境界性パーソナリティ障害(BPD)関連の論文を読んで―見捨てられ不安の発生要因、そして見捨てられ抑うつとは?―
読書会にて「見捨てられスキーマが境界性パーソナリティ障害周辺群の徴候に及ぼす影響」という論文を読んだ。
見捨てられ抑うつや、見捨てられスキーマを構成すると思われる因子を知ることができて有意義だった。
参考URLはこちらをどうぞ。
論文のざっくりとした内容
①先行研究に基づいて作成した見捨てられスキーマ尺度(ASQ)の妥当性・信頼性を分析
⇒ASQの妥当性・信頼性が明らかになり、見捨てられスキーマを構成すると思われる3つの因子が特定された。
②上記の3つの因子が、BPDの中核症状である「感情の不安定さ」を経由して行動化(しがみつき・むちゃぐい・自傷行為など)に影響を与えるのではないか?という仮説を検証
⇒見捨てられスキーマと感情の不安定性との高い関連性が明らかになった。
さらに「他者からの好意に対するあきらめ」を除いては感情(不安抑うつ・高揚感・怒り)の揺らぎを媒介することなく行動化に至る可能性も示唆された。
(感想)
今回は、BPD「周辺群」ということで明確な診断を受けていない非臨床群の首都圏の大学生(①452名/②253名)を対象とした調査だった。
仮に、診断済みのBPD患者を対象にして地域や属性、年齢を限定せずに同じような調査をするとどんな結果が出るのか純粋に気になった。
以下、研究背景で提示されていた知見の中で個人的に目を引いたものをまとめてみたい。
BPD周辺群とは?
論文タイトルにもBPD「周辺群」とあったので、その明確な定義が知りたくなった。
本文中では「非臨床群の、BPDの特徴を多く有する者」という表現に留められていたので他の文献を頼ると、以下のことが明らかになった。
なお、井合論文中ではBPD周辺群にも見捨てられ不安はある、という記述が確認されている。
見捨てられ不安の要因?
本文ではマーラーの分離‐個体化理論における分離不安の概念に言及した上で、マーラーの論を発展させたマスターソンの理論を紹介していた。
どうやら「母親との分離‐個体化を経験する段階で、自我の正常な発達段階が阻害されると、その後も他者との分離に対して過剰な不安を示してしまう」のが見捨てられ不安の源泉となるようだ。
マーラーの「分離‐個体化理論」についてもう少し知りたいと思い、調べてみた。
なお、コフートはマーラーの発達理論に関して
以下のように『自己の分析』の中で述べていた。
端的でわかりやすいと感じた。
見捨てられ抑うつとは?
初めて目にした概念だった。勉強になった。
見捨てられ抑うつとは……BPDの中心的な不安であり、「抑うつ・怒りと憤り・恐怖・罪悪感・受け身性と無気力・空虚感と虚しさ」という6つの要素から成るらしい。
不勉強ゆえに初見の概念ではあるが、BPD当事者である私にはなじみのある感情や状態ばかりで妙に納得した。
この見捨てられ抑うつもマスターソンの提唱によるものらしい。
マスターソンの『自己愛と境界例』という書籍が井合論文の参考文献にあがっていたので、ぜひチェックしたい◎
(参考)
・井合真海子他(2010),「見捨てられスキーマが境界性パーソナリティ障害周辺群の徴候に及ぼす影響」『日本パーソナリティ学会』vol.19(2),pp.88-93.
・永田利彦(2019),「境界性パーソナリティ障害に対する薬物療法の有効性と限界ーー双極スペクトラム障害、自閉症スペクトラム障害の視点から」『臨床精神薬理』vol.22(7),pp.683-91.
・心理学用語集 サイコタム
・ハインツ・コフート(1994),『自己の分析』,みすず書房
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