした。これでは、このような試験の「実際の」効果の理解に限界があります。さらに、カンファレンスで言及された最終的な検証コホート(1,264例)では、がんの発生率は約52%でした。これは、1,264人のうち52%が癌になったことを意味します。しかし実際には、50歳以上の人のうち、年間1.3%しかがんと診断されません。このことから、この結果が本当に使用目的の集団に一般化できるのかは疑問です(資金繰りに困っているスタートアップにとって、機械学習トレーニングのためにがんに特化した層を必要とした場合の必要悪であると主張することもできるでしょうが)。
Thrive Earlier Detectionの最近のDetect-A研究(10,000例)(介入研究で特異度は99%)では、がんの存在については濃縮されていませんでした。この検査はメチル化ベースではありません。

筆者注)この研究では約1%にがんが確認されたとのことで、いわゆる自然発生率との乖離がない、と理解しました。

GRAILの検査および商業的努力は、そのTOO分類に焦点を当てています。これは、表向きは93%の精度で、体内のどこにがんがあるかを医師が知ることができます。私が本当に問題にしているのはここで、GRAILの「93%」の中に、偽陽性は含まれていないことです。
このポイントを確認するためにいくつかの計算をしてみましょう:1,000,000人の代表的な母集団で、1.28%のがん罹患率とGRAILのパフォーマンスデータを使用すると、以下の結果が導かれます。

感度が44%の場合、私の計算では、陽性の多くは真よりも偽になります。明らかにTOOは偽陽性の場合に間違っているでしょう。仮に偽陽性を含めると、TOOの読み取り値は約93%ではなく、約42%の確率で正しくなります。私が懸念しているのは、このように低い予測力では、規模的に問題が出るのではないかということです。これに基づくTOOの読み取りを信頼する代わりに、全身PET-CTを行う可能性が高いと思います。

筆者注)「陽性の多くは真よりも偽になる」というのは、True Positive 5,621に比べてFalse Positive 6,911が多いという指摘ですね。
「明らかにTOOは偽陽性の場合に間違っているでしょう」というのは、偽陽性の場合はそもそもがんが無いですから、TOOも何も存在しない、という指摘かと思います。
42%というのは真の陽性数5,621/(5,621+偽陽性数6,911)=0.449, 0.449×精度0.93=0.417での算出でしょうか。40%強しか当たらない検査結果だったら、それを信頼せずに画像検査でがんの早期発見に取り組むのでは、という主張ですね。

最後に、Illumina社のGRAILへの売却と再投資、特に業界への先見性に関しても懸念があります。我々はまた、GRAILのための研究開発費は大幅に多くなり、収益が増加するまでに時間がかかる可能性があるとも考えています。例えば、PATHFINDERでは、遺伝性のがんリスクを選択基準としていますが、GRAILはこれを専門としていません。既存のベンダーとの提携は難しくなるのでしょうか?独自の生殖細胞系列のワークフローを開発する必要があるのでしょうか?その場合、彼らは”つまらない”生殖細胞系列シーケンスに成り下がるのでしょうか?
考慮すべきことはたくさんあります。多くのPros/Consがあり、ここでの私の考えは網羅的なものではありませんし、コミュニティからのフィードバックを聞きたいと思っています。最後に、これは投資助言ではありません。

追記1:真の陽性よりも偽陽性の方が多いということは、GRAILの検査に特有のものではありません。これはおそらく、スクリーニングに取り組むすべての企業にとっての課題となるでしょう。私のコメントは、TOOが検査後の結果にどのように影響を与えるか、あるいは影響を与えるかということに焦点を当てています。

追記2:@wintonARKが、TOOの読み出しが実際にどのように使用され得るかについて良いポイントを提示してくれました。医師は、陽性にフォーカスイメージングを行い、93%の真の陽性を特定し7%の陰性を除外することができ、これはPET-CTを全例にやるよりも安価です。
確かに、この方法では感度は弱くなるでしょうが、検査陽性者を体系的に追跡調査することが可能になるでしょう。私が知りたいのは、全身PET-CT(あるいは他の高感度全身画像モダリティ)がフォーカスイメージングよりも高価なのかどうかということです。さらに、このシナリオで医師はどのように行動するのでしょうか。フォーカスイメージングを行い、7%のTOO不正確のリスクを冒して、腎臓がんと思われていた患者を帰宅させて、実際には肝臓がんであったことが判明してしまうのでしょうか?

筆者注)直訳だとよくわからないですね。
GalleriでTOOが腎臓と判断された場合でも7%の確率でこの結果が間違っている可能性があります。その場合に腎臓だけ画像検査していると真のTOOを見つけられず、実は肝臓にがんがありましたというケースが起こり得るのでは、という指摘だと理解しました。
わからないのは「陽性にフォーカスイメージングを行い、93%の真の陽性を特定し7%の陰性を除外することができ」という部分で、前段での偽陽性の話を総合すると陽性の中で40%ぐらいしか画像検査でがんは見つからないのという主張だったのでは、と思います。ここでは母数を真の陽性だけに絞っているんですかね。

所感

印象としては、ARK InvestはGRAIL買収をあまりポジティブには受け取っていないようです。かといって現時点で手を引くわけでもなく、今のところ株数も維持、あるいは増やしているようですね。それもIllumina自体が時価総額で約460億ドルの大きな会社であり、たとえこの買収自体が失敗に終わっても違うストーリーがあると考えているからじゃないかなと思います(ちなみにInvitaeは84億ドル程度)。元をたどるとGRAIL自体がIlluminaからスピンアウトした企業なので、そこの再取得となるとその事実だけで少し迷走している印象を受けてしまいますね。

参照:
Illumina to Acquire GRAIL
https://s24.q4cdn.com/526396163/files/doc_presentations/2020/09/21/ILMN-to-Acquire-GRAIL-21-September-2020.pdf

↓私が投資しているArk InvestのETFについては以下をご覧ください。最近ARKFも買い始めました。

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