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榎の木

 近くに榎の木がある。
子ども時分から、大樹として聳えている。

 根元には祠がまつられ、守り神である。
 登ることや枝を折ることは罰が当たると言い伝えがあり、恐れとともに畏敬の念に近いもの持つ。

 芽吹きは、下の枝から始まり、息吹が昇るように梢に達する。黄土色の樹の粉のようなものを降らせ、道一面を覆う。

 売れない団子屋は箒を手に、まず店の前を、そして隣へと。やがて汗ばみ、何故か解らない幸せな気持ちに包まれている。

 道は狭く、車とのすれ違いには気を遣う。

 急に、箒と塵取りを持つ売れない団子屋の横に軽トラックが止まった。
 「ありがとう」軽トラの窓からはっきりとした声が聞こえた。
 初老のダンディな親方風の男性だった。

 売れない団子屋は、うれしくもあり、自分の行いが恥ずかしくもあった。


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