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U.R.第一部 脱出編【1】Peace of Transiency(かりそめの平穏)前編 

《1》

 

  (この塀と有刺鉄線に囲まれた街にいても、未来なんて絶望的だ)

 プルーはハイスクールの校舎の屋上から見えるそれらをぼんやりと眺めながら思った。

  自分が生まれる前からこの街はあの高い塀で囲まれている。街といってもその規模は大きく、軽く地方の小都市一個分はある広さだ。その外縁を延々と続くあの塀が取り囲んでいるのだ。人口は約三十万人弱。それだけの住民が暮らす街だ。塀の長さを考えただけでうんざりしてくる。

  彼女は深い溜め息を吐くと、もたれ掛っていた屋上のフェンスに背を向けた。とそのとき、目の前にある校舎内への入り口となるドアが乱暴に開いて、彼女がよく知る褐色の肌の少女がずかずかと屋上に踏み込んできた。そして、驚く彼女の目の前に腰に手を当てて立ち塞がる。

「ロージィ、どうしたの?」

 少し引きつった笑みを浮かべてプルーは彼女に声を掛けた。

 「どうしたのって? あんたを探してたんでしょうがっ! せっかくのランチタイムに何一人で消えてんのよ」

 ロージィは呆れたと言わんばかりにプルーを睨み付けた。

 「ごめん……、ちょっと一人になりたくって……」

 プルーのぎこちない表情に、ロージィはふと何かを察して軽く息を吐くと、彼女の隣に並ぶようにフェンスに背中を預けた。

 「で、何悩んでんのよ。話してみ」

 「うん……」

 プルーは小さく頷くと、呟くように続けた。

 「私の人生って、一体なんなんだろうって……」

 「これまた……。えらく哲学的な悩みね」

 「そうじゃなくって……。私達、この街から出られないでしょ、だから……」

 「ああ……」

 ロージィはプルーの言わんとすることを悟り、苦い笑みを浮かべた。

 「でも、それは仕方ないことよ。地球連邦評議会で決まったことなんだし……」

 「解ってるわよ。27年前、地球歴23年に地球連邦評議会で【危険遺伝子管理法】が僅差で可決されて以来だものね」

 プルーは歴史年表を読み上げるようにスラスラと言ってのける。ロージィは感心したように軽く口笛を吹いた。

 「さっすが優等生。何で教師にならないんだか。勿体ないわね。養成学校になら進学できたのに」

 「だって、興味ないんだもん。大体、あんな変な法律のせいで、私達、この街から一歩も出られないんじゃん。大学にだって行けないしさ」

 「そうね……。プルーはお父さんの跡を継ぎたかったんだものね。でも、この街には大学がないし……」

 ロージィは溜め息交じりに空を仰いだ。

  プルーとロージィの住むこの街には名前がない。一応正式名称らしきものはある。【強制収容地区003】というのがそれだ。一般的には【地区】と呼ばれている。そしてここは街の姿をした牢獄だった。

 「ここじゃ夢なんて持てやしない。もうすぐ卒業だけど、私には明るい未来なんてこれっぽっちも感じない。大体、犯罪者の子孫だからって、なんでこんなところに閉じ込められなきゃなんないのよ。異常だわ」

 タプルー不満を抑えきれないといった表情でコンクリートの地面を蹴りつけた。

 「まあ、そうかもしれないけど……。でも、生活に困ってないし、虐待とか強制労働させられているワケでもないでしょ。街から出なきゃ、普通に生活出来るんだしさ。ま、あんな高い塀に囲まれているってことを除けば、私はこの街嫌いじゃないよ」

 「一生何処へも行けないのよ」

 「今までだってそうだったじゃない。何処にも行けなくっても、こうしてみんなと平和に暮らしていければ、それでいいと思うけど」

 「私は嫌よ。納得いかない。地区の外の人間は好きな時に好きな場所へ行けるってのに、私達はそれが出来ない。学歴だってハイスクール止まり。自由なようでそうじゃない。でっかい鳥籠に入れられてるようなもんじゃない。それに、私達を閉じ込めたからって、外の世界で犯罪がなくなったってワケじゃないでしょ」

 「うーん、でも外のことは解らないし……」

 ロージィは縮れた黒髪を弄びながら口ごもる。

 「それがおかしいんじゃない。私達には外の世界のことは殆ど何も伝わってこない。この街のことと、せいぜい今のアメリカ大統領の名前や地球連邦政府絡みの話がほんのちょっぴり。世界はもっと広いはずなのに……」

 プルーは悔しげに唇を噛んだ。

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