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麻雀における“勝つ能力”とは


 先日、『独ソ戦』という本を買った。第二次世界大戦でも最大級の犠牲者を出し、概要の説明は不要と言っていいほど周知されているこの戦争だが、戦後、機密文書の隠蔽や政治的プロパガンダなどにより、事実とは異なった見解を持つ人が多い戦争でもあるという。近年、急速に研究が進められ出版に至ったそうだ。

 面白くないわけがない。そう思って授業中読み耽って2日で読み終えた。期待通り、少しでも興味があるならぜひ読むことをオススメしたい内容だった。

 その中で、

「ドイツ軍が、ロシア軍の抵抗力や移動による疲労によって、戦に勝利しているにもかかわらず戦を重ねるごとに“勝つ能力”を失っていった」

という記述があって考えさせれるものがあった。麻雀でも、似たような感覚に陥ったことはないだろうか。

 僕は、麻雀においての“勝つ能力”とは“自己の麻雀の確立”であると思う。それは、システムであり、勝ち方でもある。

 僕はよくこんな相談を受けることがある。

「牌理や押し引きであまりミスをしていないのにそれ相応の段位に上がることができない」

「牌効率ができれば○段は抜けれると書いてあったので、頑張って勉強したけど全然ダメ。やっぱり運ゲー...(以下略)」


 こんな相談をする人には大体、似たような傾向がある。それは、1日中打つ日が多くあったり、過度な熱続行をよくしてしまったりすることである。

 一応牌譜を見てみるのだが、たしかにミスの数や牌理の精度は相当段位よりも高いように見える。しかし、それは牌譜を1つ見たにすぎない。

 その人がどういう戦術を選ぶか、によって同じ局面でも正解が変わることがある。ペンチャン払い、役牌先切り、ホンイツの基準などがこれに当たるだろう。そしてこれは主に、“成績の安定”と深く関係している。 

 例えば、基本は「どちらでも良いけど役牌を残す」「どちらでも良いけどタンヤオを強く見る」ような打牌をするのに、「どちらでも良いけど鳴かない」という選択をしがちな人は成績がまるで安定しない。しかし、牌譜を1つ2つ見ただけではあまり違和感がない。このように1つ1つは大して差はないような選択でも、戦術を通して見るとかなり損していたりする。

 さらに、麻雀という1ゲームが30分以上かかるという現代においてあまりに長すぎる、そして精神力をそれなりに使うようなゲームを繰り返し繰り返しやっていると、どうしても「今の一打」以外の事に頭がいってしまう(pt状況を過剰に気にしながら打ってしまう、など)。簡単に言うと、「選択肢を並べて、そこから良いものを選ぶ」ことができなくなってくる。「とりあえず間違えてなさそうなもの」を無意識に選んで切ってしまうのだ。そして、“しっかり打っているはずなのに安定して勝てない”という事実がまたさらに打牌のバランスをおかしくし、自らの安定力を破壊していくのである。


 ちなみにこれは、ドイツ軍とソ連軍の戦法の違いに似ていたりする。

 ドイツ軍は小規模な作戦により小さな勝ちをとにかく積み重ねて局面を有利に進めようというタイプ。

 それに対してソ連軍が終盤において勝利できたのは、作戦を統合し、「戦術」という次元にまで発展(作戦術と呼ばれる)させ、細かいところにもこだわることができたからだといわれている。


 さて、ここからはあくまで僕の意見を書いていく。

 つい最近までは、ここらへんのことがあまり重視されていなかったように思う。座学といえば、あくまで牌理や明確に損得のあるような押し引きや点数状況判断を学ぶのが一般的だった。戦術としての『麻雀の確立』も、天鳳でいうと、六段くらいでやっと意識するべき対象とされ、それまでは基礎基本を徹底することがなによりも大事、という風潮があったように思う。しかし、ここ数年でそれは徐々に変わりつつあると感じる。それは、suphxのAIとは思えないような人間的な打牌や、一般的にデジタルと呼ばれる選択と一致しないことが多くあることから、「何を切ったか」だけでなく、「誰が、何を切ったか」にスポットが当てられたような戦術本やnoteが増えてきたなと思う。

 平均的に見ればどちらでも良いような打牌も、メンゼン型の人はそれを切ってもいいけど副露型の人がそれを切るのは明確に損だよね、みたいなことは多分思っている以上にあるのだと思う。そのわりに、数値として表すのが難しいことや、卓やルールによってそれらが容易に変化してしまうことなどから、セオリーとして世に出すことが難しい。よって、あまり認識されにくく、反省などもしづらい。

 しかし、最近では配信(雀魂ブームなどで、有名なプレイヤーの思考を聞けるような配信が増えた)の充実、AIによる牌譜解析機能などもでき、そういった数値化しづらい部分を自分で修正できるような手段が増えた。これらは、これからもっと増えていくだろう、そして活用できる人はより早く勝ち組に入ることができるんだろうなと思う。

 このような自分の麻雀をどこまで確立できるか、そこにどこまでこだわれるかが、これからの時代(というか、もう来ているかもしれない)の勝者と敗者を分けることになっていくんだろうなと思う今日この頃である。