わたしはある星で、大きな光を受け生まれた。その光は赤くて、白くて、少しだけ金色の混じる温かいもの、わたしたちが愛と呼ぶものに少し近いかもしれない。
 わたしは真白い部屋にいて、カーテン越しに母を見た。わたしは母と初めて目を合わせ、その透き通る黒い髪の毛、黄金色の瞳がふたつ、己が母の一部であると認識した。
 母は大層綺麗な女であった。女という生き物は月に例えられるが、わたしの母は月と表すにはあまりにも眩しくて、彼女が月だというのならきっと月は恒星なんじゃないかと、そういう風に思えるひとであった。
 恒とは不変を表すものであり、母はまさしく恒であったが、わたしは常に変化した。
 わたしは生まれてすぐに尻から垂れ下がっていた尾を切り落とした。その尾にはふさふさの金色の毛が生えていて、わたしはそれが少しだけ気に入っていた。切り落とした後に気づくと黒く変色して、土に帰ってしまった。わたしはそれがすごく悲しくて、母の胸でわんわんと泣いたものだった。
 わたしはとても怖がりであった。わたしは眠ることが怖くて堪らなくて、毎晩震え大声で泣いていた。眠ってしまったら、もう二度と目が覚めることができないと感じていた。変わらないものなどないのだと気づいていたからだ。
 ある秋の日、わたしは夢を見た。夢を夢であると明確に判断する術をわたしは知らないが、まさしくそれは夢であった。
 夢の中で、母はベッドの上に座り声も出さず泣いていた。美しい微笑みを湛え、陶器のような白い頬をぽろぽろと光が落ちた。真白い部屋では窓が開いて、カーテンが風に揺れていた。夜空から星の粒が溢れて、カーテンをすりぬけて部屋の中にちらちらと舞い落ちていた。わたしは目の前の光るものが母の溢れ落ちる涙か、星の粒かよくわからなかった。
 母は月であった。母は、いつまでも変わらない月であった。月から溢れた星の粒が、母の美しい瞳から落ちているのだと気づいたのは、わたしがまた少し変化してしまった後だった。
 わたしは変化をする。わたしは変わらない母を置いて変わってしまう。
 わたしは変化をする。わたしの中の母の一部が変わらなければいいと祈りながら、わたしは眠る。

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