トイレットペーパー「3倍巻き」特許侵害紛争ぼっ発に寄せて
トイレットペーパーで、
「1.5倍巻き」「2倍巻き」「3倍巻き」
などをうたった商品が、
ここ数年でかなり浸透した。
実はこの手の商品の歴史は意外と古く、
既に20年以上販売されている。
こちらの東洋経済ONLINEの記事で、
1997年に発売開始されたことが
紹介されている。
この記事にもある通り、
「12ロールパッケージがトイレット
ペーパーだという固定観念」があり、
8ロールで同じだけの長さがあると
いう「1.5倍巻き」は、当初なかなか
苦戦した。
しかし、
・省スペースになること
・買い物の際にかさばらないこと
・取り替える頻度も減らせること
など、使ってみた人の間で、
ゆっくりと良さが浸透していった。
このイノベーションで先行していた
日本製紙クレシアは、
更なる投資に踏み切った。
「3倍巻き」を2012年に開発し始め、
2016年4月に満を持して発売開始。
開発過程で、50件以上の特許を取得
していたらしい。
今回、大王製紙が「3.2倍巻き」の
新商品を出したところ、
クレシアが特許侵害を理由に差し止め
請求訴訟を起こした。
そんなニュースが今朝、耳に入ってきた。
具体的な係争の中身については、
これから裁判が進む過程で徐々に
判明するだろう。
どのような結末を迎えるにせよ、
マーケティング、あるいは消費者の視点から、
この「倍巻き」商品に対する注意点を、
今回を機に指摘しておきたい。
まず、「1.5倍」にせよ「2倍」にせよ
「3倍」にせよ、母数が何なのかという
点を押さえておく必要がある。
実は、トイレットペーパーのカテゴリー
においては、メーカー側の基準で
グレードが分けられており、
そのことを一般の消費者はほとんど
理解していないと思しき状況がある。
まず、パルプ(木)100%か、
リサイクル原料が混ざっているか、
という区分がある。
そして、パルプ100%の中でも、
・ファースト
・セカンド
・その他
というようなグレード区分が存在する。
そして、ファーストとして区分される
ブランドは、
・シングル 60m/巻
・ダブル 30m/巻
を標準的な長さとしている。
これに対して、セカンドの区分となる
ブランドは、
・シングル 50m/巻
・ダブル 25m/巻
を標準的な長さとしているのだ。
これは、セカンドというのが出てきた
経緯が、消費者の価格志向に対する
業界の対応だったことに由来する。
要は、ファーストに比べて見た目の
単価を大幅に下げることが出来るよう、
中身を少なくしたということだ。
いわゆる、食品の「ステルス値上げ」に
近いと言ってしまっても、あながち
外れてはいないだろう。
クレシアが、積極的に「倍巻き」商品を
開発してきたのは、「スコッティ」という
ブランドである。
これは、上記区分で言うとセカンドに
当たる。
すなわち、通常品が
・シングル 50m/巻
・ダブル 25m/巻
となり、「3倍巻き」だと
・シングル 150m/巻
・ダブル 75m/巻
という長さになるわけだ。
トイレットペーパーの直径は、
JIS規格で範囲が決まっているため、
あまりに長すぎると、規格の範囲内で
巻き取りきれない(収まりきらない)
リスクがある。
それゆえ、元々長さのあるファースト品
で「3倍巻き」を作るのはハードルが高い
のであろう。
クレシアがファースト品として販売する
「クリネックス」では「1.5倍巻き」を
発売するにとどまっている。
他方、大王製紙が今回「3倍巻き」を出した
のは「エリエール i:na(イーナ)」という
ブランド。
とても分かりづらいのだが、
「エリエール」はファースト区分、
「イーナ」はエリエールの妹的な扱いで
セカンド区分となる。
大王製紙も、ファースト品となる
「エリエール」は「1.5倍巻き」を発売
しているが、「2倍巻き」「3.2倍巻き」は
セカンド品で対応している形だ。
それゆえ、今回の「3.2倍巻き」の母数は、
「スコッティ」と同様、
ダブル:25m/巻の3.2倍=80m/巻
となっている。
正確に説明しようと、つい長ったらしい
説明になってしまった。
要は、この「倍巻き」競争は、トイレット
ペーパーの「フラッグシップ」的な最上位
品ではなく、その一つ下のグレードで
盛んに行われているという事実を
指摘しておきたかったのである。
ここで更に注目すべきは、
シングルは発売されていないこと。
この点については、文章量が大分
長くなってしまったので、
明日に持ち越しさせていただこう。
(明日に続く)