金木犀

「わたし言わなきゃいけないことが沢山あるの」
言葉にしてしまうとそれは水のように流れていくような気がした。きみとの一番綺麗な記憶を写真にしてずっとずっと仕舞っておきたいから、机の引き出しを少しだけ整理しておこうかな。きみの夢をここ最近、毎日見ているような気がするから夢日記を書くのをやめてしまった。わたしはよく去年の秋を思い出す。記憶の中の秋の風は甘い匂いがして、きみのことを連想させる。夢見心地の日々とわたしの抱える小さな地獄ときみが助けてくれたあの夜のことを、わたしはきっといつまで経っても、誰と愛し合っても覚えている。
「わたしのお気に入りの香水の匂いを覚えておいてね、わたしの一番綺麗な姿をずっとずっと忘れないでね」
瞬きをしないでいたら閉じ込めておける気がした。涙が溢れてしまったらきみが流れていってしまいそうで、空を仰いだ。金木犀の匂いがわたしは何よりも好きで、それは少しだけきみの匂いに似ていた。

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