第11話『乗り込む』
参上! 怪盗イタッチ
第11話
『乗り込む』
「イタッチさん、無事侵入できたみたいですね!」
無線からアンの声が聞こえてくる。
「ああ、見張りという見張りはいなかったが、警戒して進んでいく。何かあれば、報告頼むぞ」
「はい! 任せてください!!」
アンの元気な返事を聞き、イタッチとネージュは先へと進む。通気口を伝ってお城を進んでいき、たどり着いたのは5階。
大きな空間で、天井には氷柱ができている部屋。そんな部屋の中央にペンギンが仁王立ちしていた。
そのペンギンの姿を見て、ネージュが呟く。
「あれは……。エンペラー……」
「知ってるのか? ネージュ」
「はい。アイスキングの配下です」
エンペラーは部屋の中央で陣取っている。城の奥へと向かうためには、この部屋を通るしかない。
しかし、この部屋を通り抜けようとすれば、エンペラーに見つかることになるだろう。
「よし、ならこれで行こう」
イタッチは折り紙を作る。そしてネージュに尋ねた。
「残ってる配下の姿は分かるか?」
「え、は、はい」
イタッチはネージュにアイスキングの配下の情報を教えてもらう。そしてその情報をもとに折り紙を折った。
そうして完成したのは……。
「おい、エンペラーなんで寝てるんだ!」
エンペラーを呼びかける声。エンペラーは立ちながら、鼻提灯を作って寝ていた。
「ん? ポーラにロウナか、どうした?」
話しかけられたエンペラーはやっと目覚める。すると、目の前にいたのは、ポーラとロウナ。
彼らはエンペラーの仲間であり、アイスキングの配下だ。
ロウナは起きたエンペラーにやれやれとため息を吐きながら、状況を伝えた。
「侵入者の居場所が分かった。だが、三箇所に分かれていて、7階と屋上。そして地下だ、俺とポーラは7階と屋上に行く。お前は地下だ」
「了解……」
エンペラーは大きな欠伸をしながら、トコトコと地下を目指して歩いていった。
そんなエンペラーを見送ったロウナとポーラはエンペラーが見えなくなると、全身を覆っていた折り紙を脱ぎ去った。
「うまく行ったみたいだな」
ロウナから出てきたのはイタッチ。
「本当……ここまで行けるとは思ってませんでした」
ポーラから出てきたのはネージュだった。
「これでエンペラーは騙せた……。まぁ、後の奴らも同じ手が通じるかはわからない、慎重に進もう」
「はい!」
イタッチとネージュは階段を登って上の階へと登って行った。
二人が階段を登っていき、8階にたどり着いたところでイタッチは足を止める。
「ネージュ、止まれ」
「どうしたんです?」
「敵だ……」
8階にある広間。そこには狼の姿があった。二本足で立ち、真っ白なコートを羽織っている。腰には刀があり、風格からイタッチは敵の中でも実力者だと判断した。
「変装が通じないだろう。いや、なんだったら、俺達の存在にももう気づいてるだろうな」
「そ、そうなんですか……じゃあ、隠れた意味は?」
「あるさ……。ネージュ、君を先に行かせる」
「え?」
ネージュが驚き、大きな声を出してしまいそうになるがイタッチが口を手で覆って声を抑えた。
「俺の見込みだが、さっきのエンペラーよりもはるかに格上だ。もしも狙われれば厄介になる」
「それじゃあ、どうするんですか?」
「俺が足止めする。俺達怪盗の仕事はお宝を盗むことだ。ネージュ、お前がアイスキングからお宝を盗み出せ」
「わ、私がですか!?」
「大丈夫。俺もコイツを無力化させたらすぐに追う」
少し考えたネージュだが、イタッチに言われて決意を固める。
「分かりました。頑張ります!!」
「それでこそ、俺達の仲間だ」
イタッチがフンと笑うと、ネージュが驚く。
「……仲間、ですか」
「なんだ、嫌か?」
「いえ、短い期間ですけど、認めてもらえて嬉しいです!」
「なら良かった。よし、俺が合図したら、階段を目指して走れ」
「はい!!」
イタッチは折り紙を折り、剣を作り出す。そしてタイミングを見計らうと、
「今だ!! 行け!!」
ネージュに合図を出した。ネージュは低くしてきた姿勢を元に戻して走り出す。
ロウナはネージュに気づくが、驚く様子はなく、すでにいることには気づいていたようだ。
「来たか。ネージュさ……ネージュ」
ロウナは腰につけた刀を抜き、ネージュを迎え撃つ姿勢になった。
「もう一人いるようだが、先に……っ!!」
ロウナが刀を振り上げる。そしてネージュを切ろうとするが、隠れていたイタッチが素早く飛び出して、刀が振り下ろされるよりも早く二人の間に入って、折り紙の剣で刀を止めた。
「は、はやい!?」
イタッチの存在には気づいていたが、そのスピードは予想外だったのか、ロウナは刀を弾かれる。
イタッチとロウナが武器をぶつけ合っている間に、ネージュは二人を通り抜けて階段へと辿り着いた。
「イタッチさん、先に行きます!」
「ああ、行け!!」
ロウナはネージュを追おうとするが、イタッチはその行き先を塞いで、追えないようにした。
「行かせないぜ……」
「侵入者め……」
ネージュは階段を登り、二人の視線からネージュが消えた。
