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平家物語考2 

前回に続き、平家物語について調べたことを書いています。

琵琶について
1960年代制作の映画「怪談」に耳なし芳一が出てきます。そこでは平家の亡霊の前で芳一が琵琶を弾き狂うのですが、琵琶演奏がすごくかっこいい。実際の演奏は鶴田錦史さんという薩摩琵琶奏者です。才能もすごいが人生もすごい。CD買った。
ここで誤解するのですが、平安時代に琵琶法師が使っていた琵琶は平家琵琶という種類で、写真の芳一像がもっている水平に構えるもので、薩摩琵琶は室町時代あたりから薩摩地方中心に使われるようになった、ちょっと種類の違う琵琶です。薩摩琵琶はバチが大きく、楽器を垂直構えて、ドラマチックな音が鳴ります。どちらも盲僧が使用する琵琶ですが(薩摩琵琶は後に武士も使用するようになる)、平家物語を平曲と言って覚一の座が演奏するものは平家琵琶を使用し、映画のようなかっこいい音ではない。現在平曲を平家琵琶で演奏する人は全国で5人くらいだそうで、実際の平曲演奏はとても静かでお能のようでした。映画には向かないかも。


物語にでてくるお宝

三種の神器はれいぞうことせんたっきとでんき…と一番に思い浮かんでしまう昭和脳ですが、ほんとうの三種の神器は鏡と剣となんだっけくらいの知識しかありません。平家物語にはこれらの来歴の記述があります。

内侍所(ないしどころ)=鏡:天照大神が天の岩戸に閉じこもる前に作った鏡(私の姿を見てとのこと)。温明殿にある(巻11鏡)。壇ノ浦で大納言の佐殿(重衡の妻)が箱を持って入水しようとするが取り押さえられる。そこで兵が箱を開けようとすると目がくらみ鼻血がでた(巻11能登殿最後)。
神璽(しんじ):勾玉。作中、他の神器のように由来の記述なし。壇ノ浦で二位の尼が「神璽を脇にはさみ、宝剣を腰にさし…」入水(巻11先帝身投)。
:素戔嗚尊(すさのおのみこと)が出雲の八岐大蛇を退治したとき尻尾から出て来た剣。この剣は、実は天照大神の落とし物で天叢雲の剣(あめのむらくものつるぎ)といい、それ以降大事に保管していた。後に東国へ戦に行くとき日本武尊(やまとたけるのみこと)が使用、草原で焼打ちされかけた際この剣で草を薙ぎ払って助かったため、草薙剣(くさなぎのつるぎ)ともいう。二つ名(巻11剣)。

鏡と勾玉は壇ノ浦で回収され都に運ばれますが(巻11内侍所都入)、剣は回収されておらず、出雲の八岐大蛇(竜王)が安徳天皇に転生して己の所有物であった剣を取り返し海に帰ったとえらい陰陽師が言ってるとあります(巻11剣)。

その他の作中に記述のあるお宝
小鴉(こがらす):目貫に鴉の模様が入っている太刀。平貞盛(ご先祖様)が天皇より拝領した。(巻3無文/巻10維盛出家)。
小枝(こえだ):漢竹の笛。討取られた際の以仁王の腰に刺さったままになってた(巻4信連/大衆揃/宮御最後)。
蝉折(せみおれ):漢竹の笛。鳥羽院時代の宋の皇帝からの返礼である、生きた蝉のような節の付いた竹で作った笛。後に折れたため蝉折。討取られる直前に以仁王が三井寺へ奉納した(巻4大衆揃)。
獅子王:源頼政が鵼(ぬえ)退治をした際、後鳥羽天皇より賜った剣(巻4鵼)。
鈴鹿(すずか/和琴)、玄上(げんじょう/琵琶):平家が都落ちする際持っていった(巻7主上都落)。
青山(せいざん):唐より伝来した3面の琵琶(玄上、獅子丸(海に沈めた)、青山)のひとつ。経正が御室(鳥羽天皇の子)より賜った(巻7 青山之沙汰)。 
小枝(さえだ):忠盛が笛の名手で鳥羽院より賜った笛。敦盛は笛の才能があるため所持していた(巻9敦盛最後)。以仁王所持の笛:小枝とは別物らしい(読み方が違う)。


よく出てくる人
平家物語なのにほとんど記述のない家門の人が多い反面、この人また出て来た…と何度も作中に登場する人もいます。

十郎行家(源行家):熊野地方の源氏系の武将。以仁王挙兵回から登場し、戦は再々敗北、恩賞が気に食わないと怒り、あっちについたり、こっちについたり、すぐ逃げる。何がしたいんだ…。最後は新喜劇的な感じで捕まった(巻4源氏揃/巻6祇園女御/巻7清水冠者・倶利伽羅落/巻8名虎/巻12泊瀬六代)。
梶原景時:義経と対立して讒言する人。讒言が目立つ(巻11逆櫓・鶏合壇浦合戦・腰越)。
斎藤別当実盛:宗盛に仕える元源氏方の武将。子供の義仲をかくまった。いい人(巻5富士川/巻7篠原合戦・実盛・玄肪)。
熊野別当湛増:熊野の別当。源氏と平家、どっちにつこうかとよく迷っている。結局壇ノ浦で源氏についた(巻4源氏揃/巻6入道死去/巻11鶏合壇浦合戦)。

エーコの小説「薔薇の名前」の中で、書物はしばしば別の書物のことを物語る、書物は書物の外にある事柄を語るものばかりでなく、書物は書物について語る…という記述を思い出します。
おそらくこの時代の軍記物語と呼ばれる「保元物語」「平治物語」「源平盛衰記」等、源氏方の活躍を記述される物語に登場する人物であり、これらも琵琶法師などにより広く親しまれたことから、同年代の平家物語にも徐々に登場するようになったのではないか、また高野聖によって語られることも、熊野地方の登場人物が頻出、詳細になっていったのではないかと考えます。

