パーリア・ネクサスの戦い(2)ドルメン・ゲートの死闘
異端のシスター、エフラエル・スターンがマーラン大提督に具申したのは、事前のヴァンガード・マリーン部隊によって発見されていた敵の大規模転送ハブの破壊作戦であった。それは、三つの巨石(ドルメン)ゲートが一カ所に集まっている場所で、当然、ネクロンによって堅く守られていた。しかし、ここを陥落できれば、ネクロンの増援の津波を止めることができる。
連敗の続く中で、一勝を渇望していたマーラン大提督はこれを承認した。彼のもとにはシスター・オブ・バトルの聖女たちが、どういうわけかネクロンのアンチ・サイキック効果を受けていないという報告があがってきていた。戦いのさなか、スペースマリーンですら精神の変調をきたしていたのに、である。スターンはメズモックの大敗以来最大の攻勢を任された。逆に言えば、これに失敗すればもう帝国軍にあとはない。
〈帝国〉側の記録によると、目標となった星はこの宙域で最南端に位置するロモール星系の惑星チェリスト。〈歪み〉の凪の中、苦しみつつ当該星系に到着したスターンの軍勢〈第七任務艦隊〉は、その距離ゆえに本隊からの増援はもはや期待できなかった。事の成否は彼らの双肩だけにかかっていたのである。
チェリストは、その恒星からはるかに遠い位置を回る暗黒の極寒惑星であった。暗闇の中ふきすさぶブリザードと突然ふきあがる窒素間欠泉は、ネクロンにとっては何ほどのものでもないが、帝国軍にとって危険な戦場であった。〈殉教せる我らが聖女修道会〉と〈血の薔薇修道会〉に先導されて帝国軍は凍り付いた世界を進軍し、南極に位置する巨石構造体に到着した。
敵を眼前にしたシスターたちは命令一下、雄叫びをあげて吹雪の中を突進した。それを支援するのはモータン宗家のインペリアルナイト隊とミリタルムの大軍勢。氷の山岳の麓に設けられた都市ほどもあるネクロン基地は、たちまち光線と爆発に覆われる死闘の舞台と化した。増援の要である転送基地は、強大な防衛兵器と突破不可能な量子シールドによって鉄壁の守りを誇っていた。
しかし、帝国軍の攻撃目標は基地そのものではなかった。ミリタルムの巨砲が火を噴き、ネクロン基地の背後にある山塊に次々と命中した。すさまじい土砂崩れが発生し、麓の巨石構造体を襲った。シールドされていない建物は押しつぶされ、シールド下にあるものも巨大な凍れる岩石の下に埋没した。
この初撃を受けて、ネクロンの残存防衛兵器が反撃を開始。降下するインペリアルナイトや帝国軍の上陸舟艇が打ち落とされ、ネクロン・ウォリアーの大群が出現して押し寄せた。対する帝国軍は、ゼフィリムとセラフィムの分隊を先頭にシスターたちが、岩に押しつぶされた基地後方へと展開。山肌に着陸したナイトが砲台を踏み潰していった。
この攻勢を率いたのはスターン自身だった。二千人の〈殉教せる我らが聖女修道会〉と五百人の〈血の薔薇修道会〉が氷の岩塊に覆われた谷間を進んでいく。彼女らの口からは皇帝をたたえる賛美歌が流れ出した。シスターたちの側面を固めるミリタルムの何千人もの歩兵と戦車部隊は、〈歪み〉の凪の悪影響を受けながらも、シスターたちの敬虔な祈りと歌に勇気づけられて進軍した。彼らは信じた。皇帝陛下の聖なる戦士たちに率いる我らが勝てぬはずはないと。
基地を守備するニヒラーク王朝軍を率いていたのは、ニヒラークのファエロン(帝王)シェムヴォクそのひとだった。劣等種族の意外な反抗に彼は激怒した。自分の版図を汚す害獣どもを駆逐せんと、みずからカタコーム・コマンド・バージに乗り込んで前線へと打って出たのである。
