維新ぎらい 大石あきこ 講談社
府知事時代、財政危機を煽る橋下知事は、私立高校への助成金削減プランを決め、これに反対する高校生と府庁で意見交換したことがあります。「学費の支払いが苦しい」と生活の窮状を訴える高校生に対し、橋下知事は「みなさんが完全に保護されるのは義務教育まで。高校生になったら自己責任が原則。誰も救ってくれない。」と言い放ちました。高校生は涙ながらに「大阪の財政をよくするというのは、私たちが苦しむべきことなんですか」「他に削るべき支出があるのではないですか」と食い下がりましたが、橋下知事は「じゃあもう国を変えるか、この自己責任を求められる日本から出るしかない」と持論を展開ー。
大阪市長に転身した橋下氏は(略)就任直後の2012年2月、教育委員会を除く全職員を対象に、日ごろの政治活動や組合活動について尋ねるアンケートを実施しました。調査への回答を職務命令で強制し、正確に回答しないと処分の対象になり得ると公言しました。この職員アンケートは、その悪質な性格からマスコミでは「思想調査アンケート」とも呼ばれていました。
地方自治体の首長という「行政の長」の立場を最大限利用し、テレビやSNSにおける政治的中立の壁を破壊してきたことも、とりわけ大阪において成功し、維新を大きく躍進させました。有権者にとっては、テレビで橋下さんや大阪府知事の吉村洋文氏を毎日のように目にして、(略)ツイッターやインスタまどのSNSでは吉村知事が維新候補を応援しているという構図が年中つくられているのです。
大阪維新の会のホームページでは、大阪の二重行政の最たるものとして、「府と市がそれぞれ税金でムダなビルを建てて2つとも破綻した」ことを指摘しています。
①大阪ワールドトレードセンタービルディング 大阪市住之江区・咲洲
設置者:大阪市 完成:1995年
②りんくうゲートタワービル 泉佐野市
設置者:大阪府 完成:1996年
正しく歴史を見ると「二重行政が原因」というのは事実ではありません。当時、大阪府が、民間資本を呼び込んでりんくうタウンに超高層ビルを10本以上も建てようとしたものの未遂に終わり、1本だけ建てた事件、というのが歴史の真実です。つまり、これは「大阪市」との二重性が原因ではありません。単なる大阪府による開発の失敗です。結果としては、「二重行政」の問題ではなく、「ムダなビル建設や開発はダメ」という問題です。
彼らにとっては、広域事務や連絡調整事務を主たる業務とする都道府県のほうが与しやすいのです。「大阪府に移管しても同じ行政機関なのだから、住民の利益を考えてくれるのではないか」と期待したいところですが、権限とお金が広域地方公共団体に移れば、住民の声は届きにくくなります。グローバリストにとって、その分介入できる領域は増えるわけです。
住民投票が間近に迫っていた2020年10月9日、大阪市内の中央区地域振興会(町内会)が主催するかたちでおこなわれた「大阪市廃止/都構想勉強会」(略)その際配布された「特別区設置協定書(説明パンフレット)」に記載されていたグラフが「大阪の成長」をミスリードする、都構想最大の”だまし絵”になっていたのです。
会場からは「特別区になれば財源がなくなり、住民サービスが切り捨てられるのでないのか」といった不安を抱える人たちからの質問が多く出されました。大阪市を消滅させ、4つの特別区にする分割コストがかかるのに、国からの地方交付税交付金は増えません。さらに大阪市の財源約2000億円は毎年大阪府に取られてしまい、住民サービスが維持できる保証がまったくないのですから、こうした疑問を抱くのも当然と言えるでしょう。
しかしながら、こうした不安に対し、担当者はパンフレット33ページの「特別区の財政シミュレーション」にある、特別区は右肩上がりのプラス収支になり、特別区がお金を使える額(財源活用可能額)が増えるというグラフを示し、「特別区の財政運営は可能です」との説明をしました。
(略)
パンフレット33ページの「財政シミュレーション」グラフが右肩上がりになっているのは、実は「大阪都構想によって成長の好循環をうむ」というものとは無関係なのです。(略)33ページのグラフの右肩上がり(プラス収支)になる成分はざっくり以下の3つです。このうちどれか一つが欠けても、右肩上がりのプラス収支にはなりません。
成分①経済成長による税収増
成分②地下鉄民営化(2018年に実施済み)による配当金増
成分③ごみ(一般廃棄物)収集と市民プールのコストカット額をどんどん増やしていく
しかし、「成分①経済成長による税収増」については、なんと「大阪市廃止・特別区設置(都構想)」とは全く関係がなく、国の経済成長モデル(国が出した1%成長の数字)を使用しただけでした。したがって、大阪のみならず、全国どの地域でも同じ成長になります。(略)「成分①経済成長による税収増」の寄与度は極めて高く、国の成長率設定いかんで大変動してしまう。
(略)
「成分②地下鉄民営化(2018年に実施済み)による配当金増」については、「大阪市廃止・特別区設置(都構想)」と関係がないうえに、実際問題、増収になっていません。(略)2020年は新型コロナウイルスの影響で民営化された地下鉄は大幅な赤字見通しと報道されました。
(略)
「成分③ごみ(一般廃棄物)収集と市民プールのコストカット額をどんどん増やしていく」ことも「大阪市廃止・特別区設置(都構想)」とは全く関係ありません。単なるコストカットであって、「成長」ではなく、「市民サービスの悪化」でしかないのです。
私たちの社会は、生産性が十分高い段階にまで発展しました。(略)いまだに「生産性向上」のためにあくな競争をし、人間の価値を生産性によって線引きし、生産性が低いとされた人が生きる価値がないかのように社会に刻印を押され、行き場を失うのは、もったいないとしか言えません。
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