見出し画像

早春の武甲山で遭難しかけた話(前篇)

はじめに

先日、武甲山へひとりで登山した際、下山途中に道に迷い、遭難しかけた。結果的に助かったのだが、二度ほど(このまま、死ぬかもしれない)と思った。考えてみると、そんな経験をしたのは、人生で初だったし、そこで感じたこと、思ったことを忘れたくない、と。ここに記すことにした。

これは武勇伝ではなく、恥だ。
自分は、この登山で、いろいろな間違いをおかした。

けれど、それを克明に記すことで、いつか山を登るどなたかの脳裡にほんの少しでものこって、何かお役に立てることがあれば、と不遜ながらも思っている。長くなりそうなので、前篇・後篇、と分けます。

「武甲山」に決めた動機

以前、詩の会(自分の主宰している会)で秩父の書店にお世話になったことがあり、そこのご店主(生粋の秩父生まれ、秩父育ち)に、みなで「武甲山」についての話をお聞きした。

《「武甲山」(標高1304M)は秩父を代表する名峰で、日本二百名山のなかにも入っている。ただ、武甲山はすこし特殊な山で、山体の北半分を石灰岩がしめている。そのため「セメント」の材料として、大正時代から、秩父にて石灰岩の採掘が始まり、 秩父の繁栄とともに、昭和40年頃より、急速に山容を変えていった。》

ようするに、人間達がセメント生産のために山をどんどん削っていった、という話。昭和56年に関連企業三社による協調採掘が始まり、今に至っていると。
そう、今もなお、山はからだを、人間たちに削られ続けているのだ。
石灰岩を削られてる側の山容は、とても痛ましい。

それを聞いたとき、こみあげてくる思いは「ごめんなさい…」だった。
山は動かない、逃げられない、なにも言えずに、体をえぐられ、削られつづけている。
「私は関係ない、私がやったことじゃない」と言い切れるのだろうか、と自分に問うた。そんなことは言い切れない。人間はゆるやかに連帯、関連しているのだ。

それでも。いつかきっと、謝りに、いや、まずその前に、挨拶に行きたいと思っていた。2019年3月26日――それが、この日だった。

当日の装備

ちなみに自分は、山は好きだが、登山初心者で、今までも数えるほどしか登山したことがない。あげてみると、日光の鳴虫山・大山、筑波山、高尾山、天狗岳位、だろうか。天狗岳は夫婦で初めて登った山で、とても楽しかったが、正直キツかった。
今回の登山(武甲山)は、4、5時間で登下山できるだろうしと、こんな軽装備だった。あとで、自分の浅慮を思い知ることになるのだが…

〈服装〉・黒のパーカー、シャツ+長袖シャツ、ジーンズ、帽子、ナイキのシューズ、リュック
〈飲料、食料〉・ペットボトル(オレンジ紅茶)500ml×1本と、おにぎり二個
〈他〉・スマホが二回分フル充電できるバッテリー、ハンカチ・テイッシュ

〈2019年3月26日(火)晴天/ 武甲山:登山記〉

あらかじめ、調べてあった、武甲山の登山口、へ車で向かう。
ゆくまでの道のりで、セメントの工場が数多くひしめきあっていて、仄暗く無機質で、若干SF的な風景。現役で稼働していることがすぐ分かった。
ああ、山の麓にやっぱりあるんだな、と思う。

そして、「武甲山がもし人間だったら」と想像した。人間のおなかの脂肪を削りとって何かを生成する、謎の生物たちが、いつのまにか足もとに工場を沢山建てている。「なんだお前ら」と思うよな…  いやしかし、脂肪だったら、喜ぶひともいるだろうし、このたとえは違うかも。

◎武甲山登山口(一の鳥居)到着


◆11:00 入山
山の案内図の前にお兄さんがいて、「こんにちは」とご挨拶。先に入山していかれた。案内図を丹念にみる。
距離のみじかい「表参道ルート」からゆくことにする。

入ってすぐに、綺麗な小川。水が澄んでいる。

気持ちいいな。
とことこ歩いていたら、石碑の「丁目」表示があることに気づく。
どれ位ごとだろうか、50~100Mおき位かな。ふむふむ、分かりやすいぞ!いいぞ!と喜ぶ。山頂の御獄神社が「五二丁目」とあったので、自分がどれくらい登ったのか、あとどれ位で山頂なのかが、とても良く分かる。どの山も取り入れてほしい位のアイデアだ。見つけるたびに、嬉しくて写真をとっていたのでみてほしい。

なにかのつぼみ、黄色でかわいい。

「だるまさんがころんだ」を一人でしているような木の根っこ。
大号泣した、「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」のあらぶる樹木達を想起してニコニコ。

一八丁目の「不動の滝」。
「この山の水をペットボトルにつめ、飲料水にしてください」と、なんとも親切なことが記されていた。

小さな神様のすわっていそうな光る石

三一丁目の、木の洞に祀られたお地蔵さん。
思わず、こんにちはと、挨拶。

てくてくと気持ちよく、暑いくらいで、パーカーを脱ぎ、腰に巻く。
登山のストックに、その山におちている良さげな木ぎれを使うことがマイブームなのだが、初めに拾い、使ってた木の棒が曲がっていて、しなるので、少し困っていた。この辺で、いいあんばいの相棒(木)を見つけ、交代。
右が先代、左がニューカマー。

樹木のあいだを、鳥たちが互いに呼び交わすさえずりが聞こえてくる。
なんと、うつくしいたよりだろう。

もう四八丁目あたりまで来たので、もう少しだ!
いい道。

景色を撮ろうとしたら、間違いでうつった。まぬけな顔。

おお、山頂の「御獄神社」が見えてきた。五二丁目!

まず「御嶽神社」の神さまと武甲山へ、ご挨拶。
そして、ぶじに登らせてくれたことに、感謝の意をつげる。

◆13:15 「武甲山」山頂着。すばらしいながめ。

おお、ポエカフェ(詩の会)できそうな小屋があるぞ!!
(いつも山にくると、無意識に物色している)

15人位はすわれそう。すわってみた。
山をみおろす、絶景ポイントにある。

ちなみに、登山・下山している方はけっこう多く、
ゆきの道では、20人位のかたとすれちがったように思う。
動物には会えなかった。虫とは少し会えた。

早春の武甲山で遭難しかけた話(後篇)1」へ続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?