秘密

 わたしの秘密を今から二つだけ、明かそうと思う。わたしは今まで男を三人殺した。三人の男を残酷な方法で殺してしまった。一人目ははじめて私に想いを寄せた男であった。軽々しくも生涯わたしを愛すと口にし発される言葉はまるで恐ろしい怪物のようで、言葉が孕んだ淫らさはわたしを耳元から犯す様だった。わたしにはあまりにもおぞましく、校舎の裏側、七夕の夜、呪いの魔法を詠んで殺してしまった。二人目は身体の半分を鉛で作られた男であった。鉛というものはすぐに錆びる。すぐに錆びてしまって使い物にならなかったので、わたしは熱く熱く、苦しいほど熱い鍋に入れてドロドロに溶かしてしまった。三人目の男はまるで夢を見ているかの様に綺麗であり、幼い頃に見た星空の様に儚くて、大層大切に扱わねば割れてしまうと思われたが、案の定わたしが躓いた拍子に落っことしてしまってガラスの割れる音と共にぐしゃぐしゃになってしまった。わたしは三人の男を殺した。虫も殺さぬような顔をして、わたしを愛した男を三人とも…跡も残らぬような方法で滅茶滅茶に…殺してしまったのだった。
 わたしのもう一つの秘密は、わたしというものか実は空っぽなことだ。わたしは生まれつき心臓を持たなかった。心臓のあるはずの場所にはぽっかりと虚ろな穴が空き、わたしはわたしというものが本当は存在しないのだと、わたしというものは何らかの入れ物にすぎないのだと悟った。人の身体というものは穴が空いてはいけない。わたしは心臓のあった場所に綿を詰め込んだが、「まるでぬいぐるみみたいね」と美しい顔の母が笑うので、わたしはなんだか滑稽な気分になって、顔を歪ませて「秘密は隠すためにあるのだ」と馬鹿のようなことを考えたのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?