ただ、運が悪かっただけ

書きにくいことを思い切って書いた。
公開することに恥ずかしさがないわけではない。

だけど自分や大切な人が健康であることの価値を、どうか1人でも多くの人に噛み締めてほしい。

お前のそんな話、聞きたくないわーって人もいるかもしれない。
そんな人ほど耳の穴かっぽじって、いや、目の穴かっぽじって読んでほしいので、脳内で石原さとみにでも、清野菜々にでも置き換えて読んでくれ。
できるなら私は北川景子の顔が好きなので、置き換えるなら彼女にしてくれたら何よりである。


約40%

日本における子宮頚がんの検査の受診率です。

私はこの検査を毎年受けていたけれど、受診率がこんなに低いことは知らなかった。アメリカの半分でしかない。

知るきっかけは、私自身がこの検査に引っかかったからだ。


昨夏、青年海外協力隊になった私。
長年のやりたいことだったし、コロナで2年間待ったこともあって、まさに「念願」という言葉がぴったりだった。
修了書を受け取った時に込み上げた嬉しさは、多分一生覚えていると思う。

だけど予定日には出発できなくて、3ヶ月待機。なんとか渡航して、さらにその3ヶ月後には任期短縮になって帰国した。

その原因が「子宮頸部異形成」(詳しくはGoogle先生で!)

子宮の頸部と呼ばれる場所に、癌ではないけれど、正常ではない細胞がいますよ、という状態。

原因は「ヒトパピローマウイルス」(HPV)の感染。私たち人間は様々なウイルスや菌をもっていて、その中の一つなので珍しいものではない。

感染経路は性交渉で、経験のある人なら女性なら80%以上、男性なら90%以上が一生のうちに一度は感染すると言われている。
誤解を生みたくないので先に言っておくが、性病ではないのでコンドームを使っても感染は防げない。なんなら挿入すら関係ない。

HPVは自己免疫で自然に排除されることがほとんどだけれど、長い期間感染した状態になると、女性は頸がんの原因になる。
男女共に感染するのに、女性にしかない子宮頸部でがん化しやすいだなんて、なんだかちょっと理不尽な気もするのだけれど。

異形成の状態は軽度、中度、高度と3段階に分かれていて、私は一番下の軽度と診断された。


軽度でも出発にストップがかかった理由は2つ。

一つは、派遣国では必要な検査を受けられる病院がないこと。先にも書いたように約80%が自然治癒する。けれども稀に悪化することがあるので、6ヶ月に一度の検査が必要だった。

私がお世話になっている可愛らしい主治医の先生の可愛らしい言葉での説明を借りれば
「異常のある部分をプチッと切り取ります。米粒半分くらい」という検査をする。

この検査は何回やっても憂鬱な不快感と痛みがある。そしてプチッと取るくせにNO麻酔だし、当然出血もする。あーもう、書いてて痛い!!!

アフリカの病院には2回ほど行ったけれど、もしここでプチッと取る検査やるぞと言われたら、私は間違いなく泣きべそをかいただろう。
そして出血状態で、湿気と暑さの国で過ごすのなんて衛生面で心配しかない。
それくらい環境はよくなかった。

(※アフリカの別の国では国内で受けられるところもあります。私の派遣国はだめでした)

もう一つは、16型という一番進行性の高い型のウイルスに罹患していること。
HPVには100種類以上の型があって、頸がん患者から頻繁に見つかるものは「ハイリスク型」と呼ばれ、その数は13種類。

その中で最も危険と言われているのが16型。軽度と診断された人が半年で手術をするまでに進行したという事例もある。もちろん全員ではない。自然消滅することがほとんどだし、そもそも16型が見つかることは少ないらしい。

そんな16型が見つかっただけでなく、他に見つかった2つのウイルスもハイリスク型だった。フルビンゴ。引き強すぎて草。


ただ異形成ならよかった。
16型がいることが分かってから、事態は色々とひっくり返った。

派遣は一度保留になった。癌になる可能性が高い人間を、わざわざ環境の悪い場所に送り込みたくはないだろう。
最終的には半年に一度、帰国して検査を受ける条件付き派遣になった。(すべて自費で)

その頃、世界的に燃油は高騰。航空券はバカみたいに高かった。それでも行くという答えを出したのは、もう意地だった。ここまで何年待ったと思ってるんだ。


私は年1回の頸がん検診は必ず受診していた。引っかかったこともなかった。

それが突然、異常ありと診断され、ましてや最も危険と言われるウイルスの持ち主になった。
1人バイオハザードのような、悪い意味ではぐれメタルにでもなったような気持ちになった。

この1年間、パートナーだった人に連絡をして、全部話して謝った。彼らの今のパートナーにも、これからのパートナーにも16型を移してしまう可能性がある。
謝られた方だって困るし責任を感じさせてしまっただろうけれど、他の女性がこんな怖い思いをするのかと思うと、とにかく居た堪れなかった。

