こんなタイミングでアイドルを見つけてしまった話 ③伝説の4Aラストライブ

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2月23日。

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運命の分岐点ともいえるこの一日。万が一の感染を恐れて私はコロナ禍以降おなじみとなる車で渋谷入り。そして相変わらず道路は渋滞しており、計ったように開場すれすれに到着した。ミスター遅延、ぴろーのお出ましである。

入り口には知らない顔の人だらけだったが、見知った顔が数人いるだけで心強い。現場のオタクの空気もその数人が回しているから、いきなり来ても何の障壁もない。この人たちの知り合いですの一言で万事解決だ。寄せ書きを書く相手も時間を潰すものもない私は、手売りチケットをもらって早々にオタクの波から離れ涼んでいた。入場もほぼ最後に入る。できる限りの感染対策と、そもそも前に行く理由もないからだ。

階段前のS席の仕切りを見て久しぶりにライブを前で見たいなあとも思ったが、そもそも一度だけ来たことのあるグループのライブで最前に行く気もない。ここまでの半年間を積み上げてきたオタク達に割って入る気はない。アイドルが消える瞬間を遠くから静かに見届ければいいと、そう思っていた。あの映像が始まるまでは。


「なんでこんなに伝わんないのかなって」

もう一度フル映像を見ることができれば思い出すこともあるだろうが、ここではあくまで記憶に残った部分だけを書くことにする。運営さん映像解禁はよ

オープニング、いきなり度肝を抜かれた。
オープニングムービーに出てきたのはなんと「原田ゆきかの時間」の音声切り抜きだった。

「本当にAブロックは良い人良いメンバー」
「本当にAブロックの良さが伝われ」
「なんでこんなに伝わんないのかなって思う」
「それが伝わればマジで良いと思う」

キャサリンの声に反応する会場。もう泣いている人もいるように見えた。
自分が気にかけている子がいきなり出てきたということ以上に、ここで重要なのはこの演出方法だ。
実質的な解散ライブに相当し、キャサリンだけでなく複数人のアイドル卒業を抱えるライブでこのメッセージを冒頭に出せるのは、演者とスタッフに積み上げてきた相当の信頼と自信がない限りできない。この段階で私は、このライブがただものではないことになる予感を感じ取った。予感は、すぐに的中する。


2ヶ月間で全く別人になった17人

この当時のZ4AブロックはA1王道4人、A3パワフル5人、A4個性3人、A5KPOP5人の計17人だった。
そして、3月から上位リーグであるZ3リーグが新設されることによって、ラストライブ後の17人の進路はばらばらだった。

ゼロプロ選抜に選ばれる可能性のあった中野は事務所内別グループへの移籍を決断し、そのほかZ3への昇格が7人、Z4残留が3人、卒業5人、籍を残しながら活動休止が1人。もうこの17人が同じステージに立つことは絶対にない。その最後の刹那を楽しむかのように、惜しむかのようにステージは続いていった。

まず、それぞれのグループが信じられないほどレベルアップしていた。
中途半端に2ヶ月前の彼女たちを知っているからこそ、それは驚きを持って受け止められた。
一つ一つ触れていきたいが紙面が足りなくなるので、ここでは「A5動物園」の話のみ触れておくことにする。

EDM系の曲調が多いKPOPコンセプトは非常に盛り上がりにくく、ゼロプロ全体としてどうフロアを盛り上げるかに苦労していたと聞く。
12月に見た時も私は全く印象に残っていないし、この日の演順が個性→王道(キャサリン)→KPOP→パワフル(中野)だったこともあり、A5は休憩枠のつもりだった。実際王道のファースト・ラビットで号泣したあと私は気持ちを落ち着ける目的も含めてドリチケを消費しにバーカンに向かった。

ところが、出だしから惹きつけられた記憶が残っている。細かい経緯を忘れてしまったが、慌てて持ち場に戻り、すぐ飲み物も飲み干して食い入るように見たことを覚えている。
このA5のパフォーマンスを形容する言葉は難しい。個人のレベルが高く、気の強そうな人が揃っているが決してぶつかりすぎることもなく、それぞれの個性が出ている。一言でいうならカッコいい。ダンスを見せる要素が多いKPOPとしてこれほどの正解はないだろう。それでいて、MCはハチャメチャしているし煽りも強い。
こういったものを総合して生まれた言葉が「A5動物園」というのは言い得て妙だろう。A5動物園はA5動物園であって、それ以外の何物でもない。説明不可能なのだ。


アイドルの「説得力のある涙」

以前友人の推しを見に行くという目的でとあるグループのワンマン公演を見に行った。デビューしてから8ヶ月ほどだったようだが、終盤のMCで演者が号泣するシーンがあった。
しかし、私はその涙を見てむしろ冷めてしまった。実力と内容が伴っていなかったからだ

色々と理由はあったと思うが、一番は運営が殿様商売しているのに全然実力が追いついていなかったことが原因だと思っている。彼女たちからそれに見合うだけの気迫と努力が感じられなかったことによって、茶番のように見えてしまった。
余談だが、このグループは1年後TIFのフジヨコステージで再び見ることになるのだが、全くの別人になっていた。その数ヶ月前頃から伸びているグループとしてたびたび話題に上がっていたので、何か変わるきっかけがあったのだと思う。これだからアイドルは面白い。

話を戻してこの日のラストライブ。MC中にみんな涙をこらえようとするが、抑えきれない演者から次々と涙していった。

うりゃおいの日のライブの記憶なんてほとんど残っていないし、その2ヶ月の間に彼女たちに何があったのかは全く知らない。だけどそれはパフォーマンスを見ればわかる。技術の問題ではなく、気持ちが違った。努力は語らなくとも人の姿に現れる。

