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Seer Inc.とプロテオミクス $SEER

こんにちは、ぴたごらら(@pitagorarara)です。
早速ですが、KJさんのnoteをご一読ください↓

読まれましたか?内容としては2020年12月4日にIPOしたプロテオミクス企業Seer Inc.の紹介と企業分析で、ビジネスモデルの概説から売上計上までのタイムライン、細かい特許の話までカバーされていて秀逸です。KJさんはフットワークの軽さと専門外領域でも物怖じしない胆力、知的好奇心の強さが素敵ですね。

  終
制作・著作
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(これに…俺が…何かを付け加えるのか?)

前回のTwist Biosciencesと同じく完全に蛇足ではありますが、ご指名いただいたこともありますし少し調べた内容を書いてみようと思います。最初に白状しておくとナノ粒子技術は私も理解できませんでして、ひいてはSeerが競合他社に比べてどの程度の技術的な優位性があるか、ワイド・モートがあるかは正直わかりませんでした。なのでSeerというよりはプロテオミクスの話がメインです。ちなみに私個人の話をすると、ゲノムは人並み程度に理解しているつもりですが、タンパクはからっきしです。それではハードルを思い切り下げたところで本題に入ろうと思います。

Disclaimer:
本内容の正確性などは保証できません。本内容、またそれに基づいた投資判断などにつき、私はいかなる責任も取れません。

そもそもプロテオミクスってなに?

わからないことは全部wikipediaが教えてくれる時代です。

プロテオーム解析、またはプロテオミクスとは、特に構造と機能を対象としたタンパク質の大規模な研究のことである。(中略)プロテオミクスは、ゲノミクスの次にシステム生物学の中心になる学問分野だと考えられている。ゲノムがある生物の全ての細胞でほぼ均一なのに対して、プロテオームは細胞や時間ごとに異なっているため、プロテオミクスはゲノミクスよりもかなり複雑になる。同じ生物でも、異なった組織、異なった時間、異なった環境ではかなり異なったタンパク質発現をする。また、タンパク質自体が遺伝子と較べて遥かに多様であることもプロテオーム解析を難しくしている理由の一つである。例えば、ヒトには約25000個の遺伝子が知られているが、これらの遺伝子に由来するタンパク質は50万個を超えると見積もられている。このようなことが起きる原因は、選択的スプライシングやタンパク質の修飾、分解などである。
(wikipediaより引用・抜粋)

難しい話は飛ばして、「ゲノミクスは簡単(簡単になった)、プロテオミクスはいまだに難しい」というざっくりした理解でよいのでは、と思います。余談ですがArk社ETFのARKGのテーマは"Genomic Revolution"です。そのさらに先を行っていると思うと…ワクワクしますね。

ゲノミクスとプロテオミクスの関係性についてもう少し深掘りをしてみましょう。こんなこと知ってるよと言われるような内容かもしれませんが、DNAとそれをもとに生成されるタンパクの関係は、ものすごく簡略化すると以下のような感じです。

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上の模式図では遺伝性疾患について、設計図と爆弾を例にしています。遺伝性疾患では先祖より受け継いでいる遺伝子に病気のもとになる情報(設計図)が含まれていて、それがタンパク(爆弾)となって実際に悪さをすることで発症したりするわけですね。別に設計図自体が悪さをするわけではないので、遺伝性疾患の遺伝情報を持っているからといって、全員が病気を発症するわけではなかったりします。

通常「BRCA1」の遺伝子に変異が見られる場合の乳がん発症率は平均65%とされているが、医師によれば、アンジェリーナさんの乳がんの発症リスクは87%、卵巣がんが50%と診断されたという。この事実を知り、彼女が決心したのは予防のための両乳房切除手術だった。(記事より抜粋)

上記のアンジェリーナ・ジョリーさんの記事の中で発症率が100%ではないのは、遺伝情報(設計図)をもとにがん(爆弾)が作られるかもしれないし、作られないかもしれないから、と理解できます。

さらに余談ではありますが、以前Twistの記事で取り上げたDNAのメチレーション(メチル化)などは「設計図に何かを書き込む」という行為に近いと思います。設計図に「この手順は飛ばして!」みたいな書き込みがされていれば、出来上がるものは変わってきますよね?このような修飾などを通じてタンパクの生成は制御されています。

ここでSeerの企業ホームページをみてみます。プロテオミクスにおけるソリューションを提供する企業なので、当然ではありますがプロテオミクスの利点を押し出しています。

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上図の中で、ゲノムがリスクの静的指標(static indicator of risk)とされているのは「設計図自体が悪さをするわけではない」からで、プロテオームが状態の動的指標(dynamic indicator of status)とされるのは「作られた爆弾自体をモニター(監視)できるから」と置き換えて考えられます。ゲノムをもとに予防行動をとるのは、ある意味で犯行計画段階の爆弾魔をしょっ引くことと似ていて、一方でプロテオームをもとに行動をとることは性質として現行犯逮捕のようなものとも言えると思います。
(全然関係ない話ですが、上図の中で"utility"がミススペルで"untility"になっています。ウンティリティ💩)

Seerの技術ってなに?

