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侵略の真の恐ろしさ

7月上旬、大学のフィールドワークで "Island Sustainable Development" を学ぶために、フィジーに2週間滞在した。

この旅で、私はコースのメインテーマであるサステナビリティ以上に、「社会」や「文化」について深く考えさせられ、学ぶ機会になった。



ホームシック

私がフィジーで、目次に挙げた文化や侵略を考えるようになったのは、
フィジーに来て突如として襲われたホームシックに端を発する。

初めて海外での生活を始めたオーストラリアでは感じなかった感情をなぜフィジーでは感じたのか


まずは、黒いビーチやそびえたつ山をはじめとした風景が母国を思い起こさせるのだが、そこにいる人々の感覚や習慣は私とは違うなぁと思ったこと。

また、久しぶりの魚や野菜を中心とした食事が、オーストラリアの食事よりも日本の食事に近く、体が喜びを感じていたこと(笑)


文化の繋がり

そして、建築文化の繋がりが一番大きな衝撃だった。

内部の骨組み
紐は "magimagi" というココナッツの繊維を使用している
こちらが合掌造りの骨組み
内側から屋根を撮影した写真
ススキやアシではなく、パンダナスの葉で作られている

上の写真は、"bure" というフィジーの伝統的な建物で、儀式の際に使われていたそうです。
かやぶき屋根や内部の骨組みが、合掌造りの集落そのもので、入った瞬間から建物を出るまで、ずっと興奮していました(おかげでこの時の講義は一ミリも覚えていないです笑)


数百年前、スマホもテレビもなかった時代に、文通もできなかったであろう7000km以上も離れた南の島で、日本の豪雪地帯で生まれた伝統的な建築様式と同じような建物が作られていたなんて感動しませんか?

フィジーのことを知れば知るほど、私たちは海を通じて心(spirit: 魂というべきだろうか)が繋がっていたのだと感じられてワクワクした。


失われた文化

しかし、私はこれらの共通点やなつかしさを、オーストラリアでは感じられなかったのだ。

その答えを見つけたくて、私たちよりも太平洋に近く、彼らと合わせて自分たちの地域を "Oceania" や "Australasia" と呼んでいるオーストラリア人の同級生に、「何かオーストラリアとの共通点は感じた?」と聞いてみた。


何人かにこの質問を投げかけたが、その答えは
「オーストラリアとフィジーは違うね」か、ヤシの実や南国っぽい風景がオーストラリア北部と似ているという外観に対する感想しかなかった。


この答えを聞いて、
オーストラリアに初めて降り立った時に感じた「この国は、オーストラリアという大陸に人がいるだけだな」という第一印象と、
「オーストラリアって文化をあまり感じないな~」と最近思っていたことを
思い出した。


そうだ、彼らは元からオーストラリアという場所にいた人じゃないんだ。

アボリジニと呼ばれている何万年も前からこの土地で生きてきた先住民族に選挙権が与えられたのは、わずか60年前の1962年。
イギリス人の入植以降、疫病や虐殺、アボリジニ狩りにより死亡したアボリジニの方は、1万人以上。


オーストラリアには文化がないのではなくて、元々文化や暮らしを営んできた先住民の人数や権利が小さく、関わる機会が滅多にないからだと気づいた。

今私が関わっているオーストラリアの社会や文化、食事や人々は、この大陸で長年紡がれてきたものではなくて、
たった200年前にやってきたイギリス人によって持ち込まれたもの。


だからオーストラリアで感じた、アジアよりも西欧に似ているなという気持ちにも、日本と全く似ていないからホームシックを感じるきっかけがなかったことにも納得した。


侵略の真の恐ろしさ

ここで、オーストラリアに来てから、唯一話していて楽しいと思ったインド人の話を思い出した。

彼は、国際関係とジャーナリズムを学んでいて、インドの軍隊で働いた後に、オーストラリアの修士課程に来た。


彼と話していて楽しいと思った理由は、社会学や植民地などの深い話を議論できた人だったからだ。

思い出した彼の話というのは、
彼が軍隊で働いていた理由は「侵略され植民地化されるということは、自分たちの文化を失うことだから。国際関係や社会学を学び、自分の文化を守ることに貢献したいと思ったから軍隊で働いていた。」という言葉だった。

この時の私は、確かに侵略されることにより、文化的建造物の破壊や虐殺、奴隷のような扱いや同化政策を受け、それらは二度と起こってはならないことだとは思ったけど、だから今の社会で軍隊に入るということにはすっと納得はできなかった。

