2024.3.17

深夜のカラオケお酒と混ざり合う内情の見えない沢山の部屋から聞こえる沢山の知らない人の歌声。頭蓋骨に音と人の念がぶつかって脳にあたりまた頭蓋骨の天井に戻りを繰り返し次第に早送りに脳内をうるさく埋めていく。誰と来ていたかももう忘れた。似たような夜を沢山越えたから色んな記憶が鮮明に蘇ってきて今自分が何処を生きてるか急に分からなくなった。御手洗に向かっていたと思って居たけど左手に黒いバインダーをもっているから御会計だ。赤い照明と来た時には思っていたけど、艷めく黒い高級感溢れる床に映るそれはビビッドピンクだった。その光が反射して視界の至る所にビビッドピンクがいるから景色としての記憶が艷めく黒とビビッドピンクのマーブルになっていたのだろう。元彼から電話がかかってきて初めて今が2時だと言うことに気がついた。

今日の宿も決めていないしどうしようと言うことを考えながら電話を取るとすごく優しい声で『ごめん、今何してた?』と言うから何となく、恵比寿でカラオケだよと答える。なんの気ない向こうの近況を聞きながら私は早く御会計がしたくてそれを切り出すことばかりを考えていた。ただの暇電では無く、もう元彼の中に本題が初めから存在していることは初めから分かっていた。せっかちな私は過程をすっ飛ばして高校の頃の女友達とかがが言い難いであろう本題を急にぶつける癖があるからなんの為に電話してきたの?と聞いた。

思い返せば別の元彼と別れる時、相手が別れたいと思っていることを察してまだ好きだったのに自分から別れたいって言っていいよと言ったことがあった。その人は私の事あまりに子供で無邪気で自分が傷つくかもしれない事を真剣に考えた事などないと思っていたと思うけど私はきっと彼が思うより大人で彼が思うよりずるかったはずだ。
子供みたいに振る舞うことで得られるものがそれなりにあったから、隠したい気持ちが隠せたからそうしていただけ。

そう、元彼の電話の本題に戻ると
要するに復縁がしたいと言う話だった。私は今の彼氏のことが心底好きで結婚したいと思っているので前々から言っているようにそれには応えられませんと答えた。するとはじめの妙に優しい口調は一気に攻め口調に変わり、付き合っていた時の私の愚痴や出会ってから今までの立ち居振る舞いについての文句をひたすら突きつけられた。思わせぶりだったとか、お前からまた付き合いたいと言われても二度と付き合わないからなとか。

私の脳内でずっと反響し続けているカラオケの沢山の歌声と電話口の元彼の怒鳴り声がぐちゃぐちゃ混ざって感情が混ざって気持ち悪かった。

私の家に帰りたくなかった気持ちと、誰かの寂しさと、無理にテンションを上げる大人達と、元彼の私への色んな気持ちと色んな過去の記憶が1度に頭にあって人間はこんなにも多くのことを1度に考えることが出来るのだと改めて感動した。

目が覚めて、あまりに悪夢だったと思った
体が揺れている気がした。やっぱり地震だった。

オレンジが濃い黄色いぼやけた球体がカーテンの隙間から部屋に侵食し私の前に顔を出して
今日も昨日と同様暖かくなりますよと教えてくれた。

冬がすぎて春が来た、その事実がなんだか怖くて死にたい気持ちとか辛かったことまで忘れてしまうほど満たされて幸せになってしまう気がした。

残っていた白米をレンジでチンして、わさび茶漬けにした。買っておいたアボカドとたまねぎの冷凍もチンしてシーザーサラダドレッシングをかけた。以前貰ったコンソメスープをお椀に入れお湯を注いだ。

何もかもが面倒でも生存のための生活は続いていく。生きてさえいればいいとよく言ったもので安楽死の制度について考えた時、衝動の死にたみで私という人間が安楽死制度に殺されてしまったらきっと勿体ないのだろうと思った。なぜなら何度もそういう気持ちを越えて行き場のない夜を過ごし、歌を歌い、また改めて本当のどうしようもない死が来るまで生き続ける事の新しい意味を得て来たからだ。

なんだかんだ生きていてよかったと思うし、切りたくなかった縁をこちらの未熟さで切ってきた未練はあるけれど生きてさえいればいつかまた巡り会えるかもしれない。なんて考えた朝。

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