ロウナはネージュを追うのを一旦諦めて、イタッチと戦うため、距離を取って呼吸を整えた。
「侵入者……。貴様がイタッチか」
ロウナは刀を構えてイタッチに尋ねる。イタッチは剣を握りしめて、ニヤリと笑った。
「ああ、俺がイタッチだ。お宝を頂きに来た」
「そうか、……怪盗イタッチ。貴様はこのロウナが相手をする」
二人は武器を振り上げて、同時に走り出す。二人の武器が交差して、火花が散る。
「やはり……一度剣を交えただけだが、私にはわかる、貴様、かなりの実力者だな」
ロウナは刀を剣に押し付けるように、力強く切り込む。イタッチもその刀を剣で受け止める。
「ロウナ、君もな」
二人は武器を交差させていたが、同時に剣を弾き合い、何度も武器をぶつけ合った。互角の戦いのように見える。しかし、
「くっ!? ……私の剣技が……効いていない」
ロウナは様々な角度からイタッチに切り込んでいたが、イタッチは容易くその剣を受け止めて、防御していた。
しかし、チャンスは何度かあるのに、イタッチはロウナにダメージを与えるような攻撃は放たない。
そのことに気づいたロウナは刀を止めた。
「……イタッチ。なぜ、本気を出さない……」
ロウナが攻撃を止めると、イタッチも攻撃を止めた。
「……俺は怪盗だ。倒すのが仕事じゃない、盗むのが仕事だ。それに……」
イタッチは折り紙で作った剣から手を離す。剣はカランと音を鳴らして、氷の地面に落ちた。
ロウナはイタッチが武器をしてたのを見て、目を丸くする。
「なぜ、剣を……」
「お前は敵じゃない。そうなんだろ?」
「…………」
ロウナは刀を腰につけた鞘にしまった。そして目を瞑り、深呼吸をする。
呼吸を整えると、ロウナは真剣な眼差しでイタッチに尋ねた。
「なぜ気づいた……」
「そりゃ〜、ネージュを狙った時だな。お前の剣を止めてみて、その攻撃が本気で無かったことに気づいた」
「……本当に凄いやつだな」
ロウナは膝を曲げて、しゃがむように低い姿勢になる。そしてイタッチに頭を下げた。
「ネージュ様を……いや、ネージュ様とラビオン様を助けてほしい……」
「ネージュとラビオン? ロウナ、どういうことだ? 事情を話してくれないか?」
「…………分かった。全てを話そう、ネージュとラビオン、そしてアイスキングの関係を……」
イタッチとロウナが話している中。エンペラーが地下にたどり着いていた。
「確か、ここに侵入者がいると聞いたが?」
エンペラーは地下を進み、仲間から言われた侵入者を探す。広大な地下だ、そう簡単には侵入者には出会えない。そう思っていたのだが、
「ん、あれは……」
地下を歩く二人組。フクロウとネコだ。二人の服装からして警察官なのだろう。だが、そんなことはエンペラーには関係なかった。
「おい、そこの侵入者!!」
エンペラーはフクロウ警部達に怒鳴る。そこ声を聞き、やっとエンペラーの存在に気づいたのか、フクロウ警部とネコ刑事はエンペラーに目線を向けた。
「フクロウ警部。初めて見る方です……。アイスキングの仲間でしょうか?」
「だろうな、こんなところにいるということは。さて、私は警視庁から来たフクロウというものだ、協力してもらいたい」
警察手帳を見せるフクロウ警部に、エンペラーは腰に両手を当てて胸を張る。
「ほぉ、協力か……。ゴミ掃除のか?」
「ゴミ掃除ではない。イタッチ逮捕の協力をしてもらいたいのだ」
「ふん、あの挑戦状の仲間かと思ったが、違うみたいだな。だが、協力は断る」
エンペラーはフクロウ警部を睨みつけ、そして、
「どうやらお前達はアイスキング様の恐ろしさを分かっていないようだな。ならば、俺が分からせてやる、我々を恐ろしさというものを」
そう言ってエンペラーが全身に力を入れると、エンペラーの周囲を冷気が包み込む。白い煙が発生して、地下室は一気に冷凍庫状態になった。
「イタッチを追って侵入したらしいが、お前達もアイスキング様に逆らう反乱者と判断した。ここで処刑してやる」
「ふ、フクロウ警部!? これまた襲われるパターンですか!?」
エンペラーの態度にネコ刑事がビビる中。フクロウ警部はホルスターから拳銃を取り出した。
「そうらしい。ネコ刑事、後ろにいろ、ここは俺が相手をする」
「フクロウ警部、やるんですか!? またやられますよ!!」
ネコ刑事はフクロウ警部を心配するが、フクロウ警部は自信満々に答える。
「先ほどは油断したが、今回は負けん。早く後ろに下がれ!」
「は、はい!!」
ネコ刑事は後ろへと下がり、フクロウ警部とエンペラーの先頭を見守ることにした。
地下室の温度は急激に下がり、0度を下回っている。長期戦になれば、不利になるのはこちらだろう。長く戦うことはできない。
「俺の名はエンペラー。アイスキング様の忠実なる配下にして、時すらも操る氷の化身」
エンペラーは周囲を凍らせながら、格好をつけて自己紹介をする。フクロウ警部はその姿を見て、無視しようかとも思ったが、ここは乗ることにした。
「俺は警視庁の警部、フクロウだ。君達を逮捕する」
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