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プロの裏側シリーズ: 著名投資家お気に入りのアルゴって何?『アルゴ板』検知プロセス

マーケットが動く、特に下向きに動くと必ず出てくるのが

『アルゴが売っている』

もう慣れましたが、アルゴがという主語はどう考えてもおかしいです。

『投資家がアルゴを使って売っている』

なら100歩譲って日本語的にその時の状況を表している表現としては正しいですが、うーん、この辺の事実関係を広く浸透させるのは相当大変な作業です。

とは言え個人投資家がアルゴリズム取引についてどの程度まで知識を持つことが投資に必要かと問われると今のところわかりません。

ぼくはファンクラブオフ会の時に個人投資家にとってアルゴの必要性について二つに分けて話をしました。

ただ将来

個人投資家もアルゴなしでは取引できない
・アルゴの使い方を知らなければ不利になる状況が来る

と考えています。

何故なら

20年前機関投資家が同じような事を言っていて

『アルゴなんか使うな❗️トレーダーに執行させるために手数料を払っている』

なんてことをコサカストレーダーはよく言っていました。

そんなことを言っていたコサカスバイサイドトレーダーは駆逐され、その時からアルゴや市場構造としっかりと勉強した当時若手のトレーダーが出世し、今ではマーケットでのご意見番になり、ゲーム感覚で既存の概念をぶち破ってトレードする今風プロトレーダーの台頭が見られるバイサイド業界の現状を考えると個人投資家の間にも同じような事が起きてもおかしくない、いや起きると確信しています。

マーケットがアルゴフレンドリーに変わったこともあります。

東証がそれを後押ししたことは間違いありません。

それに対応できるようバイサイド・セルサイドのテクノロジーが大きく進化しました。

呼び値刻みが縮小され、東証はArrowhead導入及び継続的アップグレードで高速化され、市場マーケットシェアも高速取引業者が大半であることを考えれば当然です。

その中で個人投資家はどうでしょうか?

現状個人投資家中心のオンライン証券が提供できるアルゴ取引はまだまだ選択肢が少なく動きも雑

しかしこんなニュースもありました

このようなに業界事情が変わってくると一気に個人投資家株トレードの電子化が進むかもしれませんね。

僕はその時の為に個人投資家にまともなアルゴ知識を持ってもらいたい。
個人投資家が使いやすいアルゴの提供をしたい。

という夢に向けてその前段階としてシステムトレードを推進していることは以前お話ししたとおりで、そのきっかけ作りの第一歩が踏み出せたことをとてもうれしく思っています。

が、まだまだこれからです。

■グローバル投資家にとってのアルゴリズム取引

アルゴや電子取引事情を考えていた時に外資系証券会社が提供できるアルゴリズム取引の主流をまとめさせていただきました。

一旦書き始めるとそれをメインで使うグローバル投資家がトレーディングの主流となって久しいアルゴリズム取引に関して今何を考えているのかを知りたくなり様々な文献を調べてみました。

生でトレードを見られないので文献に頼るしかなかったのは少々残念でしたが…

そこには僕もアップデートが必要な様々な現実やマーケットに対峙しているバイサイドの苦しみなどが現れており、今回はそれを紹介させていただくことにします。

基本買いしかしないロングオンリーとショートもするヘッジファンドに分けて現状を解説していきます。

アルゴを主として使う機関投資家のトレンドを知ることは僕が以前書いた

『アルゴ板』

の理解にも非常に重要ですし

『トレーディングコスト』

の考えの最先端が理解できることでフロードリブンでの株価の行く末を想像できるようにもなると考えます。

■ヘッジファンド編

2022年はマーケットが低調だったこともあり、ヘッジファンド業界全体は低いパフォーマンスだったものの、それでもS&P500が2022年に20%近く下落したことを考えると、 ヘッジファンド全体のパフォーマンスは8.9%程度のマイナスに留まり(バークレイズ・ヘッジファンド・インデックス)ある程度のダウンサイドプロテクション能力を発揮しました。

ヘッジファンドのパフォーマンスがS&P500をアウトパフォームしたのは14年ぶり。

業界の中でより成績が良かったのは規模の大きなヘッジファンドとマクロ系ヘッジファンド

ヘッジファンド残高ランキング

これらのファンド中心にアルゴリズム取引に対する考え方は多少変わりつつあるようです。

彼らが重要視しているのは

・ダークプールへのアクセス
・スピード
・操作性の良さ
・トレーディングコスト低減


特にスピードとコスト低減に関しては、以前まで重要視されていた執行の安定性やサポートにとって代わって重要と考えているようです。

これ実はヘッジファンドと証券会社との付き合い方が若干変化したことを意味します。

以前ヘッジファンドは証券会社のアルゴを使いながら証券会社のアルゴトレーディングデスクの担当者からのコンサルティング、つまりマーケットの局面毎どのようなアルゴを使うのがトレーディングアルファ創出に効果的なのか、トレーディングコスト低減につながるか、などという担当者のコンサルティング能力を重要視していましたが、その重要性が下がったようです。

その一方スピードや操作性の重要度が増したということは、ヘッジファンドはより オーダーのコントロールを自前で行う傾向 がより強くなってきたということになります。

これはもしかすると業界全体で才能あるトレーダーが離職したり、カギを握るコンタクト先(証券会社担当トレーダー)が急に居なくなるという業界全体が抱える問題がバックグランドに合った可能性があります。

