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【UMAミステリー】変なチュパカブラ

⚫️ウッド・ケッズ

これはとある現場で確認されたチュパカブラの一体である。

アナタはこのチュパカブラの異常さがわかるだろうか?

おそらく、一見しただけではごくありふれたチュパカブラに見えるだろう。

しかし、注意深く見て観察すれば、この個体のそこかしこに奇妙な違和感が存在する事に気づく。

その違和感が重なり、やがて一つの陰謀に結びつく。

それはあまりにおそろしく、決して信じたくない陰謀である。

1.知人からの連絡

9月某日、知人のワイドから
「ウッドさんに相談したいことがある」
と連絡が来た。

ワイドとは数年前に現場で知り合い、今では年数回食事をする関係になった。

ワイドには近々、第一子が産まれる。
俺と同じくUMAハンターという危険な職業に就くワイドだか、俺とは違いフリーではなく公務員。
つまりは公安のUMAハンターだ。

そんな奴が日夜税金で働きUMA共をハントていく中、一件の通報があったらしい。

「凶悪なチュパカブラが現れた」

チュパカブラなぞ物珍しいものでもない。
田舎町での家畜泥棒として余りに有名な為、イノシシやクマに次いで警戒されているUMAだ。

ただひとつ、その個体には不可解な点があった。

「人を襲って血を吸っている」

それがこの証言だ。

チュパカブラが人間を襲わないとは言わない。
だが人間という獲物は奴らにとってかなり手強い。
クマの成体だって個体としては人より遥かに強いが、その気配を感じればその場を去っていく。
ましてやチュパカブラだ。
大型犬ほどの大きさの奴らに対しては、それなりに腕に覚えのある格闘家なら血を吸われる前に楽に殴り殺せるだろう。
牛より血を吸えないし割に合わない獲物だ。
それに現れた場所も不可解であり、

人通りの多い繁華街

に現れたらしい。
主だった被害者は若い男性1人で吸われた血は少量。
男性の決死の抵抗や周囲の一般人の尽力もあり、鋭い爪による引っ掻き傷を負った人は複数いれど重傷を受けた人はいなかったらしい。
その上、通報からものの数分で駆け付けた公安UMAハンターによる排除が行われた。

つまりは既にもう終わった案件だ。

被害者へのケアも暴れ散らした街の清掃作業も既に完了している。
だが、なんとなくきみが悪いので俺に相談しようと思ったらしい。

ワイドによると「フリーUMAハンターってどうせ暇でしょ?」との事だ。

民間のUMAハンターをなんだと思ってるのか。

しかし、偶然にも俺の知り合いにオイスターというオカルトマニアがいる。
俺も「謎のチュパカブラ」という不可思議な話に少し興味を持ったので、オイスターに相談してみることにした。
決して暇だからではない。

2.オイスターの推理

オイスターには前もって例のチュパカブラに関する情報を送り、電話で話を聴くこととした。
以下、オイスターとの会話を記録する。

ウッド:よぉオイスター忙しいとこ悪ぃな。

オイスター:はっバカ言え、暇だろうがお互いよ。
ところで例のチュパカブラの件だが…

ウッド:どうだ?何か分かったか?

オイスター:うーむ…一つ言えるのはコイツは『普通のチュパカブラ』ではないって事だな。

ウッド:そう言い切れる根拠は?

オイスター:人を襲うような状態に追い込まれたチュパカブラにしちゃあ痩せちゃいないし目も明確にこちらを獲物として見ている。

(一般市民による撮影)


オイスター:例え牧場がなくたって、人間の、それも若い男を襲う理由にゃならない。そこらの散歩してる犬を襲う方が効率がいいだろうさ。
つまりはコイツは単純に偶然目についた、血肉の多い人間を襲ったて事だ。

ウッド:なるほど。しかし何故?

オイスター:そりゃあオメェ『人間の味』をコイツが覚えたって事じゃねぇか?
俺ら人間だって偏食家や変食家がいる。
何かの拍子で、例えば偶然自分の血を餌として与える変態にペットとして飼われてたチュパカブラが逃げたとかな。

ウッド:まぁ人間の嗜好は多種多様だからな。
そうでなくともペットの身から逃げて出した、噛みつきグセのある世間知らずのチュパカブラって線はあり得そうな話だ。

オイスター:ま、そう考えるわな。

ウッド:うし!じゃあこれで話は終わりだな。

オイスター:だがなぁ…

ウッド:うん?

オイスター:この現場の近く、とは言えなくもない少し離れた地点に小さな牧場があるな。

ウッド:あー確かにな。まぁ繁華街と言えどそこまで都市部って訳でも無いし、山も近いし自然豊かな地域って感じだ。

オイスター:この牧場にはチュパカブラは現れなかったのか?

ウッド:いや、そういう話は聞いてないな。遠い地点だからな。被害に合わなかったんだろう。
何か気になるのか?

オイスター:いや、最初にこの件を聞いた時、ずいぶん変なチュパカブラだなって思ったんだよ。

ウッド:そうか?まぁ急に繁華街に現れて人間の血を吸うってのは変だが。

オイスター:変だと思ったのはコイツのツノだよ。

ウッド:ツノ…?

オイスター:コイツのツノを見てみろ。何か気が付かないか?

