見出し画像

ラフマニノフ9「ホロヴィッツと2台ピアノ」と「ホフマンと手を交換」

亀井聖矢さんラフ3応援第1弾『米国ツアーと初演』(文末にリンクがあります)に続き、今回は第2弾として『協奏曲第3番に縁のあるピアニストとラフマニノフの交流』を、思い切った日本語でご紹介したいと思います。どうぞ最後までお付き合い下さい🙇

1.はじめに、ラフマニノフを敬愛していたウラディミール・ホロヴィッツとの交流から。これは手紙や回想ではありません。しかも有名な話で、ご存知の方も多いかもしれません:

キエフ音楽院卒業演奏に、ラフマニノフ協奏曲第3番を弾いたホロヴィッツ。当時彼が師事した教授は、ラフマニノフ宛の手紙に『ホロヴィッツはあなたの大ファン』と書いています。ホロヴィッツの米国デビューは24歳、1928年1月28日。演目はチャイコフスキーピアノ協奏曲第1番でした。ラフマニノフは、その前日、ホロヴィッツを激励に訪れています。

この米国デビュー公演は大成功で、すぐに次の公演が決まります。演目はラフマニノフ協奏曲第3番、指揮はダムロッシュ、オケはニューヨークフィルハーモニック(ニューヨーク交響楽団と統合)。ラフマニノフ自身が協奏曲第3番を初演した時と同じ指揮・オケです。このダムロッシュの計らいで、ホロヴィッツとラフマニノフによる協奏曲第3番の2台ピアノ、直前通しリハが実現しています。場所はスタインウェイ・ニューヨーク、ラフマニノフが伴奏、ホロヴィッツがソロです。当日スタインウェイの前には、噂を聞きつけた人が集まり、交通の妨げになってしまったほどだったとか…

亀井くんはこれまでに2回、スタインウェイ東京で角野隼斗さんと2台ピアノ演奏を行っています。その様子は、自身のYouTubeチャンネルで配信*されました。そういう背景がありまして、このラフマニノフとホロヴィッツのエピソード、是非ここでご紹介したいと思った次第です。(*現在メンバーシップで公開中)

なお、亀井くんは今、TwitterやInstagramにラフ3を仕上げて行く様子をアップしています。リンクを貼った動画は1人で2台弾きです。しかも楽譜解説付き。12度届く亀井くんの手、形も美しく密集和音の連続にもゆとりさえ感じます。ラフマニノフのリズムをクリアに刻むそのしなやかな手、アップでご覧頂けます✋

そして次は、その『手』にまつわるお話です。ラフマニノフの手が大きかった(13度届いたとか)ことは有名です。

2.ご紹介するのは、1931年に交わされたピアニスト・ホフマンとの往復書簡。ラフマニノフは、このヨゼフ・ホフマンに協奏曲第3番を献呈していますが、ホフマンは手が小さく、このコンチェルトを弾いていないそうです。手の大きいラフマニノフと小さいホフマンの間で、次のようなユーモアあふれるやり取りが交わされていました。まずはホフマンが、ピアニストの中の最高位のピアニストという意味を込めて、Premier Sergei Rachmaninoffと宛名に書き、次のような手紙を送っています。

ホフマンの手紙(ラフマニノフ宛 1931年1月15日):「私の手とあなたの手を交換するという話、考えてみました。先日のパーティーで、親切にもあなたが持ちかけて下さったこの取引、お受けします、是非よろしくお願いします。(確か)私の指20本に対して、あなたの指10本でしたね。本数が少ないあなたの指の方が、はるかに優れている、それは間違いありません。問題は、どうやってこの取引を成立させるかです。痛くないようにしたいですから。何か良い方法はありますか?」

これに対し、ラフマニノフも称賛の意味を込めて、ユーモアあふれる返信をホフマンに送っています。

ラフマニノフの手紙(ホフマン宛 1931年1月19日):「こういう話がありますよ。昔々、パリの街は、洋服の仕立て屋であふれていました。その中の1人が、仕立て屋が一軒も進出していない通りに、首尾よく店を構えることができました。そして看板に『パリで一番の仕立て屋』と書きました。

次にその通りに店を開いた仕立て屋は、だったらウチはと『世界で一番の仕立て屋』と書きました。やがて、この2軒の仕立て屋の間に、同じ通りに3軒目となる仕立て屋が店を構えました。さて、看板に書ける文句が残っているでしょうか。3人目の仕立て屋は何とも慎み深く、こう書きました『この通りで一番の仕立て屋』と。

1/15付けの手紙、拝読しました。あなたには誰にも負けない高い専門性があるのに、なんて謙虚なんだろうと、私は感心しています。そして、この仕立て屋の話を思い出しました。あなたこそ、この3人目の仕立て屋の称号がふさわしい。『あなたはこの通りで一番のピアニストです』 セルゲイ・ラフマニノフ」

(References: Bertensson, 1956, and Matthew-Walker, 1981)🔚

以上、協奏曲第3番に縁のある2人のピアニストとラフマニノフの交流エピソードをご紹介しました。最後までお付き合い頂きありがとうございました。自分が一番に愛するピアニストさんがラフ3を弾くって、皆さん本当に大興奮だと思うのですが、いよいよ私にもその機会が訪れます。最高の公演になることを祈っています!

こちらでは、初演や米国ツアーにフォーカスしています☟

そして、こちらは9月28日杉並公会堂での公演情報です👇