フレッシュテアラー戦団(2)歴史

「"死によってのみ任務は終わる"。人類の統治者たちとそいつらに仕える臆病な雄弁家どもが大好きなことわざだ。自らの罪業ゆえに、我らもまたこの手のいつわりを信じこんできた。死はすべての終わりなのだと。我らは務めの本質を誤っていた。我らは万物の秩序において死が占める座について誤解してきたのだ。狂気の崖っぷちにあって、同胞と仇敵の鮮血にまみれてようやく、我らはその考えの誤りに気づいたのだ。死によってのみ任務は始まるのだ。いかなる色の鎧をまとおうと、いかなる紋章を肩甲につけようと、関係ない。我らの目的は常にそう定められた目的のまま変わりはしない。我らは人類の敵を殺す。鋭刃と猛火によって皇帝陛下の版図を守る。我らは死の先触れ、報仇の天使、躯を引き裂くものなのだ」
――フレッシュテアラー戦団長ナッシア・アミット

 フレッシュテアラー戦団は第31千年紀、ウルトラマリーン総主長ロブート・グィリマンが、〈ホルスの大逆〉後の最初の大令官として〈帝国〉を徹底的に改革するために、残存するすべてのスペースマリーン兵団を解散して、それぞれ千人を擁する戦団に分割したときに創設された。

 こうすることで、〈戦闘者兵団〉という危険な武力をただひとりの軍事指揮官が振るえることはなくなった。この事件は〈第二期創設〉と呼ばれており、フレッシュテアラーはブラッドエンジェル兵団から創設された戦団のひとつであった。しかし彼らはまだ、〈地球の包囲〉の最終盤でホルスによって殺された総主長サングィニウスを悼んでいた。

 フレッシュテアラー戦団が〈第二期創設〉で誕生したとき、ブラッドエンジェル兵団第五中隊長ナッシア・アミットがその初代戦団長に選抜された。第九兵団の中隊長の中でも、アミットとその中隊の名声は最も血塗られたものだった。一度ならず、第五中隊は敵を追い詰めようとするあまりにサングィニウスから譴責を受けていた。

 この傑出した指揮官が〈躯を引き裂くもの〉(フレッシュテアラー)というあだ名を得たのは故なきことではない。ワールドイーター兵団の闘技場で、誓約の同胞であるカーンとともにはたらいたアミットは、この異称を拒絶するどころか、自分から名乗るようになった。

 アミットの生き方は獰猛であり、その攻撃性は〈大征戦〉と〈ホルスの大逆〉の戦場で幾度となく野放図に解放された。そして指揮官同様に、第五中隊の戦闘同胞たちはボルターと大型ナイフをたずさえて戦闘におもむくことで知られていた。

 公式に創設された後、 フレッシュテアラーは旧兵団から戦闘母艦ヴィクトゥス号を拝領し、移動要塞修道院として用いた。そしてただちに地球を離れて、いまだ大元帥ホルスに忠誠を誓う大逆勢力を駆逐し、帝国領惑星から渾沌の汚染を払拭するために、新たな〈帝国〉の征戦に打って出た。これは〈大粛正〉として知られる時代のことであった。

 フレッシュテアラーの戦闘中の蛮行はまもなく広く知られるようになった。第九兵団の遺伝子に遺された恐るべき欠陥は、ブラッドエンジェル総主長サングィニウスの死の直後から顕在化したからである。

 その凶暴さについての噂はやがて〈地球至高卿〉らの耳にも達したが、版図平定での並々ならぬ功績から、フレッシュテアラーの行く先々についてまわる野蛮な噂は不問に付された。まだ〈帝国〉がホルスの反逆から立ち直ろうとする途上にあった、この争乱の時代にあっては、結果は手段よりもはるかに高く評価されたからだ。

 時が経つにつれて、フレッシュテアラーの悪評は高まっていった。この危険な〈戦闘者〉たちは喜々として強襲を楽しみ、副次的被害は到底看過できるレベルを超えていた。報告の中には、その狂ったような熱情のままに、フレッシュテアラーは味方や守るべき無辜の民にまでも刃を向けたと伝えているものがある。

 長年にわたる蛮行の悪評のために、〈帝国〉の勢力の中にはフレッシュテアラーの団員との協同作戦を拒絶するところも現れた。この事実にもかかわらず、フレッシュテアラー戦団はほかの戦団と共闘することは少なくなかった。特に、ブラッドエンジェルの血脈を共有する戦団とは数多く協同作戦を行っている。

 フレッシュテアラーは、サングィニウスの血筋の戦団の中で特筆して〈黒き怒り〉の呪いに屈する頻度が高い。これは彼らの遺伝種子の変異によるものだと考えられているが、彼らの戦闘教条と軍事哲学も、この悲劇的な心理遺伝的症候群の頻発に影響しているのかもしれない。

 創設当時に、フレッシュテアラーは、ブラッドエンジェル兵団が伝統的に行ってきた血の拝領儀式を放棄した。これは、新人の通過儀礼として、〈赤の聖杯〉と呼ばれる至宝を使って行われる血の注入である。〈帝国〉の賢者の中には、この改革が彼らの遺伝種子の恐るべき変異をもたらし、その血脈にそなわる〈傷〉を悪化させたのではないかと考察している。