ウッド:うーん…ん?コイツ随分とツノが立派だな。

オイスター:そう。それに傷一つない。

ウッド:そいつがなんだってんだ?
ペットだとしたらおかしくはないんじゃないか?

オイスター:いや、そうでもないさ。チュパカブラはツノ研ぎの性質がある。仮にペットだとしても適当な木やコンクリートなんかでガリガリ削っちまうのさ。

ウッド:とするとコイツは頭が重くて仕方がないと。

オイスター:まぁチュパカブラのツノは中身がスカスカだから重さ自体は問題じゃあない。だがそれでも重心は偏ってバランスが取りづらいだろうよ。

ウッド:うーん…とすると自由に動けない状態で縛られてたとか?

オイスター:虐待を受けていた…にしては肉付きが良いんだよな。

ウッド:そうだよなぁ。

───俺はオイスターに礼を言って電話を切った。
チュパカブラの写真を見る。

言われてみれば不思議なチュパカブラだ。

想像を巡らす。
繁華街に突如現れたチュパカブラ。
人間の血を吸うチュパカブラ。
不自然にツノの大きいチュパカブラ。

ペットとして飼う変人がいた?
いや、愛玩の為ならよりツノの手入れに気を使う筈。
UMA虐待ならば痩せ細って汚らしい筈。

野生の、ペットの。
位置が遠く偶然被害に遭わなかった牧場。

本当にそうか?

そのとき、ある憶測が頭に浮かんだ。
あまりにばかばかしい憶測。でも…

牧場に関する情報を調べてみる。

これは…

偶然だろうか?それとも…

3.謎の牧場

俺は再びオイスターに電話をかけた。

ウッド:よぅオイスター。たびたびすまねぇな。

オイスター:なんだ?何か気づいたのか?

ウッド:ふと近隣の小さな牧場の事が気になって調べてみたんだ。過去にチュパカブラに家畜が襲われたとかをな。そしたらとんでもねぇ。ただの一つもそんな情報は無いどころか、

他の家畜も1匹たりとも出荷してねぇ

と来た。

オイスター:ほぅ。

ウッド:それでいて経営が破綻している訳でもなく、入口を閉め切ってご丁寧に監視カメラまで付けてやがる。

オイスター:ふむ。

ウッド:そこで俺は考えた。コイツは人喰いチュパカブラ量産工場なんじゃあないかってな!

オイスター:いや、流石にそれは無いだろ。

ウッド:それもそうか。流石に無いな。
まぁ念の為にワイドにこの妄想も伝えておくとするか。

オイスター:ははそりゃあ良い。どうせ奴の方がカネ貰ってんだ。陰謀論くらい垂れ流したって怒りゃしねぇさ。

ウッド:それもそうだな。











4.暴走


そうだった。



犯人は牧場主だった。

牧場主は、経営が苦しくなるにつれて景気の良さそうな繁華街の人間達に逆恨みするようになり、たびたび家畜を襲うチュパカブラを改造し、人喰いチュパカブラとして街に解き放つ計画を立てていた。

乳を絞る乳牛のように身体を動かないように固定させ、牛と自身の血を混ぜた餌を与え続ける。

そして人間の血の割合を段々と増やし、完全に人間の血を好むように躾けたとの事。

そして繁華街に出現したチュパカブラはそのデモンストレーションだったらしい。

元々牛舎やら馬小屋だった場所には複数のチュパカブラが『飼育』されており、それらはまさに世に解き放たれる直前だったという。

5.終幕

ワイド率いる公安のUMAハンター達の手によって、早期に人喰いチュパカブラ工場は閉鎖させられる運びとなった。

当然、俺に対する報酬の類はナシ。
感謝状一つさえ貰えることは無かった。

まぁ馬鹿げた構想を間に受けたのはワイドな訳で、俺は結局現場には出向いていないから当然と言えば当然なのだが。

ウッド:やぁワイド。元気か?

ワイド:ウッドさん。ご無沙汰してます。

ウッド:さっきオイスターの野郎とも話してて、俺たちに報酬とか何も無いのは兎も角、お前達公安UMAハンター達に危険な目に合わせてちょっと申し訳ねぇなって。

ワイド:あー、実はそれについてちょっと気になる事があるんです。

ウッド:うん?

ワイド:最近チュパカブラが世間を賑わせてるでしょ?

ウッド:そうなの?

ワイド:世間離れたって最低限ニュースくらいはテレビ見た方がいいですよ。ほら、今色んな場所でチュパカブラが人を襲って血を吸って大騒ぎだって。

ウッド:…!?

ワイド:いや、まさかとは思うんですけどね。

ウッド:そう言えば牧場主って捕まったんだっけ?

ワイド:いえ、依然行方を追ってるとの事です。

ウッド:そう…か…。

ワイド:あの牧場を維持するのにもコストはかかりますし、テロ組織かどこかから支援を受けていたて線でも現在調査中との事です。

ウッド:お、おお…なんだか大変そうだな。

ワイド:いえいえ、こちらこそ面倒かけちゃって本当すいません。じゃ、また今度メシでも奢りますんで!

ウッド:おぅ、また何かあったら




ワイドは元気よく電話を切った。

ワイドが手を引いた以上、もうあのチュパカブラは俺になんの関係もない。

忘れよう。
追究したって仕方ねぇ。


俺はチュパカブラの写真を入念に丸めてゴミ箱に捨てた。

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