手塚太郎金刺光盛:篠原の合戦で斎藤実盛を打ち取る、義仲に従軍した武将(巻7実盛/巻9木曽最後)。どうやら手塚治虫先生のご先祖様のようです。火の鳥乱世編に治虫姿で登場しています。


平清盛の実像は?
平家物語の中で清盛公は罰当たりで横暴な専制君主として描かれていますが、実際のところどうなんだろ。高橋昌明先生の著書を読みました(赤間神宮の冊子に講演内容が掲載されていたため)。

中世日本では天皇家を王家と呼び、その家長が政治決定を行う治天という体制でした。作中では治天は後白河法皇で、幼い天皇(安徳天皇)、若くして譲位した上皇(高倉上皇)の上に立ち政治的な決定権を握ります。政治や人事に介入する比叡山・興福寺などの寺社勢力(の強訴)に対抗するため、新興する武家(貴族)勢力を取り込みます。
ここでの武家勢力とは平氏、源氏ですが、保元、平治の乱を通じて平氏が源氏を抑え台頭します。平家は忠盛・清盛と2代続いて戦を勝ち抜き一門は官位を昇進していきます。
経済的にも知行国が増え、瀬戸内の海路を掌握し、宋との貿易を積極的に行い大宰府の交易権は福原へ移ります。当時瀬戸内海は最も大きい物流経路で、明石を中心とする神戸一帯に所領を持つ平家は西日本全体に影響力を持ちます。なるほど、都落ち以後も持ちこたえられたのはこういうことか。
武力、経済力、官位昇進、京の有力貴族との婚姻により朝廷でも政治的発言権は高まり、清盛は臣下としては最上位の太政大臣に昇ります。

この時代は政治的に天皇家は有力貴族の武力で寺社勢力に対抗し、そのことが武家貴族の台頭につながり、結局天皇・寺社・平家の三つ巴のような形になります。
政治決定は天皇家が行い、朝廷の公家貴族が執行する。清盛は六波羅に一門の居を置き政治の中の軍事・警察機関を独占し、諸国の御家人を年交替で京を警備する大番役を開始します。高橋先生はこれを六波羅幕府と提示しています。清盛は鎌倉幕府以前にその体制を実行していました。後に福原に居を移したのは、天皇家・朝廷と距離を置き、いいように使われないようにするためでもあるとのこと。
その福原遷都について、清盛は平家の血筋である高倉上皇、安徳天皇をして中国の易姓革命に倣い福原へ都を移し、新しい平家の血統による王朝を立ち上げようとしたのではないかと考察されています。
結局やりすぎたため反発が大きく、この度の滅亡という結果になりました。

平家物語は年代的に清盛の太政大臣以後が主なため、若い頃の活躍部分の詳細がないです。その後平家は逆賊とされてしまったため、後の記録にも良くは書かれていない。清盛公の考え方や実際の政治的行動など、もっと調べると信長公的な英雄像になるかもしれないですね。
いつもドラえもんのタイムマシンがあればいいなと思います。石コロ帽子などを被り当時の様子を見てきたい。

参考文献
・髙橋昌明 平清盛ー日本初の幕府をつくった男 赤間神宮叢書23


平家と竜
作中やゆかりの地など、時々「竜」が出てきます。
・平家一門の居が構えられた六波羅にある六波羅蜜寺は、有名な空也上人が開創されました。空也上人は寺の前にある池で暴れる龍を調伏し、以後人々を守護するようになったという伝説があります。
余談ですがここの町名で池殿町とあり、宗子、頼盛が住んでた所みたいです。当時は泉殿もあり、東側は清水寺があります。水のよい所みたいです。
・平家納経は平家一門が宮島の厳島神社に奉納した超!雅な巻物で、お経(特に法華経)の絵巻物です。仏教では女子は解脱できないとされますが、法華経の中には竜女成仏エピソードがあり、竜(畜生)も女子も解脱できるよと言っています。平家物語の灌頂巻では徳子が後白河法皇に自分と竜女を重ね合わせて語る巻があります。
・灌頂巻での徳子の後白河法皇への回想語りで、夢に母である二位の尼が出てきて、ここはどこかと訪ねると「竜宮城」と答え、ここに苦はないのかと尋ねると「それは竜畜経のなかにみえる」と答えます。壇ノ浦の入水シーンでは波の下の都と言っており、灌頂巻で初めて竜宮城が出てきます。竜畜経とは何か不明のようですが、でも上記の竜女成仏を連想します。
・前述の宝剣についての竜エピソード(出雲の八岐大蛇(竜王)が安徳天皇に転生して己の所有物であった剣を取り返し海に帰った)。

竜というより水、海とつながりが強いのかも。清盛公は当時中国製のジャンク船をのりまわしていたらしい。

と、いろいろ調べたり京都や壇ノ浦に行ったりで、とても楽しかったです。アクセサリーは芳一から平家のモチーフに変更して、バングルはシルバーでドラゴンかな。一周回って普通になった!

旅の思い出コーナー

京都西八条 若一神社
境内 清盛使用の井戸とかある
法住寺 お向かいは三十三間堂
六波羅蜜寺 隣に池殿町がある
門司城跡からみた壇ノ浦
灯篭は戦国大名寄進のものらしい
赤間神宮
神殿の中に水があって、それが静かにゆらゆらしていてとても良い所でした。
隣に平家のお墓があります
合掌

 


付録 平家物語早見表
一行あらすじなので簡易、また不出来ですが、思い出せない時の一助に。


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