 フレッシュテアラーの戦闘同胞が、悲劇的な〈傷〉に屈した徴候を見せると、それらは戦団のデスカンパニーに編入され、ほかの健常な同胞から隔離される。デスカンパニーのスペースマリーンは、デスカンパニー至高教戒官の監督下で任務を継続し、特別に改造された打撃巡洋艦デスカウル号に搭乗して呼集のときを待つ。

激怒の発祥

 創設後二百年以上、征戦を続ける艦隊戦団だったフレッシュテアラーだが、やがて銀河西方深部に位置する野蛮な死地惑星に恒久的な要塞修道院を設立した。フレッシュテアラーはそこを惑星クレタキアと命名した。この名前は古代バールの砂文字で「激怒の発祥」という意味であった。

 ここは巨大な野獣、マグマの間欠泉、猛烈な電磁嵐の惑星であった。火山の噴火と激しい地殻変動が大陸を引き裂き、その地表に住もうという野心家たちをのみ込んでいた。

 クレタキアには野蛮な人類の小集団が暮らしていた。彼らの遺伝子は汚染されておらず、新石器時代のすばらしい戦士文化を育て、フレッシュテアラーが団員を選抜できるほどの強靱で有能な戦士を生み出していた。

 このころ、戦団の人的資源は払底していた。長い歳月の間に、フレッシュテアラーの遺伝種子の〈傷〉はゆっくりと悪化しており、二百年以上が経過した時点で〈黒き怒り〉に屈せずにいられたスペースマリーンはわずかになっていたからである。クレタキア定住はその問題をある程度解消できたが、その後もフレッシュテアラーは常に人員不足に悩まされ続けた。

 第41千年紀末に至るまで、フレッシュテアラーが配備できるのはわずかに四個中隊にすぎず、遺伝種子の劣化は悪化の一途をたどり、何らかの治療法が見つからないかぎり、戦団は最終的な破滅をまぬがれないと考えられた。

 また、戦団内での〈黒き怒り〉発生の頻発は、幾度もフレッシュテアラーの清浄性に疑念を抱かせた。特に、第36千年紀末に起きた忌まわしいカラーンの虐殺事件以来、この戦団は異端審問庁〈粛正の団〉の監視下におかれている。

バールの荒廃、その後

かの血にて我は造られ
かの血にて我は武装し
かの血にて我は勝利す

――血の教理問答

 998.M41、ブラッドエンジェル戦団本拠地のバール星系に凶報が届いた。外的脅威からの防壁となる星々を擁するクリプトゥス星系が、集合艦隊リヴァイアサンの大規模な分艦隊によって危機にさらされているというのだ。そしてまもなく、クリプトゥスのすべての惑星が〈大いなる貪るもの〉の毒牙にかかった。

 クリプトゥス星系の陥落が、バールへのティラニッド大侵攻の呼び水となることを悟ったブラッドエンジェル総帥ダンテは行動を起こした。フレッシュテアラー戦団は、ダンテの非常呼集に応じてやってきた最初の後継戦団であり、ただちに始祖戦団とともにバールと周辺星区の守りについた。

 ブラッドエンジェル後継戦団の大同盟軍の一部として、フレッシュテアラーは対ティラニッドの最前線に立った。この戦団は過去の数多くの過ちの贖罪を求めており、戦団長ガブリエル・セスは自分の滅びゆく戦団に名誉を回復するため、大いなる敵の血でその〈赤き餓え〉を癒やそうとしたのである。

 多くの戦団は、その野放図な虐殺と過剰な暴力の悪評ゆえにフレッシュテアラーを嫌ったが、ダンテにとってフレッシュテアラーは依然として同胞であり、同じサングィニウスの血筋から生まれた者たちであり、〈集合意識〉に対する戦争において頼れる味方であった。

 この時点で生き残っていたフレッシュテアラーは四百人弱。そしてクリプトゥス星系戦争勃発のときには、その過半数が惑星アルマゲドンでの戦争に派遣されていたのである。

 それでも、残されたわずかな戦力を率いてセスがクリプトゥス星系に向かったことは、フレッシュテアラーとブラッドエンジェルとの絆の深さを何よりも雄弁に語っている。

 ブラッドエンジェルと後継戦団の大同盟軍が集合艦隊リヴァイアサンのティラニッドに立ち向かった最終決戦は〈バールの荒廃〉と呼ばれている。セスは防衛軍の鍵となる指揮官として、戦いの決定的な場面でダンテと肩を並べて戦った。

 ダンテがスウォームロードによって致命傷を負った後、セスはブラッドエンジェルの要塞修道院アルクス・アンゲリクムでの最後の抗戦を指揮した。そして、総主長ロブート・グィリマンの〈揺るがざる征戦〉が奇跡的に到着してバールからティラニッドを駆逐するまで持ちこたえたのである。

 〈揺るがざる征戦〉において、壊滅寸前に陥っていたフレッシュテアラーには、サングィニウスの血を引き、さらに〈傷〉への耐性が強いとされるプライマリス・スペースマリーンが配備されることになったが、ガブリエル・セスはこれを喜ばなかった。というのも、ロブート・グィリマンからプライマリス・マリーンを受領することで、フレッシュテアラーをはじめとするブラッドエンジェル後継戦団が、青色のかわりに赤色をまとっているだけのウルトラマリーンの複製になってしまうのではないかと危惧したからである。

 セスは、生まれつき備わった憤怒の熱情なしには、フレッシュテアラーは真のサングィニウスの息子たちとはいえず、やがて別の、もっと弱い何かになってしまうだろうと信じているのだ。

(つづく)

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