一方でバイサイドがセルサイドよりIT的に進んでしまった可能性もあります。

それが理由でバイサイドでのオーダーコントロールの重要性が増したとなると証券会社のビジネスは厳しいですね…

ではなぜアルゴリズムと使うのかという各論に進むと興味深いのは、 オーダーコントロールはバイサイド自身でしたいのに、証券会社がHFが持てないテクノロジー、例えばSOR機能や子注文回送ロジック、さらにはオーダー分析ツールがアルゴ使用の原動力 になっているようです。

あとアルゴリズムのカスタム化は依然として重要なようです。
※証券会社アルゴは基本でデフォルト状態で使われますが、より上客にはその客の要望にこたえる形でアルゴを作り専用アルゴとして提供しています。

証券会社との関係性は希薄になっているのに証券会社のテクノロジーは使いたい…

考えてみるとひどい話です。

さらにひどい話なのが巨大ファンドはある程度付き合いのある証券会社数は保っていますが、中小規模のヘッジファンドは付き合う証券会社数をさらに減らしている、平均すると3-4社のアルゴしか使っていないということ。

これはもしかすると証券会社というよりプライムブローカレッジの強弱にも関わるところなのかもしれません

クレディスイスが消えましたし…

プライムブローカレッッジ使えないとそもそもファンドが成り立たないので非常に重要なポイントです。

最後に使用するアルゴ戦略に関しては流動性探索型アルゴの仕様が増加。これはSOR機能の高度化の影響と言えます。また証券会社が電子的に提供できる流動性(ダークプール始めマッチングシステム)の需要は非常に高いです。もともと欧米市場での話なので若干日本の現状を異なっているかもしれません。

それでも割合としては引き続きVWAP、出来高参加型(VOL IN LINE)、CLOSEやインプリメンテーションショートフォールなどの昔からある戦略の使用頻度は今でも高いようです。

■ロングオンリー編

一方ロングオンリーも同じように2022年ボラティリティの高い厳しいマーケットを経験しました。VIX指数が20を超えているのが常態化した異常な環境化で、彼らはヘッジファンドと少し違ったアルゴリズムとの接し方をしていたことが分かりました。

まず厳しい環境故に 執行によりフォーカスし、そのためには証券会社からのサポートを必要としていた ようです。

コンサルティングを中心としたサポート、トレーダーとのコミュニケーション(的確なマーケットビューやアイデア提供)やスピードを重要視した反面、トレーでイングコスト、操作性やダークプールへのアクセスなどの重要性がヘッジファンドに比較すると低いのが特徴的です。

これはやはり難しいマーケットでの執行が困難だったことが理由として挙げられ、そのために証券会社の力に頼ったという結果に見えました。

ヘッジファンドよりよほど健全

より事前執行分析やSOR分析などのツールを活用している点、お気に入りの決まったアルゴを使うだけでなく、複数のアルゴ戦術を使いその特徴を把握、ファンド特性に合わせてクローズ戦略を多用するなどマーケットのボラティリティに対応する努力が見られました。

各論ではアルゴの重要性の中にトレーディングコスト、中でもマーケットインパクト低減や最低限のSOR機能、さらに秘匿性などいわゆる昔ながらのアルゴの重要性を大切にしている点は変わりありません

しかし執行に関しては証券会社アルゴに頼り、より良いアルゴを持つ証券会社と取引をしてボラティリティの高いマーケットで結果を出したいと考えていたようです。

またヘッジファンドでは全体的に使用するアルゴリズムの数(証券会社数)が減っているという結果が見られましたが、ロングオンリーはファンドの大きさに比例した使用アルゴリズムの数(証券会社数)という結果が顕著で、プライムブローカレッジ能力に左右されない証券会社選択がされているのはファンド特性のせいかもしれません。

しかしながら結果だけ見るとアルゴの使用率は若干減っているようです。

使用アルゴ戦略は ダーク流動性探索型、VWAPやCLOSE戦略 が主流。

執行分析の重要性の表れか インプリメンテーションショートフォールの頻度がヘッジファンドにくらべると高い という結果が出ています。

アセットオーナーが年金基金だとコンサルティング会社が厳しく調査するという流れには変わりがないようです。

■2023年はどうだろう?

基本的に昨年の結果なので現状を表してはいませんが、今年はグローバル特にアメリカと日本のパフォーマンスが良いので昨年と違った状況になっている可能性はあります。(結果は来年にならないとわかりません)

しかしトレンドとして

ヘッジファンドは独自にトレーディングをしていく

ロングオンリーは引き続き証券会社からのサポートを必要としている

という点は変わらないのだろうなと思います。

こういう動きを受けて証券会社の立ち位置は決して楽になることはなく、寧ろサービスのコモディティ化を打破すべくより差別化可能なアプローチでバイサイドに接する必要に迫られており、依然として厳しい環境に置かれていることが簡単に予想できます。

競争が楽になることは決してありません。

実際これだけマーケットが賑わっているのにも関わらず大手外資系証券ではリストラの話題が多いのも事実(マーケット部門よりはIB部門ですが)

プロはプロなりに大変なのです。

■『アルゴ板』検知プロセス


個人投資家にとってこのようなアルゴの情報はあまりご自身の投資に必要のないものと考えているかたが少なくないかもしれません。

しかし今回の調査で所謂プロ投資家は

・流動性探索型アルゴの使用が増加
・既存アルゴは継続使用

であることは確認できました。

つまり僕がご紹介した

・『アルゴ板』
・『トレーディングコスト』低減

がプロ投資家のアルゴ状況を知る重要な手掛かりになることが立証できた訳です。

この考えで行くと

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