少し前の話になります。
暖かくなると、敷地が広くて駐車場が無料のためか、作陶体験のついでなどで家族連れの来館者が増えて来ます。
当館は、吹き抜けが多くて天井が高いため、音が響きやすい構造をしていますので、展示室内で座っていると、遠くから子供さんの歓声が近付いてくるのがはっきりわかるほど。
『むむむ』なパターンとしては、展示室内に入るのとほぼ同時に、『帰ろうよー』という声が響き渡るもの。親御さんが展示に夢中でも、子供さんにしてみれば薄暗い室内で、何だかわからないがらくたを観ても楽しめないという事なのでしょう。入口から出口まで展示室内をずーっと移動する『帰ろうよー』の声はなかなか辛いものがありますね。ひどい時にはソファーで寝転がって大きな声を出したり。他の来館者が不愉快な思いをされないようにお声掛けしますが、同じく料金を払った観覧者ですからね。悩ましいです。
一方、『ふふふ』なパターンとしては、以前の弥生時代の展示の時の事が、印象に残っています。その方は、若い世代のお母様と、ベビーカーに乗るようなお子様という組み合わせで来館されて、ロビーでもはしゃぐ声が響いていたので、展示を観ることが果たしてお子様に出来るのかと心配していました。お母様はどうやら研究者でもあるようで、かなり熱心にじっくり展示室内を観るタイプに思えました。またお子様の『帰ろうよー』が響き渡るのかと思っていたところ、お母様は、お子様に向かってケース内を指差して、『これはなーに?』と質問しました。お子様の見た目的には2歳位、なんて答えるのかと思っていたら、『どきー』……正解ですよ。しばらく進んでまたお母様が『じゃあこっちは?』というと、また、『どぐー』…その通りです。多少大きな声でも、ちゃんと展示を楽しんで、『観て』いるのが同じ室内にいる他のお客様にも伝わって、ほっこりと見守る雰囲気になりました。
小さな子供だからといって、最初から『解る筈がない』とか、『楽しめる筈がない』というのは、大人の勝手な思い込みでしかないのだと気付かされた出来事でした。
大人が、『展示の楽しみ方』を事前に教えることで、子供さんでもそれなりの楽しみ方で作品を観賞することが出来るという事なのでしょうね。
博物館美術館には、『生涯学習』のための『社会的教育機関』という機能があります。大人だけのための施設ではないんですよね。ただ静かにしろというだけではなく、夢中になって『展示を楽しむ』という経験を子供さんにもしてもらいたいと、しみじみ思えた出来事でした。
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