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何を食べても味がしないのに何故か、スナック菓子だけは美味しいと感じた。長くジャンクフードを絶っていた反動が、今回のストレスで爆発したかのようだった。

不健康極まりないのは分かっていたが他に選択肢がない。あらゆるスナック菓子を夕食代わりにし、部屋でくすぶっていたその時、電話が鳴った。
裕太からだった。少し躊躇ったが、電話に出た。

「あのさ、もう友達使って説得とか、やめてくれないかな。」

裕太は開口一番、サラリと言った。

「みっともない。周りを巻き込むなよ。皆んな困ってんだよ。」

(・・ああ、これはいつもの、周りを引き合いに出して痛めつける、裕太のやり方だ。)私は思った。

内向的で友人の少なかった裕太に友人を沢山紹介したのは私だった。なのに裕太は、喧嘩したり不機嫌になるといつも友達を引き合いに『〇〇が〜〜と言ってるぜ』と、内容が内容だけに本人に確かめる事も出来ないような言葉を次々と浴びせ、人間関係をじんわりと破壊してくる。手口は分かっていても、かなり傷つく。

「・・分かったよ。ところで、可奈は元気?早く会いたいんだけど。」

「だから、様子がおかしいから父の友人の有名な精神科の先生に診せてるんだよ。こっちは大変なんだよ。先生から会ってもいいと許可が出たら会わせるから。」
 
『母親と引き離されて不安定になっている子どもを、母親に会わせないで精神科に連れて行くなんて、バカじゃないの?』と怒鳴りたかったが、ゆみさんの「怒ったら終わり」という言葉を思い出して一生懸命堪えた。ここで感情を露わにしたらきっと、『不安定な母親には会わせられない。』と、まんまと相手に有利なカードを渡してしまうだろう。心理戦なんて、全く望んでいないのに、もう始まってしまっているのだ。

「可奈にはなんて言ってるの?ママと会えないことを。」

裕太は信じられない事を言った。

「ママは他の男の人と出て行ったから会えないよ、って言ってる。」

こいつは本当のバカだ。鬼だ。信じられない。

4才の子どもに、なんて残酷な嘘をつくんだ。これじゃあ、『ママはお前を捨てた』と言ってるようなものじゃないか。4才の、母親と引き離されたばかりの子どもにそんな嘘をつくのはあまりにも思いやりがない。可奈の気持ちを思うと苦しくって息が詰まる。これは暴力ではないのか?

裕太からの電話はすぐに終わり、私は電話を置いた。

ここ1か月で、まだ4才の幼い娘は突然母親と引き離され、当の私は家族を追い出し男と出て行った女とされ、虐待母とまで仕立て上げられている。まるで、身に覚えのない犯罪者にされたような気分だ。これは冤罪というやつではないか。

それなのに、娘が人質に取られているので下手に動けない。そして、それを実行したのは娘を愛し、守らなければいけない実の父親なのだ。・・完全に狂っている。

私は改めて事の異常さを認識し、(まずは知ることからだ)、とネットでリサーチを始めた。

「連れ去り」「親子引き離し」「片親疎外」。ひとつ調べると関連ワードがどんどん出てくる。どれも初めて聞く言葉ばかりだった。私はすぐに児童心理や離婚に関する本、片親疎外に関して書いてある本など、気になった本は全て取り寄せた。

言葉は知ってはいたが、脳の障害でもあるモラハラ、所謂『モラルハラスメント』もこの時深く知ることになった。『モラ夫の特徴』は、読めば読むほど(これは裕太の事だ)と確信した。外面が良く、プライドが高い。平気で嘘をつくが良心は痛まず、頭の回転が早い。

しかしどのサイトを見ても、「医者もさじを投げ出すモラルハラスメント。治す事は不可能で、ターゲットにされたら逃げるしかない。」と、書かれている。
娘を人質に取られた私は逃げることもできないのに。

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