パーリア・ネクサスの戦い（1）凪の領域

＊これはPsychic Awakening: PARIAHの物語部分の内容を、ぴろきが私的にまとめたものです。詳しい記述は書籍を読んでください。

　復活した総主長グィリマンによって〈揺るがざる征戦〉が開始されると、大きく三つに分かれた〈帝国〉の大軍勢が銀河各地へと進撃した。そのうち銀河東方、〈大亀裂〉の方角に向かう第一総艦隊が最大であった。

　第一総艦隊所属の戦闘集団カリデスは、バダブとノクターンを抜けた先、ネフィリム星区の方角へと向かった。というのも、〈大亀裂〉発生直後から〈帝国〉各地から救援要請が嵐のように押し寄せる中、この方角からだけは何の知らせも届かず、沈黙だけが覆っていたからである。

　老壮の海軍大提督マーラン卿に率いられたカリデス艦隊には、ウルトラマリーン、ブラックテンプラー、デスウォッチ、テリンとモータンの騎士宗家、カスティガトゥム巨兵団、異端審問官キリア・ドラクサスが参加していた。

　目標に近づいた艦隊を待ち受けていたのは、恐慌状態に陥った星々の住民だった。彼らは我先にこの宙域を逃げだそうとしていた。それは人類だけではなく異種族までもがそうだった。誰も彼もが“覆い尽くす闇”に恐怖していた。

　カリデス艦隊のアストロパスやナビゲーターたちは空前の異常を報告した。行く手の領域に広がる〈歪み〉の奔流が凪のように静やかだというのだ。一方で、防衛基地は破壊され、何の応答もない。この異常事態の中、カリデス艦隊は悪夢の宙域へと進入した。

　マーラン大提督の鉄の意志は艦隊を推し進めたが、その人員の精神状態は急速に悪化した。〈歪み〉が鎮まった領域の中で、ミリタルムの兵士たちは意気阻喪し、サイカーたちは次々と発狂に追い込まれた。〈歪み〉の沈黙のために、超光速通信もままならず、ワープドライブの効率も大幅に低下した。不気味なことに、ゲラーフィールドの不調を起こした艦艇にディーモンが襲ってくることもなかった。

　この精神病に影響を受けなかったのは、スペースマリーン、騎士宗家の貴族、そして遠征途上で合流した“我らが殉教せる聖女修道会”のシスターたちだけだった。

　苦しみつつ進むカリデス艦隊が遭遇したのは、人っ子一人いない星々だった。町を調べてみても、まるで昼食のさなかに忽然と住民が消失してしまったかのような異様な光景が広がっていた。

　異端審問官ドラクサスはこの怪現象の正体と原因について熱心に調査を進めたが、確たることは何もわからなかった。焦燥だけがつのった。

　転機は、ウルトラマリーンのヴァンガード部隊がゼイドス星系の惑星メズモックに降りたときにやってきた。膨大なエネルギー放出を調べるために降下した彼らが目にしたのは、文字通り天をつくような異様な巨塔であった。ウルトラマリーンたちは、それがネクロン起源のものであることをすぐさまに看破した。

　メズモックの巨塔の発見後、マーラン大提督のもとには次々と、ほかの惑星にも巨塔がそびえているという報告が届き始めた。そして、ネクロンの防衛部隊との遭遇戦がはじまった。艦隊に緊張が高まったが、冷静沈着な大提督はついに標的を見つけ出したのだ。カリデス艦隊にメズモック巨塔への攻撃が下令された。

　しかし、このメズモックでの戦いは帝国軍の大敗に終わった。〈歪み〉の凪のためにワープドライブに不調をきたした艦艇は、予定通りに集結することができず、各個撃破されていった。地表に降りた軍勢はおそるべき数のネクロン軍によって奇襲され、終わりなき波状攻撃によって粉砕された。兵士たちの士気は低く、政治将校による略式処刑も潰走を防ぐことができなかった。

　巨塔自体への攻撃も失敗した。戦艦による爆撃は強力なシールドによって完全にはじかれ、巨塔には傷ひとつつけることができなかった。

　〈帝国〉の決戦兵器インペリアルナイト〈贖罪の神〉もネクロン・ドゥームズデイ・バージの強襲で半壊し、ブラックテンプラーの自己犠牲的な反撃によってかろうじて戦場を脱出するありさまだった。

　メズモックの大敗は、帝国軍の苦闘の本格的なはじまりだった。巨塔のそびえるほかの惑星でも、ネクロンの大軍勢がどこからともかく出現して、帝国軍に襲いかかった。敗北につぐ敗北。ネクロンの数は倍増に倍増を重ね、異様なことに複数の王朝のシンボルが同じ陣営に属して人類たちを追い詰めていった。

　〈帝国〉カリデス戦闘集団にとって唯一の成果は、この巨塔のネットワークが〈歪み〉の沈黙を引き起こしていることがわかったことだった。そして、〈パーリア・ネクサス〉という用語がこの異常な宙域を指すために使われるようになった。これは、魂を持たず、人びとに本能的恐怖をもたらす忌まわしいサイカーたちの異称に由来するものだった。

　〈帝国〉は反撃しなければならなかった。そこに登場したのが、異端のシスター、エフラエル・スターンである。

（つづく）