いきなりネタバレですが、よくわかりませんでした。おそらく誰もが知っている高名なネイチャー誌(厳密にはNature Communications)に論文が出ているので、物好きな方は読まれるといいと思います。Open accessなので無料で読めます。

いかがだったでしょうか?私は途中で諦めました。それでもintroductionとdiscussionをナナメ読みして、以下のポイントを抜き出してみました(S-1からの引用もあります)。

・タンパクはそれぞれ大きさにとても差があるので確認するのに手間がかかる。
・そのものは微量だがPCRで簡単に増幅できるDNAと違って、タンパクは複製が容易にできないのでタンパクそのものを確認する必要がある。しかも、重要なタンパクはとても微量かもしれない。
・Targeted MSは進化してきて数百のタンパクが確認できるようになった。ただ、まだ数百レベルなので見たいタンパクをあらかじめ決めておく必要があり、バイアスがかかる。
・現行の技術でも血漿中から4,500種類のタンパクをある程度バイアスのない状態で確認できるが、とても時間がかかる(数日から数週間)
→Seerはこれらを解決する技術を提供(数時間レベルで網羅的に確認できる)

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最強ですね。この時短技術の根幹になっているのはSPIONs (superparamagnetic iron oxide NPs:超常磁性酸化鉄ナノ粒子?)と呼ばれるもので、通常であれば遠心分離したり、膜で濾過したり手間がかかる洗浄作業を、ナノ粒子に酸化鉄を練り込んでおく(?)ことで、後々マグネットを使ってちょちょいと終わらせられる、ということみたいです。

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正直ナノ粒子のところはよくわからないので、KJさんのnoteを見てもらった方が良いと思います。

プロテオミクス、あるいはSeerの技術をなにに応用するの?

プロテオミクスにはほかの利用法もあるだろうか。たとえば、大腸ポリープの成長を示すタンパク質を血液中に見つけられるようになれば、大腸内視鏡で調べるより、はるかに楽だろう。一般に、ある年齢を過ぎると5年から10年ごとに大腸内視鏡検査を受けることを勧められる。しかし1000人に1人は、その検査自体からダメージを受ける。その検査を受けることを想像しただけで、不安になる人も多いだろう。
しかし、残念ながら現時点では、大腸内視鏡検査は、大腸がんを早期発見する最善の方法となっている。もしも年に1度の血液検査でそれが発見できるなら、そのほうがずっといいのではないか? 取り除くべきポリープが見つかった場合だけ、大腸内視鏡検査を行えばよいのだ。これはプロテオミクスがもたらす可能性のほんの一例にすぎない。医療費はもちろん下がるだろうし、侵襲的検査による思いがけない事故も減少するだろう。
(記事より抜粋)

こちらは2014年の日経メディカルの記事で、あえて古いものを引っ張ってきました。実は大腸がんの早期発見という意味ではゲノミクス/完全非侵襲(検便方式💩)のCologuard (Exact Sciences)などが既に存在するので、プロテオミクスの出る幕はあまりないかもしれません。

ゲノミクス/血液によるリキッドバイオプシー(Illumina/GrailのGalleri、Exact Sciences/Thrive Earlier DetectionのCancerSEEKなど)も進化しているので、そう遠くない未来にCologuardすらお払い箱になる可能性もあります。

「あれ、さっきゲノミクスは設計図情報しかわからないって言ったじゃん」と思われた方もおられるかもしれません。これらのスクリーニング検査は癌細胞だけが持つユニークな遺伝子を検出するもので、設計図を持っているということ自体ががんであることの証明になっている、とご理解いただければと思います。上で触れているアンジェリーナ・ジョリーさんのケースは「遺伝性がん」という少し違った枠組みになります。

これはがんの早期発見という一面を切り取っただけなので、これをもとにプロテオミクスが不必要だと言うつもりはありません。むしろ現在ゲノミクスが隆盛を誇り、近い将来にもどんどん重要性を増していくであろう背景には、次世代シーケンサーのような「簡単に、網羅的に」検査できるソリューションが果たしてきた役割が大きいと思っています。Seerの提供するサービスは次世代シーケンサーのプロテオミクス版というイメージを持っていますので、これを用いたpopulation proteomicsが進むことで生体内で重要な意味を持つタンパクが特定され、それをどう予防医療に応用するか、あるいは制御することで病気を治療していくか、という話につながるのではと予想します。

↑Population "genomics"ではありますがご参照ください。これに限った話ではありませんが、国家プロジェクトに採択されると安定した売上が見込めます。

まとめ

個人的にフォースは感じるのですが、いかんせんバリュエーションはわからないですし、数年後にどうなっているという予想も全くできない状況です。Twistを調べた時にも同じような感覚になりました。
IPO直後ということもあり、株価はしばらく落ち着かないでしょう。5年、10年単位で触らないということを固く誓った上で、Arkが購入するタイミングで小額買うのはありかな、と思いました。Arkが買うかはわかりませんが。

特に意味もなさないmarket cap比較です(Charles Schwab, Robinhoodより)。

・Twist Biosciences: $5.8b
・Pacific Biosciences: $3.8b
・Seer: $7.2b

参考資料:
Seer S-1

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