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物語を突き動かす「悪」の動機

マズローの欲求階層説を応用した「悪の動機」を作る。コツは欲求と欲望を見分けること。

悪を生み出す六つの「欲望」とは?

物語の登場人物が行う全ての行動には理由があります。中でも特に重要なのが悪事とその動機です。善なるものばかりを書いていても面白い物語にはなり得ません。エンタテインメントにおいては悪事は華。その悪を生み出すものは欲望です。

考えてもみてください。欲望に振り回されない人生などあるでしょうか? いや、人生とは欲望そのものだと言ってもいいでしょう。少なくとも私はそうです。

強い欲望こそがストーリーに命を与え、前に進める推進力を生み出します。

そこで、欲望が人の心に忍び込むための隠れ蓑として利用する人間の欲求についてまず考えます。心理学者マズローの学説が、あなたの物語の登場人物に悪の刺激を与えてくれることでしょう。ぐっふっふ。いざ目を覚ませ、心の中のモンスターたち!

マズローの欲求段階

物語で起きる事件には動機が必要です。というよりもむしろ動機こそが事件を生むのです。そして、あなたの物語に人間性を与えるのは、まさにこの動機です。読者が衝撃を受けながらも納得できる動機を見つけたとき、あなたの物語の登場人物は実在の人間を超えるのです。

そんな動機を生むのは欲望です。そしてその欲望が模倣するのが人間が本来持っている欲求です。欲求はアクションのきっかけとしては非常に使いやすい要素です。

しかし、ご注意ください! 欲望と欲求は似ていますが明らかに違うものです

欠如しているがゆえにそれを必要とする行為が欲求であるのに対して、欠如とは関係なく欲しくなる行為が欲望です。

欲求は生命維持の為に必要なものを手に入れる本能です。喉が渇いたから水を飲みたくなったり、空腹だからメシを食べたくなるので、特殊な場合を除いて善悪とは関係ありません。

一方、欲望は人間の関係性から生まれます。隣の芝生が青いというだけで欲しくなります。友達の彼氏だからという不条理な理由で誘惑してみたくなるのです。他人の幸福を模倣したい。それが欲望の正体なのです。それがために非常に複雑で、その対象は多岐に渡ります。

注意すべきなのは欲望が欲求のシステムを真似して私たちの意識を騙して行動させるところにあります。これがなきゃ死んじゃう! と思ってしまうわけですが、実はそんなものなくたって死にゃしないものがほとんどなのです。

人間を描くために、私たちは悪の動機である欲望の尻尾をつかむ必要があります。そこで、まずは欲望がモノマネする欲求についてしっかり認識することが重要です。欲求の研究者、アブラハム・マズローの非常に有名な研究成果を紹介します。ぜひ、あなたの物語に応用してください。

マズロー Maslow, Abraham H.(心理学者 1908~1970 アメリカ)

欲求階層説

マズローは人間の欲求を五段階に分類。人間は低次の欲求が満たされると、高次の欲求を満たすように動機づけられているとした。

1.生理的欲求/食欲、睡眠欲、排泄欲など生存に関わる基本的欲求
2.安全・安定の欲求/安全、住居、衣服など
3.社会的欲求/集団に属したり、仲間に受け入れられたりすること
4.自我・自尊の欲求/尊敬されたい、名声を得たいなど
5.自己実現の欲求/自己の能力を発揮して目標を達成すること

なお、本講座では、これにさらに

6.自己超越の欲求/現状の自分の限界を超える

という説を加えて、以下の六つの欲求段階から動機となる欲求を選ぶことにします。

※以下はあくまでも「ストーリー作り」のためにまとめたものです。純粋なマズローの理論そのものとは異なる点があります。従って、学生諸君は試験勉強にはこのまま使わないほうがいいと思いますぞ。

人間の行動の原点である「欲求」(マズローの欲求段階より)


生理的欲求
★サバイバル
★食欲や性欲及び睡眠・排泄・空気・庇護・睡眠への欲求、金銭欲や、俗にいう物欲など、人間が生きる上での根源的な生理的欲求

安全の欲求
★安心と安全
★自分の身を守るための住居、衣服など、安全・安定・依存・保護・秩序に関わる欲求

親和の欲求
★愛と帰属意識
★家族の中に居場所が欲しい、愛されたいなど、自分を暖かく迎えてくれる集団や人を求め、他人と関り、他者と同じようにしたいという集団帰属の欲求

自我の欲求
★尊敬と自尊
★地位や名声を得たいなど、自尊心を満足させ、自分が集団から価値ある存在と認められ、尊敬されることを求める認知欲求

自己実現の欲求
★自分がなりたいものになりたい。自らの才能や能力を開花させ、目標を達成したい。自分の能力、可能性を発揮し、創造的活動や自己の成長を図りたい……などの欲求

自己超越の欲求
★知識欲と理解欲
★審美的欲求
★調和や絶対的な秩序、偉大なるものとの結びつきを求める、神になりたい、限界を超えたい、今までや現状の自分自身を超えたいという欲求

以上の、欲求を模倣して巧みに人の心に忍び入るのが欲望です。作者はここをしっかり認識していないと、単なる欲求だけで悪を語る、なんとも底の浅い読み物を作ることになりかねません。

欲望と欲求。この差異を嗅ぎ分けるのが人生の知恵の使いどころであり、あなたの物語に深みを与える力となることでしょう。



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