ネクロン・ウォリアーのガウス兵器が乱射され、トゥームブレイドの空爆が進撃するシスターたちの上に降り注ぎ、ミリタルムの戦車隊をがらくたに変えていく。巻き起こる吹雪の中にネクロンの重機動兵器が起き上がり、いにしえのエネルギーを人間たちに向けて解き放った。一撃ごとにシスターの一隊、ミリタルムの一両が雪原の上に消え去った。インペリアルナイトはネクロンのパイロンに襲いかかり、猛射の中で傷ついていく。この激闘のただなかを、ファエロンのバージが、精鋭リッチガードらを引き連れて突進し、人類の軍勢を真っ二つに切り裂こうとした。
画像出典:http://natfka.blogspot.com/2018/06/whats-on-your-table-nihilakh-necrons.html
スターンはこの光景を目の当たりにした。そしてさらに強く、強く皇帝の加護を祈った。盟友カイガニルがネクロンのゲートを利用して、〈網辻〉の彼方からインナーリ・アエルダリの援軍を呼び出してくれることを期待した。だが、光り輝いたゲートから現れたのは、さらなる何千体ものネクロン・ウォリアーだった。
戦況は絶望的と思われた。しかしそのとき、中央の巨石が轟音とともに爆散した。ゲートの残骸からは、生き残った最後のセラフィムとゼフィリムたちが、頭上に光輪を輝かせながら飛び出した。スターンは彼女たちの聖なる姿に感動し、この〈帝国〉を守る戦いに必ず勝たねばならないという信念を新たにした。
そして、エフラエル・スターンは全力を解き放った。
その髪とマントは逆立ち、両眼は白い炎で燃え上がった。空中に飛び上がったスターンは、〈帝国双翼章〉の翼を背中にはやし、稲妻と火炎をまとって戦場の空を駆けた。その輝きの届くところ、消沈していた兵は立ち上がり、その眼から迷いが消えた。力尽きようとしていた者の剣に光がともり、雄叫びがその口から放たれた。
ファエロン・シェムヴォクはそれを無感動にながめていた。クリプテックのアンチ・サイキック・フィールドがあれば、こんな超能力など何ほどのものかと。しかし彼は知らず、理解もしていなかった。これが〈歪み〉の生み出す小細工などではなく、聖なる信仰が起こした奇跡であるということを。
帝国軍の兵士たちは理解していた。スターンの放つエネルギーに照らされる中、祈りと賛美歌が勇気に満ちて広がった。不屈の闘志に満たされた帝国軍の突撃はネクロンの戦列を粉砕し、二つ目の巨石が倒壊した。
怒り狂ったファエロンは攻撃を強めるよう命令を出したが、信じがたいことに、押されつつあるのは彼の無敵の軍団だった。山肌から駆け下りるインペリアルナイトたちの足音が大地を揺らし、ネクロン軍を挟み撃ちにした。そのとき、エフラエル・スターンとカイガニルは、ファエロン・シェムヴォクの眼前に姿を現した。
シェムヴォクの杖から光線が放たれ、リッチガードが永劫の歳月で磨き抜いた技で猛然と剣を振るった。だが、それらはスターンの燃えさかる憤怒も、カイガニルの冷たい敵意も止めることはできなかった。ひとりまたひとりとリッチガードは倒れ、ついにシェムヴォクのバージは聖なる稲妻の一撃によって撃墜された。ニヒラーク王朝のファエロンの巨大な機械の体は煙をあげる残骸と化したのだった。
ファエロンの死からさらに1時間の戦闘が続いたが、帝国軍によみがえった信仰心と、ネクロンの指揮系統の崩壊によって勝負はついた。最後の巨石ゲートがインペリアルナイトの近接射撃によって爆破されたときには、もうある事実が明白となっていた。
ネクロンの忌まわしいエントロピー兵器に立ち向かえる武器は、まさに皇帝陛下への信仰心そのものなのだということが。
(つづく)
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