【ルポ】ホタテの稚貝放流に密着…海水被りながら稚貝“ほろう”…筋肉痛になるも、船上で見る朝焼けが最高 その1
オホーツク海で、毎年4~5月ごろにホタテの稚貝放流が行われます。北海道ハル通信の記者・野中直樹は、この稚貝放流の取材を実施。同月15~25日の間、佐呂間町のホタテ漁師・田中俊(たなか・すぐる)さんの船に乗船しました。
オホーツク海のホタテはどうやって育つ?? サロマで現地調査!
他の産地に比べ大振りの貝柱は弾力が強く、甘みも強いオホーツク海のホタテ。多くのファンがいるのもうなずけます。
ただ、この極上のオホーツク海のホタテ。実は人の手助けがあって育っています。
オホーツクのおいしいホタテはいかにして育つのか。この謎に迫るべく、私は5月15~25日の間、佐呂間町に滞在。ホタテ漁師の田中俊さんのもとで、稚貝放流の作業を体験しました。
サロマでは5月にホタテの稚貝放流を実施 小さな町が活気に包まれる
私が訪ねたのがホタテが有名な北海道佐呂間町。日本で3番目に大きいサロマ湖(面積:151.63平方キロメートル)に面する北海道東部の小さな町です。
「北海道の小さな漁村。人が少ないのでは」と考える人も多いかもしれません。しかし、佐呂間町は毎年5月ごろに活気があふれます。なぜならホタテガイの稚貝放流「地まき」が行われるからです。
オホーツク海に2カ所でつながる汽水湖であるサロマ湖。サロマのホタテ漁師はこの湖で1年間、ホタテの稚貝を育てます。そして5月ごろ、この稚貝を湖から外洋へ移す「地まき」と呼ばれる作業を行います。
注:北海道のホタテ漁
北海道はホタテの一大産地で漁の方法は大きく分けて2つ。日本海側や噴火湾では垂下式、オホーツク側や根室海峡では地まき式を主に採用している。
【ルポ】ホタテの稚貝放流…私はカゴから稚貝を取り出す作業に従事
ホタテの稚貝放流は朝早くから始まります。私が佐呂間町に滞在していた時は毎朝午前2時起きでした。眠い目をこすりながら、ホタテ漁師の田中さんの船がある富武士(若里)漁港に向かいます。
サロマ湖のほとりにある同港に着くのは午前2時半ごろ。まだまだ深夜です。合羽(かっぱ)に長靴、ライフジャケットを素早く身に付け、船に乗り込みます。サロマ湖の遠くの岸辺にも、煌々と輝く光がいくつも見えます。きっと私たちと同じ、ホタテ漁の準備をしている漁船や港の光です。
午前3時ごろに出港です。防波堤を越え沖に出た船たちは速力を上げ、自分たちが育てている稚貝が入っているカゴの元に一斉に向かいます。高回転で回るエンジンの少し高いごう音と船に当たって砕けてできた波しぶきが、暗闇に響き渡ります。
カゴのある地点に着いたら、まだ日も明けないうちからカゴを次から次へと引き上げます。私の担当はカゴから稚貝を取り出す作業。2、3人で稚貝の入った「丸カゴ」を「丸カゴ ホロイ機」の上に載せ、振動を加えてかごの中のホタテを取り出します。
以上の工程を言葉で説明するのは簡単ですが、いかんせんこの「丸カゴ」が中々重い。カゴによっては中の大量のホタテに加え、さらにカゴの表面に大量の昆布やホヤなどが着いている場合もあります。成人男性が2人がかりで持ち上げても中々つらい重さです。
そしてこの丸カゴは次から次へと湖から引き上げられます。カゴからホタテを取り出す作業が遅れると、あっという間に船上は丸カゴで一杯になり、作業スペースが無くなってしまいます。テンポよく作業を進める必要があり、この点も大変です。
取り出された稚貝は丸カゴ ホロイ機のベルトコンベヤーで運ばれ、放流カゴへ。稚貝でいっぱいになった放流カゴは、船の後方に積まれます。そして50個の放流カゴがすべて一杯になったら、船は帰港します。
そして稚貝は暑さや真水が弱点。帰港の際や陸にあげてからも稚貝に海水をかけ続けて、弱るのを防ぎます。
船が港に帰港してからも、作業はまだ残っています。サロマ湖から引き上げた稚貝を、オホーツク海にまきに行かなくてはなりません。
大型の漁船「第二十八さろま丸」の近くまでフォークリフトで運ばれた数百個にも上る放流カゴ。船への積み込み作業は手作業で行われます。かなりの重労働のため、屈強な漁師たちが率先して力を貸します。
大型漁船に載せられた稚貝は、オホーツク海の放流区域へ輸送。稚貝がたくさん入った放流カゴの重さは約24~25キロ。船にうずたかく積まれています。カゴの中の稚貝は、手作業で次から次へと海に放流されます。