残念なことに、心無い言葉を返してきた人もいた。なんでこんな人をパートナーに選んでいたのか、過去の自分に呆れ返った。

そして目の前の人間に対して、
箪笥の角に小指を思いっきりぶつけますように
階段で躓いて脚のすねを強打しますように
豆腐の角に頭をぶつけますように

こんなことを強く願ったことなどない。きっとこれからも。あいつめ、毎日ぶつけやがれ。

その言葉が原因ではないけれど、自分自身が汚いものとか危険なもののように感じたことは、一度や二度ではない。診断から半年以上経った今でも、そう感じる時はある。


異形成と診断されたとしても、彼氏と呼ばれる特定のパートナーとの性行為に問題はない。(すでに相手も感染している可能性が高いし、他の人とは関係を持たないという前提なので)

でも診断が出た時には、私にはその相手がいなかった。自分の体にハイリスクなウイルスがいると分かった以上、新しくパートナーを作ることは怖い。

私は体を重ねない恋人関係の在り方は知らない。そんなの成り立つのだろうか。
だから、仮に新しいパートナーができたとしもまた自分が感染を広げた可能性に苦しむ。女性よりも低いけれど、男性にだってリスクはあるし、ずっと一緒にいられるとも限らない。それが怖い。

私は30代半ば。
今、子どもがほしいとは思っていないけれど、これからのパートナーが望むのならその選択肢だってあると思っていたし、年齢的なリミットも頭をよぎることがあった。

異形成はすぐには治らない。少なくとも2年の経過観察が必要。当然ながらその間に私は年齢を重ねる。
そしてもし進行して手術をすることがあれば、妊娠・出産への様々なリスクが高まる。

新しいパートナーを見つけることも
子どもを望むことも
診断が出る前と後では、まったく可能性が変わってしまったのだ。

それはなんだか、自分が人間の女性として大きく欠落したように感じられた。恋愛という人生の彩りも望めない。誰かを好きになる感情も捨てるしかなかった。
それらがすごく悲しかった。


1月、診断されて以来の初めての検診があった。

診断結果は、中度異形成。
約80%の人が自然治癒と言われている中、そこに入れなかった。(もちろんこれからも自然治癒の可能性はあるけれど、中度の方が数字は小さくなる)

たった半年で私の体の中の異常は、一歩悪い方に進行した。早い。早すぎる。これが16型の威力なのか。

これによって私の協力隊生活は終わりを迎えた。当然だ。


異形成には治療法がない。

高度まで進行した時に手術して異常な部分を切除する。中度の私は診察を続けて、進行するのか消滅するのかを見守るしかない。
つまり、日本では通院するものの普通に生活していくのに、協力隊は続けられない。このギャップがまた苦しかった。

帰国してから1ヶ月半。
今でも落ち込むことは多いけれど、それは協力隊が続けられなかったことに対してであって、異形成に対しては結構冷静に向き合っている。

派遣国で医療の専門家の方に偶然お会いした。その人は産婦人科が専門で、私の状態をSNSで知ってずっと気にかけてくれていたそうだ。

「隊員を続けられないことは本当に悔しいと思うけれど、この型、ほとんど見つからないんだよ。それを見つけられたんだから、医療者からすると本当によかった。」

そう言ってくれたことに救われているところが大きい。自分の生き方や考え方を変えてみようと思うきっかけにもなった。

それでも著名人が癌で亡くなったという訃報を聞く度に背筋がスッと冷えて鳥肌が立つ。
腰痛や腹痛に見舞われるとモヤモヤとした不安がよぎる。

病気になってよかった!と言う人も世の中にはいるけれど、今の私はそう思えるほど強くはない。
だけど早く見つかってよかったとは本当に思っている。


これまで誰をパートナーに選ぶのかも、行為に及ぶのか及ばないのかも、全部自分の意思で決めてきたことだから後悔はしていない。

風邪をひいたときに、あの人と一緒に食事をしたからだ!とか
虫歯になったときに、あの人とキスしたからだ!なんて、思わないでしょう。

それと同じなんです。
ただ本当に、運が悪かっただけ。

ましてそれが協力隊になった年に重なるのだから
出国日に病院から連絡が来て発覚するのだから
あまり見つからないと言われる16型に感染しているのだから
稀と言われながら進行したのだから

ただただ、笑っちゃうくらい悪運が強いだけ。
誰も悪くない。


最後に。

女性には頸がん検診を必ず受けて欲しい。
男性にはパートナーや家族にきちんと検診受けることを伝えてほしい。

時代は変わって、頸がんは20〜30代の癌になっています。そして若いほど進行は早い。

頸がんの怖いところは、自覚症状が出た時には重症化しているということです。
頸がんの強みは、早期発見がしやすくて、治せるものだということです。


さて、どのあたりで北川景子に置き換えていただけたでしょうか。長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。

「異常なし」
この言葉のもつ大きな価値を、1人でも多くの人が感じてくれることを願います。

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