私が母国に対する帰属意識がないので、理解が難しかったこともあるかもしれない。


でも、フィジーで感じた文化のつながりや、それと対照的なオーストラリア人とオーストラリアでの暮らしを経験した今は、彼の言葉がズドーンと身に染みてわかった。


「侵略」や「植民地化」というのは、物理的な支配を超えた
その土地で長年育まれてきた文化や伝統、暮らしを破壊することにも繋がる恐ろしさがあるのだと。

失われた文化は、部外者が歴史を紐解いて史書に書いてあることを真似っこすることでは取り戻せない。なぜなら、その土地で生活を営んで来た人々の中に自然と刻み込まれる価値観だからだ。

血縁や国籍などの書類上の情報とは別で育まれるものだ。


世界中の様々な地域では、各地域の風土に合った食や生活が自然淘汰のような原理で営まれてきて、それに伴い儀式や慣習などが発達し、「伝統」や「文化」が形成されている。

だから、それぞれの地域はそれぞれの魅力を持っている

そしてそれは、国や市区町村などの "border" では分類できないし、分断もされない


その地域に即した文化が破壊された場所に、異なる地域の文化を根差そうとしても上手くいかないだろう。

私がオーストラリアとフィジーで感じた違いがそれを物語っている。


オーストラリアでは文化が失われてしまったのだ。
数少ない文化を継承する人たちも1960年代後半まで続く同化政策により、文化を捨てることを強要されたのだろう(私の父が子供の時代に行われていたことだと知り、恐ろしさに震えた)。


この大陸で育まれてきた文化・食・生活を知りたい

でも、今は「オーストラリア」という名前をつけられたこの大陸にも、フィジー人や海面が低い頃は一つの大陸だったパプアニューギニア人と似たような見た目と性格の人がずっと昔から住んでいて、
彼らと私たちは海を通じて隣で生きてきたから、フィジーで感じたような共通の文化を持っているのだろうなと思う。


オーストラリアに来て、野菜も果物もまずい!日本のご飯が恋しいと思っていたけれど、彼らはどんなものを食べてきたのだろうか。

どことなく日本食と似ていて、ピザ、ポテチ、パンケーキの何倍も美味しいのだろう。またホームシックを感じてしまうかもしれない(笑)


今の私には、今まではイマイチよくわからなかった
先住民族への尊重侵略の真の恐ろしさ(文化を失うこと)が骨の髄まで染みてわかる。


元々、700以上もの部族がこの大陸にはいたらしい。
そんな方々に会いたい。

それは、観光客としての興味本位ではなくて、
何かが繋がっている私たちの感覚を共有して、この大陸で育まれてきた本当の文化や食べ物、生活を学びたいからだ


そして、日本で育ってきてよかったなとも思えた。
なぜなら、自らの文化を持つことができて
それを通じて、離れているけど実は繋がっている人たちとの共通点を見出せることができるからだ。

文化を持ち育むことは、人間に生まれた一番の特権なのかもしれない。


そして、この学びはオーストラリアの大学の授業で、オーストラリア人と一緒に2週間を共にしたからこそ得られたものなので、友人にも感謝したい。

私には、イギリス人やオーストラリア人が悪いとかいう権利も、判断する知識や経験もないが、
文化を失わせる行為は当事者だけの問題ではなくて、人類にとっての喪失だということは胸を張って言える。



おまけ:気候難民

「侵略の真の恐ろしさ」の章で、「文化や伝統は風土に応じて形成される」と述べた。


ここで、気候変動界隈によくいる私としては、気候変動により自国からの退去を余儀なくされる「気候難民」を思い出した。

これも、侵略による文化喪失と同じことが起こるのではないだろうか。


例えば、海面上昇で国土が水没の危機にさらされているツバルは、オーストラリアへの移民を年間最大280人認めるという合意を取ったり、水没してしまったとしてもメタバース上で政府機能や島・ランドマークを再現することで、文化を維持しようと取り組んでいる。

これを聞いた人は、「国が沈むことは悲しいことだけれど、新たな居住地の確保やメタバース上での国家機能が存続されるのでよかったね」と思うかもしれない。


しかし、ツバルという場所で育まれてきた文化は外国の異なる土地でも、本当に存続できるのだろうか。

私は難しいと思う。もちろん、すぐ文化が失われてしまうとも思わない。


しかし、文化は風土によって形成された生活習慣や食習慣に大きな影響を受けていると私は考えているので、記憶が風化されるのと同じように、徐々にツバル文化を持つ人がいなくなってしまうのではないかと思うと悲しくなる。

沈んでしまったら、帰国して母国の空気を思い出したり、子供に教えたりすることはできないのだ。


そして、海面上昇の原因となった地球温暖化は、国土が大きく、現在も富が集まってきている先進国の排出によって加速したのだ。

100年前と現在で、果たして社会の構図は変わっているのだろうか。

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