その涙には「実態」が伴っていた。
この涙を生んだ明確な背景が、そこにはある。

私も度々涙を流した。まさか雑に見に行ったアイドル現場でここまで泣かされるとは思っていなかった。


2年ぶりの、魂の咆哮

感情を揺さぶられ続けるライブだったが、箱の中でもかなり後方で見ていて、少し後方には見学目的と思われる2期生、3期生、演者の知り合いの人たちがいる状況で平成のピンチケごっこができるわけもなかった。それだけは、何とか我慢していた。

だが、A3パワフル最後の曲、夜明け Brand New Days。

私が知っているアイドル曲、ステージの中でも最高峰のものだと思っている。
曲、歌詞、演者の実力、フロアのオタク。すべての条件が揃っている。いつかこういう現場に行きたいと思っていたらベビレは解散、コロナ禍で声出しのできない世界になってしまった。
私の思い入れも深く、初めてDJした時の最後の曲にこれを使っている。

A3のハイレベルなパフォーマンスを見て、正直とっくに我慢は効かなくなっていた。
細かい振りの角度やフォーメーションの立ち位置(バミリ)の精度は、この日のたった1回(カバー曲は普段やらない)のために揃えてくるにはあまりにも美しすぎた。
この5人で組んで長期で活動していますと言われても全く驚きはないくらいのパフォーマンスだった。繰り返すが、チームを組み替えてまだ3ヶ月しか経っていない。

コロナ禍で復帰して以降の現場も声出しは禁止。アニクラやオタクと遊ぶときに声出すことはあっても、100%の全力はまずない。鬱屈した2年間だった。でもそれは、この日までだった。

もう二度と起こすことはないだろうと思っていた虎が、2年ぶりに目覚めた。
ラスサビ前、喉を潰す覚悟で渾身のイェッタイガーを叫んだあと、ラスサビマサイ。平成と令和を跨いで生きてきたオタクぴろーが完全復活した瞬間だった。

卒業は出口ではなく入り口

エンディングで歌われた曲はAKB48のGIVE ME FIVE!だった。

この曲自体は学校からの卒業がテーマではあるが、アイドルの卒業に重なるところもある。
卒業は出口ではなく入り口。
昇格、残留、移籍、活動休止、卒業。Z4Aブロックとして過ごした3ヶ月間は終わり、新しい道へと歩み出すアイドルたちと重なるところの多い歌詞だ。
この曲を選んだのは偶然だったと聞いているが、私には強く刺さった。

キャサリンは、最後の最後までアイドルだった。
これ以上ない卒業の形だった。
そしてこれはキャサリンに限らず、この日で一旦ステージを去った5人全員に言えることだったと思う。

正直、卒業した5人の中には「なんでやめてしまうの」というアイドルがたくさんいた。実力も人気もあるのにどうして…と思い、その後いろいろと調べていく過程で納得の結果に当たった。

先ほど紹介したA5動物園の園長(リーダー)も、卒業する一人だった。
彼女はアイドルに執着し続けたものの、一度アイドル活動を辞めて、その当時の記録をすべて消すほどにアイドルが嫌いになって、そして時が経ちゼロプロへ戻ってきた。
その彼女が今辞める理由が「大好きなA5動物園を最後の場所にしたかったから」なのだ。これからZ3、Z2と駆け上がっていきアイドルを続けることもできたが、そうではなく、この最高の場所で辞める。

これがひとつ前の記事で私が触れた「引き際の美学」そのものではないか。
しかも、その決断には納得できる実態が伴っている。私は彼女の考えに非常に共感した。それほど、素晴らしい引導の渡し方だった。

その辞め方も潔かった。A5動物園が解散になる2月末までやり切っての卒業。いや、それは彼女に限った話ではない。17人でスタートしたZ4Aブロックは、最後まで17人欠けることなく駆け抜けた。卒業する人も含めて、大好きなAブロックを全員で最後まで守り抜いた。これこそが、このライブが伝説になった本質に他ならない。


残されたオタクぴろーと、物語の序章

夢と希望と別れが交錯したこの1日は、私の中で強く心に残った。
ゼロプロの契約タームとしては2期目が終了したこの2月。既に11月に一度チームが解散しアイドルが卒業していった過程を見ているオタクは比較的切り替えが早く、新しくできるZ3や新Z4へとすぐに気持ちを向けていた。一方の私は、先述のアイドル観や、予習が十分ではない状況でこの伝説のライブを見てしまったことにより、強い喪失感に苛まれていた。ふらっと見に来ただけのオタクが一番ラストライブを擦り続けるという不思議な出来事が起きた。

この喪失感をぬぐうため、そして、どうしてこのライブは伝説になったのかの理由が知りたくなった私は、4AのメンバーをTwitterでリスト管理し、しばらくの間メンバーのツイートと配信を全て追いかけるようになった。彼女たちが何を考え、どうアイドルとして生きてきたのか。その答えは配信という素の自分が出る場所で分かるだろう。私の目論見は間違っていなかった。結果として、先述のような答えを得ることができた。


ここまでが、オタク第2期の始まりとなる前日譚の話だ。
ただ、私はここが分岐点になるとは当然全く意識していなかった。この段階では、ただ一回すごいライブを見た、それだけのことだったから。

もうすぐズブズブになる、オレンジ色の沼の存在にまだ気づいていない頃の話。


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